2-4-1 「この写真…知ってる」 成斗の誕生日(1)
2-4-1 「この写真…知ってる」 成斗の誕生日(1) 耳より近く感じたい2
ーー片山の誕生日(5/30)
初めて恋人同士で迎える片山の誕生日。
音波の時間を欲しいと言っただけで、結局当日まで片山は他の要望を言わなかった。
待ち合わせ場所は、去年の12月26日に偶然を装って会ったモールの最寄り駅。
音波が乗ってきた1番線で待つように言われている。
「音波」
声がする方を向くと、眼鏡をしていない片山が歩いてきた。
相変わらず後ろの髪の毛が跳ねているし、相変わらず格好良い。
「悪い、待った?」
「今さっき電車を降りたとこ」
「そう」
「音波、今から言うやつから行きたい所、選んで」
「うん、?」
「映画なら2番線、
水族館なら3番線、
写真展に行くなら4番線。
ちょうど今、雨根孝義の写真展が開催されてる。
お前、写真撮るの好きだろ。
ちょっと遠いけど。
音波、何処に行きたい?」
自分の誕生日なのに、音波の好きそうなところを選んでくれている。
音波は悩む…いや、片山の話を最後まで聞いた時点で、本当はもう決まっている。
(片山くんが、どんな映画選ぶか気になるし、
水族館も一緒に行きたい…でも、)
「私、写真展に行きたい」
「わかった、じゃあ4番線に移動な」
「うん」
片山は何も言わずに、音波の右手を握り、歩き出す。
そして4番線に移動し、電車に乗る。
ーー
街の中心から離れて、緑が多くなってきた辺りで電車を降りる。
駅からそう遠くない場所に国立会館があり、そこの一番広い多目的ホールで、写真展が開催されている。
写真は年齢別に展示されている。
10代、20代、30代、40代…
雨根の写真は、10代後半から変化している。
『…学生の頃、友達が音楽をやっていて、写真を撮ったのがキッカケですね。
どうすれば、彼らの熱を伝えることが出来るか。
臨場感とか、汗のひと粒まで。
近くでも、遠くでも、この一瞬を僕が伝えようと思ったんです。
その頃の全員には会えないんですけど、彼らのお陰で今の僕が在るんです…』
雨根のコメントと共に展示されていたのは、学園祭だろうか。
ステージ上で5人が演奏している写真だった。
その写真を見て、音波は片山の服の肘あたりをギュッと摘んだ。
「片山くん…」
「どうしたの? 音波?」
音波は震える声で言う。
「この写真…知ってる。
お父さんの部屋に飾ってある」
「え…そうなの?」
片山は驚く。
「うん、このモニタースピーカーに足を掛けてるの、お父さん。
私、この写真見て、素敵だなって思って…。
それで私も写真撮るようになったの…下手だけど」
「…そうか」
「凄い人が撮った写真だったんだ…」
片山は、音波の肩に手を掛け、そっと寄せる。
「此処にして良かったな」
「うん、連れてきてくれてありがとう」
涙をためながら、音波は笑顔で言う。
「…ん」
展示されている写真を見ながら、音波と片山は話す。
「音波の親父さんに、去年シールド頼まれてたよな。
写真でギター持ってた。
今も弾いてるんだな」
「うん。
時々、部屋に籠ってることもあるよ」
「へえ、そう、ギターが好きなんだな。
音波の親父さん、スタジオとかには行かないのか?」
「行ってるよ、知り合いの人の所で弾いてるみたい」
「あー、そう」
音波は片山に訊く。
「そういえば片山くんってスタジオで練習したりするの?」
「あー、うん、入って練習したりしてる」
「そうなんだ。佐藤くんと一緒に練習してるの?」
「 あー、あと1人、最近一緒に入ってる奴がいる」
「そうなんだ。 同じ学校の子?」
「いや、2個上の人。スタジオで知り合ったんだ」
「ふーん、 じゃあその人大学生なのかな」
「ああ。
初めて一緒に演った時、すごく気持ちよかった。
なんでかわからないけど、ゾクゾクした。
啓太以外では初めてだったから、自分でもびっくりした」
「そうなんだ。
ふふっ、 楽しかったんだね、その人と一緒に演奏するの」
「ああ、楽しかった」
片山の感情が少し顔に出ているのを見て、音波は嬉しくなる。
「片山くんがステージで演奏してるの、私、また見たいな」
音波の言葉を聞いて、片山の顔が曇る。
「兄貴のバンドのサポートもあるし、俺はヘルプでできればそれで十分だ」
片山の表情が変わるのを見て、音波は考える。
(片山くん、きっと自分の体のことを気にしてるんだ。
もしかしたら、佐藤くんもそれを分かってて、いつも一緒にいるのにバンドの話が全然出ないのかな?)
音波は片山に言う。
「片山くん、やりたいことはやった方が 良いと私は思うよ。
今じゃないとできないこともあるし…」
片山は首を振って言う。
「俺には、自分のことよりも優先するべきことがある。
たまにスタジオで遊ぶくらいで十分だ。
それ以上は、望んでない」
「片山くん…」
音波はこれ以上追求しないことにした。
「 今度、誰かのサポートでドラム叩く時は教えてね。
私、”応援するから” 」
音波は笑顔で片山に言う。
片山は笑顔で話す音波を見て、 頭の奥に鈍い痛みを感じる。
(つっ、)
『…応援するから』
片山は歩く足を止める。
「どうしたの? 片山くん?」
「いや、なんでもない。
ほら音波、俺の話はいいよ。
せっかく来たんだから、写真見ないと」
「うん、そうだね」
2人は、展示されている写真の続きを見る。
頭の鈍い痛みはすぐに取れたが、隣にいる音波を見て片山は思う。
(…、今のは何だ? この前もそうだ、たまに襲う不快ではないこの痛み…
何に反応して出る?)




