2-3-4 誕生日の”30日”は
2-3-4 誕生日の”30日”は 耳より近く感じたい2
ーー翌、火曜日(5/19)
駅のホームに電車が停車する。
音波は電車を降り、ホームから階段を下りる。
そして改札口を出て東口の階段を下りる。
「片山くん、おはよう」
音波は声をかける。
「おはよう、音波」
昨日の重苦しい表情はしていない。
少し疲れているような感じはするが、片山は穏やかな顔をしている。
「待った?」
「いや、さっき来た」
「そうなんだ」
「音波、手」
片山が右手を差し出す。
「手、はい」
音波は左手を乗せる。
二人は手を繋ぐ。
「…ん、行こう」
「うん」
二人は歩き出す。
駅を出て直ぐにある、青信号を渡る。
そして二人は話す。
「片山くんの誕生日、5月30日なんだね」
「え、何で知ってるの?
俺、話した?」
「昨日、佐藤くんに聞いた」
「啓太に?」
音波は頷いて言う。
「うん、片山くん忙しそうだから。
何か欲しい物ある?
誕生日プレゼント」
「あー、直ぐには思いつかない。
…別にいい」
「あ!同じだ」
「なに?」
音波は片山を見上げて言う。
「去年の夏休み、私がバイト最後の日、片山くん同じ事言ってた」
「そう…だっけ?」
片山は首を傾げる。
「うん、あのときのお礼もまだだし、何か考えて」
「…そうだなぁ、」
片山は少し考える。
「…30日は、音波の時間、俺に頂戴」
「うん? 勿論…それだけ?」
音波の問いには答えず、片山は話を変える。
「音波の誕生日は? いつ?」
「私? 12月14日」
「あー、そう…寒いときに産まれたんだな」
そう言って、片山はスッとスマホをポケットから取り出し、カレンダーに入力する。
2つ目の青信号を渡る。
「音波、コッチ」
と言って、片山は音波の右側に移動する。
「ありがとう」
音波と片山は、下足置き場で手を離す。
階段を上がりながら、片山は言う。
「昨日の今日でまだだろうけど、中條の手伝いする日が分かったら教えて。
見に行くから」
「うん、もちろん」
「…ん、それと…」
1組の教室前まで来る。
「今日は晴れてるから、昼、屋上な」
音波は笑顔で言う。
「うん!わかった」
片山は、右手をヒラヒラさせたあと、2組の教室に入っていった。
音波も教室に入り、自分の席に着く。
中條は、二人を静観する。
まだ、動かない。
ーー週末、土曜日(5/23)
音波の兄、樹の仕事場で、スマホの着信音が鳴る。
プルルル…プッ、
[もしもし、樹?
父さんだけど、今話しても大丈夫か?]
「ああ、大丈夫だよ。
今丁度、休憩中だから」
[31日の日曜なんだが、出張が入ってしまった奴がいてな。
前の日の土曜にしてくれると助かるんだが、樹の都合はどうだ?]
「その事なら、土日で予定空けてるから心配しなくていい。
音波は土曜日は学校あるの?」
[いや、休みだ。
昼間は友達と出かけるらしいがな。
久しぶりに家族4人で、夜は食事でも行くか?]
「そうだな、音波と話したいし。
勿論母さんとも話したいし」
[茂樹が亡くなって、もう1X年か…、今年は皆で行けるな。
樹が立派に成長してる姿、今年も見せに行こうな]
「ああ、父さんと母さんのおかげだよ。
仕事も順調で、いい感じに成長してるし。
育ててくれて、本当に感謝してる」
[俺達の方が感謝してる、樹が俺達の家族になってくれて。
後で産まれた音波の事を、大切にしてくれて嬉しいぞ。
血は繋がってなくても、樹と音波は実の兄妹以上だ。
本当にありがとうな]
「…、ああ、そうだな、兄妹だ、」
[じゃあ、30日で頼むな]
「分かったよ、養父さん」
プツッ
樹は、独り言を言う。
「フゥッ、兄妹か、なんで兄妹なんだろうな…」
(養父さん達の為にも、この気持ちは絶対に知られてはいけない…
家族としての関係が壊れたら、一番悲しむのは音波だから…)
「樹、また辛そうな顔してる、大丈夫なの?」
「ああ、清香か…」
「長い付き合いなんだから、分かるわよ」
「…」
椅子越しに清香は、背中から樹を抱きしめる。
「樹が弱ってる顔をする時は、決まってるから」
「!」
樹は、堪忍したように言う。
「全く、俺はお前だけには敵わないな…」
樹は、自分の胸に絡まる清香の腕に優しく手を掛けながら言う。
「想いを断ち切ろうと、大学進学を機に家を出たのに、
妹から離れたのに、俺は全然変わってないんだよ…
妹に好きな人が出来たら、応援してやろうと思う反面、
誰のものにもなって欲しくないって思ってしまう…
相当イカレてるんだよ、俺は…」
「だったら、思い切って近付いてみれば?
夏休みとか利用して、近くで見てみなさいよ。
どうせ何人か人を入れる予定なんだし。
暫く離れてた分、違う一面が見れるかもしれないわよ」
「そうだな…、いい加減気持ちを吹っ切らないとな」
「ええ、それまでは…都合のいい彼女でいてあげるから」
「…」
「大好きよ…樹」




