2-4-2 着替えがない 成斗の誕生日(2)
2-4-2 着替えがない 成斗の誕生日(2) 耳より近く感じたい2
写真展が開催されている国立会館を出て、駅に向かう。
「音波、お腹空いた?」
「ううん、大丈夫」
「ここら辺にも店はあるけど、調べたらどこもレビューが悪くて。
一旦街に戻って店入ろうと思うけど、それでいい?」
「うん、いいよ」
「途中で地下鉄に乗り換える」
「うん、わかった」
ーー
音波たちは地下鉄を降り、地上に出る。
「あれ? ここら辺って…」
音波は見覚えのある景色を不思議に思う。
片山は音波に言う。
「そう、俺んちの近く。
少し前にオープンした店があって、栄太郎さんと何回か入ったことがある。
イタリア系の店で、美味かったから」
2月に片山とタクシーに乗ったときに通った道だったから、見覚えがあったのである。
そして、音波はイタリア系の食べ物が大好きなのだ。
「イタリア? ドリアとか?」
「うん」
「わぁ、楽しみ」
音波の顔が、ぱあーっと笑顔になる。
店に入る。
高校生には少し大人っぽく感じる雰囲気の店内ではあるが、実際は制服姿のグループや親子連れなど、客層に幅がある。
スタッフが声をかける。
「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」
片山は言う。
「2名で」
「かしこまりました、
こちらへどうぞ」
スタッフに先導され、席につく。
片山は店内を見ながら言う。
「夜しか来たことなかったから、昼間はこんなに明るいんだな」
音波は片山に質問する。
「明るい? 店内が?」
「そう、昼と夜で店の顔が変わるってやつ。
夜は全体が薄暗くて、テーブルライトが目立ってる感じ」
「へえ、そうなんだ…見てみたい」
音波は、片山の言葉のみで勝手に想像する。
「大人の客が多いよ。
酒呑んでる会社員を見て、栄太郎さんも早く飲みたいって言ってた」
片山はメニュー表を音波に渡す。
「決まったら教えて、注文するから」
音波はミートドリアに決めた。
片山が選んだのはミートソースとサラダだった。
注文したメニューが来て、2人は食べ始める。
片山は、自分が3分の2食べ終わった時点で、音波の食べるペースに気づく。
(あ、ドリアは熱いから…)
多少無理はあったが、サラダで何とか時間を保たせ、音波より少しだけ早く食べ終わるように調整した。
「ごちそうさまでした。
凄く美味しかった」
音波の笑顔を見て、片山はホッとする。
「そう、よかった。
じゃ、精算してくる。
音波はゆっくり来て」
片山は注文伝票を持ち、レジカウンターに向かう。
音波は思う。
(え? ちょっと待って?
今日、全部片山くんに出してもらってる…)
音波はレジで片山に言う。
「片山くん、私が払うよ」
「え、何で? いいよ」
「だって、今日片山くんの誕生日だよ?
私がお祝いしたいのに、全部出してもらってる…払わせて」
「あー、駄目、ポイント欲しいから」
「でも…」
「店、出よう」
精算を済ませた片山が店のドアを開ける。
ポツッ、ポツッ、
ポツポツッ、ポツポツッ…、
「え、何で? 嘘だろ…」
片山はボソッと言った。
片山の誕生日デート、朝からスムーズに行っていたのに、食事を済ませたところで運悪く、雨が降ってきた。
サーーー……
「雨、降ってきちゃったね」
「ああ」
店の前の屋根で雨を凌ぐ。
ゴロゴロゴロ…
雷も鳴り始めた。
「音波、雨がひどくなる前に、一先ず俺んちに移動しよう、いい?」
片山は音波の方を向く。
「うん、わかった」
音波が頷いたので、片山はフードのついた上着を脱ぎ、音波に着せ、
フードを音波の頭に被せる。
「片山くんが濡れちゃう」
「俺は、いいから。
音波、走るよ」
片山は音波の手を取り、走り出す。
サーーー…
バシャッバシャッ、…
時々屋根のある所で僅かばかり留まりながら、片山の住むマンションを目指す。
ザーーー…、
ようやくマンションのエントランスに辿り着く。
「結構濡れちゃったね」
「早くタオルで拭かないと…」
エレベーターに乗り、5階を押す。
「…雨が降るのは夜からって予報だったのに…
天気予報は当てにならないな」
5階に停まったエレベーターを降り、503号に行く。
解錠し玄関のドアを開け、中へ入る。
「音波、そこで待ってて。
今タオル持ってくる」
片山は洗面所に行き、浴槽に湯を張ったあと、タオルを数枚持ってきた。
音波はフードのついた片山の上着を脱ぐ。
それを片山は受け取り、洗面所のカゴに放る。
自分のことは後回しにして、音波の頭を拭く。
「片山くん、大丈夫だよ」
「早く体を温めて着替えないと」
と言ったところで、片山は…はたと気付く。
「あっ、」
(…着替えがない)
音波の頭を拭く片山の手が止まる。




