2-15-1 信用
2-15-1 信用 耳より近く感じたい2
--8月第4週、土曜日(8/22)
音波は気持ちがモヤモヤしつつも、何とかミス無くバイトをし、大学合同軽音祭当日を迎える。
今年も去年同様、梶と駅で待ち合わせをし、会場へ向かう。
梶が言う。
「ねえ、音波、今年は何処で観る? また2階席の前とれるかな」
「うん、」
「啓太が言ってたけど、今年は有名なバンドが参加するんだってよ。
音波知ってた?」
「うん、」
「だからかな、去年より人多いよね、みんな会場に向かってるのかな」
「うん、」
梶は音波の方を向き、怪訝な顔をする。
「音波、どうしたの?」
「うん、」
音波の意識を戻すため、梶はワザと嘘をつく。
「あ、片山だ」
「うん、え?」
音波は顔を上げる。
梶は言う。
「音波、変だよ、どうしたの? さっきからうわの空で返事して」
「あ、ごめん実花、ちょっと考え事してて」
「考え事? 何?」
「ねえ実花、佐藤くんに言えない悩みがあったら、誰に相談する?」
「え、ナニそれ。
悩みの内容にもよるけど、アタシだったら音波に相談する」
「えっ、」
「音波の事なら片山に言うし、片山の事なら啓太と音波に言う」
「実花…、」
梶は、顔をやや上に上げて話す。
「ねえ音波、アタシね、今まで親友って呼べる友達が居なかったんだ。
でも、音波はいつも自然体でアタシと話してくれる。
だから、ずっと仲良くしてたいと思ってる。
音波がアタシに話せないってことは、アタシがまだ音波の信用を得てないって事だから。
クラス別れて1年の時みたいには一緒の時間減っちゃったけど、
何かあったら話してほしいと思ってるよ」
「実花…」
音波は胸が熱くなる。
梶は明るく言う。
「音波、開演まで時間あるからさ、先に席を確保して座って話そうよ」
「うん」
梶は音波の手を引っ張り、会場に向かう。
-
今回も運よく2階の最前列の席を確保できた音波と梶。
座って話をする。
「実花、ごめん、私…片山くんのこと考えたら、実花には話せないと思って、
実花に言ったら佐藤くんに話がいって、佐藤くんから片山くんの耳に入ると思って言わなかった」
「そっか、アタシ口が軽いと思われてるんだ。
ちょっと悲しいけど、仕方ないかな、アタシ直ぐに突っ走っちゃうから」
「…ごめん」
「この間もアタシ突っ走っちゃって、啓太に凄く怒られた」
「佐藤くんに?」
「うん、音波に啓太としたって話したじゃない?
その後に、去年啓太が”くっ付き合えなかったらどうする”って言ってた事を思い出して、調べて、片山にぶつけた」
「えっ?」
「片山が女性恐怖症だって知った」
「そう、知ったんだ」
「アタシ、音波が悲しむのが嫌だから、啓太に言ったんだ。
何で音波を片山とくっ付けたのかって、音波が辛すぎるって。
そしたら啓太、何で片山を追い詰める様な事したんだって、逆にキレて。
円井は納得して付き合ってるって啓太は言うし、片山はこれまで通り音波と仲良くしてやってって言うし。
なんかアタシだけ蚊帳の外っぽく感じて、片山と話した事、音波に黙ってた。
ごめん、音波」
「実花、私の方こそごめん、片山くん、恐怖症を治す為に病院に行き始めたばかりだから、余計なことに神経を回させたくなくて、」
梶は驚く。
「え、片山、病院に行ってるの?
だから啓太、無茶苦茶怒ったのか…」
(そっか、片山、先の事を考えてって、そういう事だったんだ)
音波は再び梶に謝る。
「実花、ホントにごめんね」
「もういいって、ほら、音波始まるよ、楽しもう」
「うん」
音波は、梶の思いを嬉しく思い、感謝した。
--開演2時間前、
数部屋設けてある控室では多くの大学生バンドが、出番順に割り当てられたスペースで待機していた。
バンドメンバーの中に一人でも大学生がいれば、軽音祭には出れる。
その中に、オオトリを飾るつもりで参加した、巷では有名なバンド、SHUROEもいる。
去年の4月に声はかかったが、所詮下手クソのお遊びで集まってるだけと、参加しなかった。
しかし、軽音祭が思いの外盛り上がったと聞き、今年は参加することにしたのだ。
SHUROEのボーカルが、隣のスペースにいるDOSE.のところに来て言う。
「何で俺等最後じゃないの、一番盛り上がるのは俺等だろ、代われよ」
大智たちを睨む。
が、DOSE.のメンバーは聞こえてないのか、パイプ椅子に座り曲順を確認して話している。
無視をされたと思ったSHUROEのボーカルは、言いながら大智の椅子の丁度尻辺りを靴で蹴る。
「おい、聞いてんのかよっ」
ドカッ!
「痛っ、な…に?」
大智は後ろを振り返る。
大智の横に座っていた修が直ぐに立ち上がり、SHUROEのボーカルの胸ぐらを掴んで叫ぶ。
「テメエ何するんだよっ!」
SHUROEのボーカルは言う。
「お前等にオオトリは無理だから、代わってやるって言ってんだよw」
「何だと? この野郎」
修は頭に血が上る。
栄太郎が慌てて修を、SHUROEのボーカルから引き離し押さえこむ。
「やめろよ修、堪えろ」
大智も修を引っ張り言う。
「修、俺は大丈夫だから」
「蹴るとか、やり過ぎだろ!」
慎司は修たちとSHUROEのボーカルの間に入る。
栄太郎が言う。
「ピリピリすんな修、今日が大事な日って分かってるだろう。
祭りを成功させる為にも、ここは堪えろ」
「そうそう、みんなもいる、場の空気を悪くするなよ」
「っ、くそっ」
修が怒りを抑えるのを確認し、慎司は冷静に言う。
「SHUROEがオオトリをやるって? へえ…
これは笑えるな、確認してないなんてね…」
「何?」
「初参加じゃオオトリは出来ない決まりになってるんですよね…
どうしてもって言うんなら、運営に言ってもらってもいいですよ。
まだ開演前だし、ウチは順番とかどうでもいいから…」
順番とかどうでもいいと慎司は言うが、軽音祭の盛り上がりを考えればそうはいかない。
運営側もそこは考えているし、同じ系統のバンドが続かないように順番を組んでいる。
「おいリョウ、もうその辺でやめとけ」
SHUROEの他のメンバーがボーカルに声を掛ける。
「チッ」
リョウと呼ばれたボーカルは舌打ちをする。
「うちのメンバーが悪か_」
「どうするの? ウチが最後でいいの?」
慎司は相手の言葉を遮り、問う。
「ああ、変更はしない」
慎司は笑顔で相手に言う。
「そう、あんまり祭りを舐めないでほしいな…」
リョウはプイッとして、控室を出ていく。
慎司は戻り、大智の尻の汚れをを叩きながら、メンバーに小声で言う。
「アッチの曲次第で、コッチの曲順を変えるぞ。
修、ソロの確認しとけ、栄太郎はMCでワンバスに移動しろ。
大智、エレアコは持ってきてるから、BULEの練習しとけ」
「分かった」
「了解」
「へ? エレアコ? なんで?」
大智だけキョトンとする。
慎司が妙に優しく言う。
「バラードの代わり…」
大智は狼狽える。
「でも俺、ステージではギターは_」
「弾け、みんなの祭りを成功させる為だ、大丈夫だ、俺たちを信用しろ」
慎司の言葉に、修も栄太郎も大智を見て頷く。
「う、…わかった」




