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「耳より近く感じたい1~3」 ~ボクの命がたとえ繋がってたとしても、キミと出逢う為に生かされたと信じる~  作者: 有澄 奏
season2 ~全て拒絶してたボクの空っぽな心が、キミが触れるたびに温もりで満たされる~
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2-14-3 音の波…ナミ

2-14-3 音の波…ナミ 耳より近く感じたい2



--8月第4週、月曜日(8/17)

 音波は緊張しつつ、オフィスに到着する。


 オフィスのドアを開け、挨拶をしようと顔を上げると、音波が所属している部署とは別のデスクで、数人が集まり真剣な顔でミーティングをしている。

 その中に、音波の兄、樹もいる。


 清香が音波の所へやって来て、言う。

「音波ちゃん、来て直ぐだけど少しいいかしら」

「清香さん、おはようございます、どうしたんですか?」


「先週の金曜の撮影って、何で中止になったのか、音波ちゃん知らない?」

「えっ?」


(先週の撮影が中止…、私の事じゃないんだ)

 自分の事が原因ではないと知り、音波は幾分ホッとする。


「金曜は、撮影前に只野さんがモデルさんに、体調の事を聞いてました。

 撮影が始まって10分くらいしたら、只野さんが雨が降るからと言って中止になりました。

 あと、嘘をつかれるのは嫌いって、只野さんが言ってました」


「そう、モデルの体調を…分かった、ありがとう」

 音波にそう言うと、清香は樹たちのいるデスクへ向かう。


 清香が樹たちに話す。

 すると、樹を含め皆が音波の方を向く。


(…え? 何でみんな私を見てるの?)

 音波は一気に不安になる。


「上田さん捕まらないし、このままじゃポシャっちゃう」

「樹さんからお願いしてくれよ、頼むよ助けて、この通り」


 口々に頼まれている樹は、厳しい顔になる。

「…、順調にいってると思っていたのに、最初から俺も入っていれば良かった、

 本人が了承するかどうか、聞いてみる」


 デスクに集まっている皆に言った後、樹は席を立ち、音波のところに来る。


「音波、頼みがある」

「え、うん」

「モデルの依頼を受けてくれないか?」

「えっ?」


「金曜に撮影する筈だったモデルが只野さんの態度に激怒したみたいで、辞めると言ってきた。

 多分、体調管理の事を指摘されて、プロ意識を傷つけられたとかだろう。


 モデルが不在じゃ撮影は出来ない、かといって今から直ぐにモデルは見つからない。

 只野さんからは、火曜の撮影を今日にしてくれと言われてる。

 モデルは音波、お前で撮りたいと言ってる。

 今日の撮影が上手くいけば、企画がとん挫しないで済む、頼む」


「…、」


 音波は思う。

 正式に会社を通して依頼をすれば、兄から頼まれれば拒否は出来ない。

 只野にやられた、相手が一枚も二枚も上手だったと。


「…分かった、モデルします」

「良かった、有り難う音波!」

 樹はギュッと音波を抱きしめ、直ぐにデスクに戻る。


「音波が受けてくれた。

 只野さんに連絡して。

 今から準備して合流場所に向かう」

「やった! 良かったぁ」

「ありがとう、音波ちゃん」


 皆の安堵する表情を見て、音波は諦める。



--

 只野と合流する場所は、ショッピングモール。

 駐車場に車を置き、指定された店に行く。


 音波は只野の姿を発見し、鼓動が早くなる。

 それを知ってか知らずか、只野は笑顔で音波に声を掛ける。


「やあ、僕の依頼を受けてくれて有り難う」

「お、おはようございます、」

「そんなに警戒しないでくれ、この間は悪かった」

「え?」

「さあ、服を選ぶぞ、今君が着ているその服は、デート向けじゃないからね」

「で…え?」


 只野は、一緒に来ているスタイリストらしき人と店に入る。

「ほら音波、行って」

「う、うん」

 遅れてきた樹に促され、音波も店に入る。


 店内は、音波には少し大人っぽく感じる服が陳列されている。

 服を着ているマネキンを見ていると、スタイリストが音波の横に来て言う。


「この中で、あなたはどれが好き?」

「えっと、これが可愛いと思います」

 音波は素直に答える。


「そう、あなたは少し自分に自信が無いのかな?

 無難な物を選ぶのもいいけど、折角なんだから冒険しましょう。

 モデルの経験なんて、そうそう無いわよ」

「は、はい…冒険//」


 音波はスタイリストに連れまわされ、服を色々合わせられる。


 その間、只野は樹に尋ねる。

「彼女、君の妹さんだよね、名前は何て言ったかな?」

「音波です」

「どういう字?」

「音楽の音に、波です」

「そうか、音の波…ナミか。

 彼女の表情は良いね、よく変わる。

 感情が直ぐに解る」


 服選びは一時間弱ほどで終わり、音波が着替えた状態で店を後にする。


 次は撮影現場に移動する。

 最初はショップの中、次は公園、スタイリストに質問をされる度に音波が答える。

 只野は何の指示も出さずに写真を撮る。


 音波はスタイリストに言う。

「あれ? ここって…土曜日に来た公園だ」

「あら、そうなの? 彼氏とデート?」


 音波の顔が少し寂しげになる。

「いえ、友達に誘われて来たんです」


_只野は写真を撮る。


 スタイリストが訊く。

「彼とはデートしないの?」

「…今、一生懸命頑張ってるんです。

 彼自身の為に、私の為に」


 音波の顔が引き締まる。


_カシャッ、カシャッ、


「彼と一緒に何処に行きたい? 何がしたい?」


 スタイリストの質問に、音波は熱望の眼差しで空を見て言う。

「…、ギュッと抱きしめたい」


_カシャッ、カシャッ、…



--

 撮影が終わった。


 只野は音波の所へ来て言う。

「お疲れ様。

 君は本当に表情が豊かだね、なかなか良い写真が撮れたよ」

「本当ですか? 良かった」


 音波は会社の企画がとん挫しないで済むと思い、ホッとする。


「君は僕の車に乗って移動する。

 君のお兄さんには言ってある。

 大丈夫、スタイリストが運転するから」

「はい、分かりました」


 音波は2人きりでは無い事に安堵するものの、只野が何を話すのか不安になる。


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