2-5-4 ギターとマイク
2-5-4 ギターとマイク 耳より近く感じたい
ーー日曜日(6/7)
バンドの練習の為、片山の兄、大智は修の車で大学に向かっている。
車を運転しながら修は大智に訊く。
「大智、お前ギター触ってる?」
「え、何で?」
「いや、なんとなく」
「…修がいるんだからいいだろ」
修が思い出しながら言う。
「中学の頃から俺より上手かったのに。
最初にバンドを組んだ時、5人だっただろ?
やっとボーカルが入ったと思ったら、1ヵ月で抜けちゃって。
その後、俺等の方向性に合う奴がなかなか見つからないからって、いきなり俺がやるなんて言い出して…。
お前が転向したから、俺等の今が在るけどさ」
大智は、少し険しい顔になる。
「…、俺、歌う方が合ってたんだよ、必要なのはマイクだけだし。
作曲なら、今持ってるやつで充分だし」
修は大智を横目で見ながら言う。
「まあな、ギターは金かけようと思ったら、幾らでもかかるけどな。
それに、どれだけ”ギターに触れる時間を作れるか”だもんな」
大智は明るく言う。
「…、修、次はバラード曲とか作らない?」
「大智、お前話をはぐらかすの、下手過ぎ」
「…」
信号待ちで、修は大智を見る。
「大学卒業するまでに、お前と作ったツインギターの眠らせてる曲を、一緒にライブで演りたいからさ」
大智は、懐かしそうに言う。
「あぁ、あの曲か…、」
「そうそう、少しは時間作って弾けよ」
「…時間があればな」
「ナルにも彼女出来たんだし、そろそろ自分の時間大事にしてもいいんじゃないのか?」
「!」
大智は修の方を向く。
「修、お前…、」
「お前に追いつこうと、俺がどれだけお前の家に入り浸ったと思ってんの。
お前が話さなくても、ナルやお前の母親を見てたら分かるって」
「…、」
信号が変わり、修はアクセルを踏む。
「慎司に歌わせて、二人で演らない?
速いのでもバラードでもいいから」
大智は悲しそうな顔で言う。
「…、俺もう指動かない、啓太のほうが上手いんじゃない?」
佐藤を思い浮かべながら、修は言う。
「啓太はお前に教えてもらったからな。
どれだけ上達したかな、あいつ。
そういえば、昔お前がサイトにあげたオリジナルの『弾いてみた』、未だに再生回数回ってるぞw」
大智は忘れたフリをする。
「え、俺何かアップしてたっけ、忘れた」
(成斗の事に集中するからって、最後に思いっきり弾いたやつか…)
「40,50過ぎて始めた人達も弾けるようになって、動画とかアップしてるんだからさ。
お前なら直ぐに戻るって、イケるって。
大智、時間作って弾けよ」
「…」
修はため息をついた後、いきなり話を変え、大智に訊く。
「で、この間の親戚って、大智の彼女?」
大智は慌てる。
「は? 何で?」
「いや、好き過ぎて困っちゃうーって感じで抱きついてたから、彼女」
大智は、焦って否定する。
「いや、彼女じゃないって。
あいつは、ああいう性格//」
「そうなの? お前も満更でもなさそうな感じだったから…彼女の…」
「だから彼女じゃないって、親戚!//」
修は、思った。
(やっぱり兄弟だねぇ、反応が同じじゃないか…)
そうこう話しているうちに、修が運転する車は大学に到着した。
大学専用駐車場に車を停め、歩く大智と修。
前方から、男一人と女二人が歩いてくる。
近付くにつれ、話し声が聞こえてくる。
「…樹、今夜行くから。夏の予定早めに決めないと」
「ああ、そうだな」
「円井さん、順調そうですね」
「ああ、お陰様で」
接近した時、修が樹に声をかける。
「あれぇ、樹さんだ。
苗字、樹じゃなくてマルイって言うんだ。
知らなかった」
樹は答える。
「慎司は知ってるけど?」
「あ!そうか。
だからか、写真選ぶの樹さんの妹さんに頼んだのは」
「ああ、そうだよ。妹が君たちのファンだからね」
「成程ね」
…大智は驚く。
(妹? 全然似てないじゃないか、どういう事だ?)
修は言う。
「今年の3月に池谷でライブした時、久しぶりにオトハちゃんに会ったけど、樹さんとオトハちゃんて兄妹だったのか」
樹が訊く。
「音波と会ったのか」
ここで清香が話の間に入る。
「樹、次の予定があるんだから急がないと」
「そうだった。悪い、話の途中だけど、また」
樹と清香は車に乗り込み、行ってしまう。
大智は残った女子に尋ねる。
「樹さんと妹って…似てない」
「ああ、なんか清香がボヤいてたわよ。
血は繋がってないけど”兄妹”だって。
だから面倒だって。
樹さん、相当なシスコンらしいから…
じゃあ、私行くわね」
大智は思い出す。
(慎司が時々話してた円井って、樹さんの事だったのか…
オトハちゃんとは血が繋がってない?
…義兄弟?)
修が言う。
「ナルとオトハちゃんが将来結婚したらの話だけど、樹さんとお前、兄弟になるかもしれないんだな」
大智は話を逸らす。
「まだ気が早いって。
それより修、お前はどうなんだよ。
色恋の話、お前から全然出ないんだけど」
修は明るく答える。
「俺? 俺は…、今は女を触ってるよりギターを触ってる方が、何倍も楽しいからな!」
「…」
大智は、ひとつの事にただ一直線に没頭し、突き進んでいるように見える修を、羨ましく思った。




