2-14-4 知らずに助ける
2-14-4 知らずに助ける 耳より近く感じたい2
車で移動中、只野が話をしだす。
「本当は仕事の話がきた時に断る予定だったが、大学の後輩ってことで話だけ聞くつもりで企画会議に参加した。
そこで君を見て、久し振りに撮りたいと思った」
音波は下を向いたまま、只野に訊く。
「何故…私を?」
「君の目だよ、その目に何が映ったら、君はどんな顔をするのか見たくなった。
だから多少強引に迫った、僕の悪い癖だ。
だがモデルが断ってくれたおかげで、君を撮れるチャンスがきた。
君が受けてくれたら、堂々と撮る事が出来る。
まあ、急に決まったから、君のとびきりの笑顔は撮れなかったけどね」
「…、」
「君のSNSを見たよ。
音楽が好きなんだね、もっと近くで撮影してみたら?
そうしたら、臨場感のあるいい写真が撮れるよ。
近くで温度や空気を感じてみなよ、ナミちゃん」
「えっ?」
音波は、ナミと呼ばれて驚き、只野の顔を見る。
音波にとってはタイミング悪く、車が駐車場に停止する。
只野は先に車から出て、樹たちと合流する。
遅れて車を降りた音波は建物を見て驚く。
「あ、ここは…」
音波が来た場所は、またもや土曜に訪れたカフェだった。
樹は只野と少し話した後、音波の元へ来る。
「音波、話が終わるまで、清香と休んでいてくれ」
「うん、分かった」
樹と只野、スタッフたちはバンの後ろのドアを開けた方に回り、ノートパソコンを見ながら話し出す。
「音波ちゃん、行きましょう」
「はい」
2日前は相談をするのに訪れた場所、結局モデルになってしまったが、只野は何も要求してこなかった。
音波は、もしかしたら自分が早とちりをして、只野の事を誤解していたのかもしれないと思う。
そうすると、自分のせいで中條達に要らぬ迷惑をかけたことになる。
音波は気分を沈ませつつ、清香とテーブルに着く。
清香が音波に訊く。
「どうしたの? 初めての撮影で疲れた?」
「あ、いえ、只野さん、モデルさんに沢山指示を出していたのに、私の時は何も指示が出なくて…。
なかなかいい写真が撮れたと只野さんは言ってましたが、私で良かったのかなって思って」
「聞いたところによると、撮りたい写真がとれるまで、しつこく指示を出すので嫌がられてる反面、それが逆にモデルの間で登竜門みたいに言われてるみたいよ。
それで、あの手この手で女性たちが撮って貰おうとして、最近は受けてなかったんだって。
音波ちゃんが指示を出されなかったってことは、出す必要が無かったって事じゃないかな。
安心していいと思うわよ」
「はあ、」
プルル…
清香のスマホが着信音を鳴らす。
清香は電話に出る。
「はい、どうしたの? 樹、ええ、ええ、分かった」
電話を切り、清香は音波に言う。
「樹は別の用事で先に移動するって。
仕事の話は済んだから、オフィスに戻りましょう」
「はい、分かりました」
音波は清香と一緒に駐車場に戻る。
歩いていると、遠くから誰かが音波を呼んだ。
「音波!」
「え?」
音波は振り向く。
片山が駆けてくる。
音波は驚いて言う。
「かっ、片山くん? どうして?」
音波の傍まで来た片山は、清香に頭を下げる。
清香は、
「お友達? 10分くらいなら待ってあげる。
先に車に戻ってるから」
と言い、場を離れる。
「ありがとうございます」
音波は、清香に礼を言う。
_只野の車…後部座席の窓ガラスが下がる。
片山はスマホを操作した後、音波に訊く。
「どうしたの? こんなところで」
「うん、お兄ちゃんの会社の仕事で来たの」
「あー、そう」
「片山くんこそ、どうして居るの?」
「あー、俺、ココでバイトしてるから」
「えっ、カフェのバイトってココだったの?」
「うん」
「そうだったんだ」
「さっき終わって、今から帰るところ。
音波は?」
「うん、私も終わって会社に戻るとこ」
「あー、そう」
久しぶりに見る片山は髪が伸びたのか、後ろの髪の毛をちょっとだけゴムで縛っている。
片山は若干照れながら、音波に言う。
「音波には22日まで会えないと思ってたから、今日会えて…嬉しい//」
そう言って、片山は音波の頭に手を乗せ、撫でる。
音波も照れながら言う。
「うん、私も嬉しい//」
お互い見つめ合う、そして笑う。
「フッ」
「ふふっ」
_カシャッ、カシャッ、
「片山くん、病院はどう?」
「あー、週一で行ってる。
初診と血液検査が済んで、計画表みたいなのを作った。
明後日から、それをクリアしていく感じになる」
「そう、」
「通院、俺が思ってたよりも長くかかりそうだ。
でも、音波に言われた通り、焦らずに頑張る」
「うん、無理はしないでね」
「ああ、分かった」
「片山くん、軽音祭当日は朝、早いの?」
「うん、今年は裏方作業が多い。
ドラムのセッティングとか先輩のフォローとか色々する。
もちろん DOSE.(ドース)の出番でもサポートする」
「そっか、わかった。
片山くんが叩くドラムの音聞きたいな、早く学園祭にならないかな」
「気が早いよ音波、その前に修学旅行がある」
「あ、そうか」
「音波と同じクラスじゃないけど、自由行動では一緒に動こう」
「うん、京都かぁ、楽しみだね」
ブーッ、ブーッ、
片山のスマホがバイブ音を鳴らす。
「ああ、…そろそろ時間だ」
「うん」
「次のバイトがあるから、もう行く。それじゃ、またな」
「うん、またね」
片山は右手をヒラヒラさせた後、バイクの方へ歩く。
音波は車の方へ、歩く。
片山のバイクが先に出る。
音波が車に戻ると、只野が車の中から声を掛ける。
「彼氏かい?」
「えっ、///」
音波の顔が一気に赤くなる。
「ははは、答えなくていいよ、もう分かったから。
今日はありがとう、とても良い写真が撮れたよ。
それじゃあ、お疲れ様」
只野の車は先に駐車場を出る。
「さ、私たちも帰りましょう」
「はい」
音波が乗った車も発進する。
-
走る車の中で、只野は独り言を言う。
「彼は音波と呼んでいたが…彼女がナミの名前でやってるのを知らないのか?」
只野はノートパソコンでブラウザを開く。
Namiの投稿をチェックする。
「知らないで助けるとは…フッ、ドラマチックだな」
只野は何処かに電話を掛ける。
「もしもし、只野です、今回は、__…」




