表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「耳より近く感じたい1~3」 ~ボクの命がたとえ繋がってたとしても、キミと出逢う為に生かされたと信じる~  作者: 有澄 奏
season2 ~全て拒絶してたボクの空っぽな心が、キミが触れるたびに温もりで満たされる~
118/376

2-13-3 舐める様な目

2-13-3 舐める様な目 耳より近く感じたい2



--8月第3週、金曜日(8/14)


 この日は外での撮影。

 モデルは既に到着している。


 前回の外現場同様、皆準備に取り掛かっていると、只野がやって来てモデルに言う。


「君、体調悪いの?」

「いえ、大丈夫です」

「…本当に?」

「はい」

「…、ならいい」


 音波はこの時、只野が何故モデルの体調を気にしたのか分からなかった。


 撮影が始まって、10分程経過した時、冷たい風が吹く。

 只野が空を見上げた後、カメラを下ろして言う。

「今日の撮影は、やめだ。終わりだ」


ザワッ、

 スタッフたちが焦りだす。

「どうしたんですか? 弘幸さん」


 只野はモデルを見て言う。

「もうすぐ雨が降る、それに、モデルは体調管理ができていない。

 具合が悪いなら最初から言ってくれないと。


 あんなひきつった顔じゃ、天気が回復してもいい写真は撮れない。

 別の日にしよう、“俺”は嘘をつかれるのは嫌いだ」


 只野は自分の道具を片付け始める。


 スタッフがなだめるが、只野が撮影する気はもうない。


「あーぁ、弘幸さんヘソ曲げちゃったよ、今日はもう無理だ」


 スタッフが話している間に、空が曇ってきた。

 遠くで雷もなり始める。


 天気が相手ではどうしようもない。

 皆、直ぐに片付け始める。


 音波が片付けていると、只野が声を掛けてきた。

「君、今日は時間が空いたから、来るなら来ていいよ。

 どうする?」


 音波は少し考える。


 撮影の後はデスクワークはないので、そのまま帰っていい。

 社用車で途中まで戻り、その後は電車で帰る。


『次は断らないで』

 スタッフの言った言葉が脳裏に浮かぶ。


 音波は応える。

「はい、お伺いします」

「じゃあ15時頃においでよ」

「はい、分かりました」



--

 15時、音波は只野の住むマンションに到着する。

 エントランスで部屋番号を入力し、呼び出しボタンを押す。


「…はい、」

「あの、円井です」

「ああ、どうぞ」


 ロックされていた自動ドアが開き、音波は進む。


 只野の部屋のチャイムを押す。


ガチャリ、

 ドアが開いた。


「ようこそ、上がって」

「はい、お邪魔します」


 音波は緊張しつつ、部屋に入る。


 リビング手前のドアを開け、只野は言う。

「ここが、編集する部屋だ」

「わあっ、凄い!」


 大きなモニターにハイスペックパソコンだろうか?

 室内の熱をとるために、冷房の温度を下げているのか、部屋の中は肌寒い。


「カメラはリビングに置いてある」

 そう言って、只野は音波の背中に手を当て、リビングへのドアを開け誘導する。


 壁の棚に奇麗に飾られている数々のカメラ。


 音波が感動しながらカメラを見ていると、只野が尋ねてきた。


「君、モデルになればいいのに、どうして写真を撮っているんだい?」


 音波は答える。

「子供の頃、ある写真を見て、凄く感動したんです。

 こういう写真が、自分も撮れたらいいなって。


 私は、自分が撮られるんじゃなくて、撮る方が好きなんです。

 私が撮った写真で、見た人の気持ちを温かくする事が出来たらいいなって思うんです」


 只野は、少し皮肉っぽく言う。

「今の時代は本物か偽物か区別がつかない程、技術革新が進んでいる。

 加工してない写真を探す方が難しい。


 モデルだってそうだ、写真と実際に会ってみるとじゃ、えらい違いだ。

 みんな、どれだけ盛ってるんだよって辟易へきえきするね」


 只野のいう事ももっともだ。

 確かにスマホアプリでも、自分の顔を簡単に加工できる。


 只野はキッチンに移動し、飲み物をトレーに乗せて持ってくる。


「はい、どうぞ」

「有り難うございます」


 ここで、音波は違和感を感じる。


 音波に出されたのは炭酸のオレンジジュース、只野はホットコーヒー。


 先日梶に言われた言葉が、この時何故か思い浮かぶ。


 ソファーに座ってコップを持つ。

 音波は口元のストローを指で隠して、ひと口飲んだフリをした。



 それを見て只野は、わざわざ音波の隣に座り、目を見て言う。

「君、俺のモデルにならない?」


 只野の口調が変わった。


 初めて只野と会った日の、あの舐める様な目。

 モデルと言われ、音波はゾクッと寒気を感じる。


「さっきもお話したように、私はモデルになりたいとは思ってません。

 撮る方が好きで_」


「だったら何で今日来たの? 

 今回の話、最初から乗り気じゃなかったんだよな。

 止めようかな」

「え?」


「途中で俺が降りたら、君んとこの会社、困るだろうなぁ。

 まぁ、君の返事次第じゃ、このまま続けてもいいかもね」

「そんな、」


「君を撮らせてくれってだけだよ。

 安心しろよ、高校生相手に手は出さないし、同意の上でしかヤらない。

 俺も不味い飯は食いたくないし。


 ただ写真は別だ、撮れば作品になるからな」


 突然、只野に脅されるようなことを言われ、音波はどうしていいのか分からず、直ぐに言葉が出ない。


 只野は、音波の顎に手をかけ、くいっと上げる。

「ひゃっ、」

「おどおどした顔も、いいねぇ。

 真面目に撮りたくなった。

 でも俺が撮りたい君は、この顔じゃない」


 只野の顔が音波に近づく。


「いやっ!」

バッ!

 音波は自分の顎にかかっている只野の手を払い、ソファーから立ち、離れる。


「フッ、今のは冗談だよ。ちょっと脅かしすぎたかな。

 何にも考えずにホイホイ捧げる女が多いから、君の反応は新鮮でいいな。


 今度の撮影までに、返事を聞かせてくれ」


 そう言いながら只野はソファーから立ち上がり、リビングのドアを開ける。


 そして、手を玄関の方へ向ける。


「お、お邪魔しました」

 音波は青ざめた顔でバッグを持ち、足早に只野の前を通る。



 只野のマンションを出て、音波は震える体を自分の手で抱きしめる。


(どうしよう、私が断れば企画がとん挫する。

 夏休みの間だけしか居ないバイトの私のせいで、迷惑はかけられない。


 だけど、モデルをしたら…どんな写真を撮られるのか分からない)


「折角お兄ちゃんが私の為に、写真の事を学べるようにしてくれたのに、

 こんな風になるなんて…」


 音波は悔しさと歯がゆさで、唇をくッと噛んだ。


 憧れていた写真家の理想が、

 思い描いていた自分の夢見てた世界が、

 音波の中でガラガラと壊れていくような音がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
有澄 奏 mimichika Project「耳より近く感じたい」小説補完用個人Webサイト  https://uzumi-sou.amebaownd.com/
UZUMI-SOUのブログ https://ameblo.jp/uzumi-sou/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ