2-13-1 次は場所を変えて
2-13-1 次は場所を変えて 耳より近く感じたい2
--8月第3週、土曜日(8/8)
音波とスタッフを乗せた商用バンの車は、撮影現場に到着する。
簡易テントを張り、バンから機材を下ろし、テントの中に運び入れる。
テントの中で、モデルは着替えたり休憩をするが、簡易撮影も出来るようにセッティングをする。
ある程度準備が終わったところで、只野がモデルと一緒に到着する。
モデルは、音波より少し年上の女性。
スタッフたちと挨拶を交わし、早速撮影準備に取り掛かる。
照明の位置取りなど、只野の細かい指示にスタッフたちが動く。
そして、撮影が始まる。
暫く撮影が続いた後、休憩に入る。
音波は、モデルが休憩をとる時のサポートをする。
テントに入り、おしぼりや飲み物をモデルに渡した時、只野がテントの中に入ってきた。
「君、モデルと打ち合わせをするから、誰も入ってこないように外で見てて」
「はい、分かりました」
音波はテントの外に出て、待機する。
数分後、中から話し声が聞こえてきた。
「ココでの撮影が終わったら、次は場所を変えて撮ってくれますか?」
「それって、プライベートショットってこと? 君と僕だけで」
「…はい」
音波は、思う。
(プライベートショット、あのモデルさん、只野さんの事を好きなのかな?)
スタッフの一人が音波に声を掛ける。
「円井さん、そろそろ休憩終わりだから、弘幸さんとモデルさんに声かけて」
「はい、分かりました」
テントの外での会話が聞こえていたのだろうか?
音波が声を掛ける前に、モデルの女性がテントの中から出てくる。
音波と目が合う。
恥ずかしそうな目で、モデルの女性は先に撮影場所に戻っていく。
テントの中から何か物がぶつかるような、蹴るような音がした。
その後、遅れて只野がテントから出てきた。
音波が顔を赤くして黙っているのを見て、只野は音波に話しかける。
「あれ、もしかして話、聞こえてた?」
「いえ、その…」
「…」
只野は、音波の肩に手を掛けて言う。
「ねえ君、モデルやってみる気ないかなあ。
君だと、凄く良い写真が撮れそうなんだよね」
「え…」
優しい声で只野は言う。
「そうだ、僕が使ってる機材を見せてあげるから、今度家に遊びに来なよ。
興味あるだろう?」
モデルをやってみようとは思っていないが、プロが使用している機材には興味があるので、音波は素直に返事をする。
「えっ、機材を見せてくれるんですか?」
「ああ」
「有り難うございます」
「じゃあ、次の撮影日の後に予定が空いたら知らせるよ」
「はい、分かりました」
プロの写真家の自宅が見れる、作業過程を見る事が出来る、こんなチャンスは滅多に無い。
音波はとても嬉しく思った。
--その日の夜
音波は梶にメッセージを送る。
円井
「今度 写真家の自宅に
お邪魔出来ることになったの」
梶
「え 何ソレ
凄いじゃん
写真家って、誰?
なんていう名前?」
円井
「只野弘幸って人」
梶
「え、男の人なの?
音波一人で行くの?
それ、やばくない?」
(えっ、やばい?)
円井
「え、何がやばいの?
弘幸さん、凄く誠実そうな感じだし
大丈夫だよ」
梶
「ねえ、音波
喜ぶのはいいけどさ
音波は素直過ぎるから
もう少し疑ったり
警戒心を持った方がいいと
アタシは思うよ」
円井
「警戒心?」
梶
「そう
片山は音波のことを大事にしてくれてるみたいだけど
他の男は違うからね
気をつけなよ」
円井
「うん、わかった」
梶
「この事、片山には話したの?」
円井
「ううん、話してない
片山くん、今大変だから、
私の事で心配かけたくないし
実花も 黙ってて」
梶
「うん、わかった」
「ねえ 音波
夏休みになって
片山と会ってる?」
円井
「え? 先週会ったよ
家に写真を入れにきてくれたよ」
梶
「片山、音波の家に行ったの?
そっか、上手くいってるんだ
安心した」
円井
「安心?」
梶
「ううん、何でもない
啓太からチャットがきた
ゴメン音波」
円井
「うん またね」
梶とのチャットを終えた音波は、考える。
(中條くんの手伝いをする時も、片山くんに心配させちゃったし、
只野さんの事でまた心配かけたくないし…
でも、実花が言うように、相手は大人の男性だから、気をつけるようにはしよう)
--8月第3週、水曜日(8/12)
今回はスタジオでの撮影。
音波は雑用だが、スタジオでの撮影風景を初めて見るので、緊張しつつも少し興奮している。
モデルは、前回とは違う人。
前の女性は髪の毛が長く、大人しい雰囲気の人だったが、今回の人はショートヘアでボーイッシュな感じだ。
休憩に入り、音波はモデルの女性に飲み物を渡す。
すると、女性が音波に話しかけてきた。
「弘幸さんって最近人気だから、私も乗っかろうと思って仕事受けたけど、あの目なんかキツそう」
「え?」
「まぁ、私はタイプじゃないみたいだから、声はかけられてないけど」
「タイプ…?」
「やっぱり好きな衣装を着て、仲間に撮って貰う方が、私には合ってるわ」
「衣装ですか?」
「うん、私コスプレイヤーなの」
「えっ、そうなんですか?」
音波は驚く。
「私の高校の同級生もコスプレのイベントに参加してるんです。
その子がイベントで知り合いに着せる衣装の手伝いしたんです」
「へえ、そうなんだ。
どんな衣装だろう」
音波はスマホを取り出し、中條に撮って貰った写真を見せる。
「この衣装です」
モデルの女性は驚いた顔で言う。
「え、これって…タケルが作ったやつじゃん。
体型が似てる子、よく見つけられたねって話してたのよ。
なんだ、あなたがタケルの言ってた子だったんだ。
こんなとこで会えるとは、思いもしなかった」
音波は女性に訊く。
「中條くんのこと、知ってるんですか?」
「知ってるよ。タケルは女装コスで人気だから」
「じ、女装ですか??」
「ちょっと待って、7月に撮ったイベの写真、見せてあげる」
そう言って、女性はスマホを操作し、音波に写真を見せた。
音波は更に驚く。
「これが…中條くん」
音波は中條の制服姿しか見たことが無いし、前髪は目が完全に隠れるくらいの長さで、喋らなければ暗いイメージ。
その中條が、女性と言われても分からないほどの奇麗な顔で、写真に写っていた。
そこへ、スタッフの声が掛かる。
「そろそろ撮影入ります、準備お願いします」
モデルの女性は言う。
「あなたと話してて楽しかったよ。
私はサキ。
そうだ、今度少人数で撮影会するから見に来なよ。
タケルも来るしさ。
連絡先教えてよ、口頭でいいから」
「え、はい」
音波は勢いに押され、電話番号を教えた。




