2-6-1 「大丈夫、明日が終われば」
2-6-1 「大丈夫、明日が終われば」 体育祭当日 耳より近く感じたい2
ーー6月第二週金曜日(6/12)
体育祭当日、音波のクラス1組は、午前の部を学年3位で終わった。
片山の2組は1位、佐藤の3組は2位、梶の4組は4位だった。
今年の体育祭は、朝から女子達がザワついている。
特に2組のエリアは競技のない女子が意味もなく通り過ぎていく。
片山が、今日は眼鏡を外すかもしれないからだ。
そして、午後の部でより一層騒がしくなる。
競技は400mリレー。
片山は、同じクラスで軽音学部の田中に眼鏡を預ける。
今日は伊達メガネのようだ。
各クラスの選出されたメンバーが位置につく。
2番手3組佐藤、3番手4組梶、アンカー2組片山。
始まる前から黄色い声援が飛ぶ。
「位置について、よーい」
パアーン!
2組1番手の女子が速い。
1位で男子2番手にバトンを渡す。
その2番手もなかなか速いが、3組2番手の佐藤が追いつく。
そして同時に3番手女子にバトンを渡す。
ここで遅れた4組の追い上げが来る。
3番手の梶がバトンを受け取り、本気モードで追い上げ、追い抜く。
4組、3組、2組の順にバトンをアンカーに渡す。
片山がバトンを受け取り走る。
前を走っていた3組男子をあっさりと追い抜き、差を広げていく。
すぐに4組男子も追い抜き、離していく。
片山は、後ろとの差を広げ、一着でテープを切る。
ワアーッ!
片山は、クラスの3人(男子1人、女子2人)と左手でハイタッチした。
リレーの順位は1位2組、2位4組、3位3組、4位1組、5位5組だった。
佐藤が言ったとおり、片山は走るのが速かった。
リレーメンバーが、各クラスのエリアに戻ってくる。
「お疲れー」
「おめでとう」
「お疲れ様」
各々祝福や労いの言葉が交わされる。
「今年のリレーも凄かったね」
音波が宮野に言うと、
「オトちゃんも大変ね。
今年は何も知らない1年が、来週から煩くなるわよ。
やっぱり眼鏡って邪魔なのかしらね」
と宮野がかえしてきた。
その後の競技は進み、狩り人競争の番になった。
音波はお題の紙を見る。
『一番背が高い先生』
音波は1年生の時の担任を探す。
そして見つける。
「先生、来て、お題が先生なの」
「いいぞー」
背が高い先生と低めの音波が走る姿は、皆の笑いを誘った。
学年総合1位は2組、残りは3組4組1組5組の順だった。
こうして体育祭は無事に終わった。
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体育祭が終わり、一緒に帰る音波と片山。
音波は嬉しそうに言う。
「リレーで女子とハイタッチしてた」
「…ああ」
「触れられるようになったんだね」
「…ああ、男子とした後、流れで女子とも出来たんだ。
音波のおかげで、出来た」
「え?」
「この前、音波が確認してくれたから」
そう言い、片山は音波に笑顔を向ける。
「あ…、うん。
私、役に立ったんだ。
嬉しい」
「…うん。
この前の誕生日の時みたいに出来たらいいな、
普通の人と同じように、いつか音波にも触れてほしい…」
「片山くん…」
「ゆっくりだけど、俺だけ音波に触れてる。
俺がもっと頑張らないとな…、」
少し切なそうな表情で、片山は音波の頭を撫でる。
(片山くん…私のことを気にしてくれているんだ…)
音波は明るく言う。
「片山くん…、ありがとう。
でも、焦ったらだめだよ?
私は大丈夫、ゆっくりいこう」
「…ああ」
片山は、少し険しい表情になる。
「音波、明日は忙しいから、連絡取れないと思う。
時間帯によっては、電源も落とすから」
「うん、わかった」
「もし何かあったら、メッセージ残しといて。
返事は遅れると思うけど」
音波は不安になる。
「うん、…ねえ、片山くん」
「何?」
「何か心配事でもあるの?」
前を向く片山。
数秒の沈黙の後、
「…大丈夫、明日が終われば大丈夫」
そう言って、片山は音波の頭に手を乗せた。
ーーその日の夜、日付が変わる前、
プルルル…プッ、
[大智? 母さんだけど、今、話してもいい?]
久しぶりというほどではない、月イチで連絡を取り合っている母親からの唐突な電話に、片山の兄、大智は胸騒ぎを覚える。
「どうしたお袋、月半ばで連絡寄越すなんて。
今からバイトだから、手短に頼む」
[…今日、お父さん帰ってきた]
大智は驚く。
「え…、何の用で?」
[帰ってくるなり、いきなり言ったの、明日成斗と話をするって。
もう成斗には連絡してあるって言ってたから。
話をするのが成斗だけなのは変だし、大智は、もしかしたら成斗からは聞いてないのかもと思って連絡したの]
(何も聞いてない、成斗のやつ…)
大智は母親に訊く。
「明日、親父と会うの、何時?」
[多分、午前だと思う…、土曜の夜はご飯要らないって言ってたから、お父さん午後か夕方には仕事先に戻ると思う]
大智は焦る。
「午前??
俺、もう朝まで帰れない…
どうしよう、母さんは絶対に成斗に直に触るなよ?
いい? 俺もバイト終わったら直ぐに行くから」
[分かったわ。母さん出来るだけ守るから]
「あぁもうバイト入らないと、呼ばれたから切る」
[分かった]
プツッ、
(成斗のやつ、いつ親父から連絡来たんだ?
最近サポートも要らないから、生活がすれ違いになってた…
何も起こらなければいいけど…)
バイト中は、スマホには触れない。
終わるまでロッカーの中。
大智は、今すぐに弟に連絡したいのを我慢した。




