2-6-3 「”アタマ”から信じてくれないの…、」
2-6-3 「”アタマ”から信じてくれないの…、」 耳より近く感じたい
片山の父親が、声を荒げる。
「成斗!」
感情を吐き出したい衝動が、片山を…飲み込む。
「俺が…襲われて、飲まされた薬か何かを抜くために入院してても、
症状が出て、喚きながら暴れて苦しんでる時も…
アンタは見舞いにも来なかった…何で?
その後も、ずっと俺を疑って…拒絶して、周りばかり気にして…
何で…っ、
”アタマ”から信じてくれないの…、
…俺がそそのかした? 誘った?
そんなワケあるかよっ!
あのせいで俺は、俺は母さんにも触れなくなったのに!
…触れてもらえなくなったのにっ、
…それすらもアンタは信じないんだろう!
…もういい、帰る」
片山は立ち上がり、部屋から出ようとする。
「待て!」
父親が片山の肩を掴み、背を向ける息子を振り向かせる。
「あなた、やめて!」
母親が近付く。
「母さん、駄目だ、来るな!」
片山は母親に向かって叫ぶ。
「まだ話は終わってないぞ!」
「だから、もうアンタに話す事なんか何も無い…」
「成斗、行くな!」
バンッ!
片山の両肩を掴み、壁に押し付ける。
「やめて、あなた!!」
二人の間に母親が割って入り、息子を抱きしめて父親から引き離す。
ド、クンッ!
「!は…ぁっ、」
片山の身体が硬直する。
嫌な感覚が蘇る。
全身が痺れ、目の前が真っ暗になる。
そして…意識が飛ぶ。
ドクン、ドクン、ドクン…
「…離せ、…触るな…や…めろ、
離れろ、俺に触れるな…触るな!」
「ああ、ごめん成斗、母さんよ、しっかりして!」
「いやだ…離れろ、俺に触れるな!
離せ!触るな!…ハァハァ、嫌だ
いやだ…い…やだ、ハァハァ」
「成斗!成斗!目を見て!正気を戻して、成斗!」
母親から離れようと両腕をバタバタさせる。
振り払おうとする腕に力が入ったり入らなかったりしている。
父親は呆然とする。
「何だ…、コレは、成斗…」
「触れるなっ!嫌だ…離れろ…
やめろ…ハァ、俺に触るな、触るなっ!」
「あなたも見てないで、押さえつけてよ!
成斗、しっかりして!」
妻に言われ、息子を制しようと近付くが、あまりの変貌ぶりに戸惑い、どう対処すればいいのか分からない。
片山はまだ喚いている。
「ああ…いやだ、ハァハァ、嫌だ、俺に触れるな!離せ…やめろ、触るな…はぁっ、よせっ!触るな…やめて…」
父親から受けたストレスと緊張、症状も出てしまい、意識は飛んでいる。
正気に戻してくれる人はいない。
最悪な状態で体力が尽きるまでこのまま喚き暴れるのか…。
バターン!
「成斗!!」
兄の大智が部屋に入ってきた。
「退けッ!!」
傍で狼狽える父親を突き飛ばし、母親を引き離す。
「ハァハァ、触るな、離せ…ハァハァ、
嫌だっ!いや…いやだ、ハァハァ」
「成斗!兄ちゃんを見ろ!」
大智は、弟の腕ごと抱きしめて押さえ込む。
「ハァハァ、離せ、はな…せ、」
「大丈夫だ、成斗、大丈夫、何もない」
ハッキリとした声で、優しく語りかける。
「ハァハァ、い…やだ、ハァハァ」
成斗を抱きしめる腕で締めつける。
痛みが刺激を与え、弟が戻ってくるように。
「大丈夫、大丈夫だから、安心しろ、何もない
成斗、大丈夫だからな、大丈夫だ」
片山の意識が徐々に戻ってくる。
「ハァハァ、あ…にい…さん」
「成斗、大丈夫だから」
「ハァハァ、何で…居るの?
ああ、そうか…ハァ、ハァ、
また俺は、俺は…」
片山の膝がガクンと折れる。
兄とともにズルズルと床にへたり込む。
「また…出たんだ、ハァ、ハァ、やっと…触れられるようになったのに、俺は…」
片山は涙を流しながら呟く。
「ぁぁ、…お、と…は…、遠…い…」
「成斗…大丈夫、お前は悪くない」
憔悴、落胆、疲弊、悲愴、疲れ切った片山は、ガクリと頭を下げ、気を失った。




