2-13-5 助ける理由は…
2-13-5 助ける理由は… 耳より近く感じたい2
今度は電話だが、知らない電話番号が表示されている。
音波は、名無しで電話を登録していない。
数日前に、仕事場でモデルと、口頭で連絡先を教えたことを、ふと思い出す。
(あ、この間のモデルさんかな…)
音波はかすれた声で電話に出る。
「…もしもし、」
[…円井?]
「え?」
電話の相手は女性ではなく男の声だ。
しかも苗字で呼ばれた。
音波は緊張する。
[俺、中條だよ]
思いもしない中條からの電話に驚きつつも、音波は少し安堵する。
声だけだが、また独りでは無くなったからだ。
音波は平静を装って中條に訊く。
「中條くん?
どうして私の電話番号を知ってるの?
教えてなかったよね?」
[さっき、コスの先輩のサキさんに教えてもらった。
円井と会ったって電話がかかってきて、連絡先教えてもらったって話してたから。
色々理由付けて俺にも教えてくれって、無理やり聞き出した]
「そうなんだ…」
[…円井、お前大丈夫か? 元気ないけど、何かあった?]
「え、」
[サキさんが言ってた。
只野が円井に、紙切れ渡してるのを見たって。
だから心配で電話かけた]
「サキさんが、」
[円井、声がかすれてるように聞こえるけど、お前もしかして、泣いてた?
只野と何かあったのか?]
「…、」
[おい、まさか…何かされたのか? あの野郎、ただじゃおかねえ…]
「えっ、違うのっ、そうじゃないの、」
[だったら何だよ、何で泣いてたんだよ]
「それは…言えない」
[言えない? 人に言えないことを言われたか、されたって事だよな。
あいつの住所調べて今から、あの野郎をぶっ飛ばしに_]
「中條くん、お願いやめて!
そんな事をしたら、もっと酷くなっちゃう」
音波は、中條の激高している声に驚きながらも、慌てて中條の言葉に被せて言う。
[もっと酷く? どういう事だよ、
話せよ円井、俺に話せないなら片山に話せ_]
「片山くんは駄目!」
片山の名前が出て、音波は焦り、再び中條の言葉を遮る。
[何で駄目なんだよ、あいつ円井の彼氏だろ、]
「…、今大変だから、心配かけたくないの」
[何が大変だよっ、自分の彼女がピンチなのに]
中條の声が、別の意味でキレる。
[……只野の野郎、表は誠実そうで涼しい顔してるけど、裏では泣かされた女もいるって噂が、チラホラ出てる。
コスのほうでも、被害に遭いそうになった女の人がいる。
円井もそうなら、助けたい。
片山に言えないなら、俺に話して]
音波は、自分を心配する中條の声や言葉に感謝しつつ、言う。
「中條くんは、関係ないのに」
[ハッ、俺には関係ないだって?
大有りだぜ、コス仲間が被害に遭いそうになったって言っただろ?
それに…今はいいや、とにかく話せよ、
独りで悩むより、2人の方が何かいい案が出るし、場合によっては大人の力を借りた方がいいかもしれないから]
「でも、」
[でもじゃねえって、俺、気になる事があると、放っておけねえ主義だから。
片山に話せないってことは、佐藤にも話せないってことだろ?
だったら、今は俺に話してよ]
キツく聞こえがちな中條の、心配しながらも優しく話す声に、音波は涙が出てくる。
「中條くん…、」
[泣いた後でも、泣きながらでも、
どんだけでも 話聞くから]
「うん、」
Seiの言葉が音波を前に押す。
『 一人で悩まないで
Namiさんなら助けてくれる人
近くにいると思うから
早めに誰かに相談して 』
音波はひとしきり泣いた後、夕方起きた只野との事を、中條にも話した。
[フン、成る程ね、手は出さないけどモノは残すって事か。
あの野郎許せねえ…円井を脅すとか]
「え? 私を何?」
[何でもねえ、今回の件、サキさんに話してもいい?
あの人、コスプレ界で結構有名だから、顔が広くて人脈もある。
只野のこともサキさんから聞いたし、情報くれると思うから。
ソレ持って会社に言えば、大丈夫だろ。
途中で契約切ったって、変な野郎と組んで後々会社の評判落とすよりマシだろ?]
「サキさんにも、迷惑かけちゃうよ」
[じゃあ、こう考えろよ。
コス仲間の仇を取るのに、円井の件が役に立つって。
そしたらお前も、少しは気が楽になるだろ?]
「中條くん、どうしてそこまでしてくれるの?」
[そりゃお前のこ…、だあーっ、衣装合わせの礼だよ、
あれ、マジで助かったから。
あの人も喜んでくれたから、円井のおかげであの人の…笑顔が見れたから]
「そうなんだ、良かったね中條くん、喜んでもらえて」
[ああ]
「ありがとう中條くん、気を使ってくれて」
[なあ円井、明日コスの撮影会あるから、お前も来いよ。
サキさんに誘われただろ?
お前は真面目だから、家の中で考え込んでたらコケが生えそうだし。
気晴らしに外に出て、綺麗なモノを見て、ワイワイ騒いだ方がいいって。
そん時にサキさんとか、大人に知恵を借りよう、色んな職種の人達がいるし。
そうしよう、な?]
「うん、わかった。
中條くん、ありがとう」
[よし、決まり! 地図送るから円井が使ってるアプリ教えて]
「うん、えっとね、___」
音波は、どうしていいか分からない状況から助けてくれようとする2人に、感謝する。
遠く知らないところから動いてくれるSei、近付いて動いてくれる中條。
音波は、一番に片山に会いたいのを我慢する。




