2-12-3 キーホルダーは付けない
2-12-3 キーホルダーは付けない 耳より近く感じたい2
音波は答える。
「うん、私のお母さん、病院に勤めてるの。
今年の3月に、片山くんのことをお母さんに相談したの。
どうしたら支えてあげられるか、私が注意することはないかって。
そしたらお母さん、病院の先生に訊いてきてくれたの」
少しの沈黙の後、片山はフゥッ…と息を吐き、言う。
「…、そう、音波の親は知ってたんだ、俺が欠陥持ちだってこと」
音波は申し訳なさそうに言う。
「ごめんね、勝手に話して」
片山は首を振って言う。
「いや、いいんだ、それよりも…、
俺の事知ったうえで、音波の親が普通に接してくれたことが、俺は嬉しい。
音波の親は優しいな、それに…音波、」
音波の頭を撫でながら、辛そうな笑顔で片山は言う。
「俺が全て話す前から、お前は俺の事知ってて、受けとめてくれた。
ありがとう音波、早く音波に応えてやりたい」
「片山くん…」
音波は堪らず、片山がシャツの上に着ている薄手のパーカーをキュッと掴む。
「お願いだから、絶対に無理して急がないで。
絶対だよ?」
自分の服を掴んでいる音波の手を取り、片山は頷いて言う。
「ああ、分かった」
見つめ合う2人。
「…音波」
「片山くん…」
愛しく思う感情が高まり、自然にお互いの顔が…近付く。
ピピピピッ、ピピピピッ…、
片山のスマホのアラームが鳴る。
「! …、」
「! …///」
近付いた顔が止まる…そして離れる。
ちょっと気まずいような、照れ臭いような空気になる。
「あー、時間だ//」
「うん、//」
片山はウエストポーチからスマホを取り出し、アラームを止める。
そして言う。
「次に時間が取れそうな日が出来たら、連絡する」
「うん、わかった」
「音波もお兄さんのところのバイト、頑張って」
「うん、ありがとう」
片山はバッグを持ち、立ち上がる。
音波もベッドから立ち、部屋のドアへ向かう。
1階へ下り、玄関に行き、靴を履く。
そこへ、音波の母親が来る。
「あら、もう帰っちゃうの?
まだゆっくりしていったらいいのに」
音波が言う。
「片山くん、今日は時間作って来てくれたの。
これから用事があるし、忙しいんだよ」
「あら、そうなの。
今度来るときは、お父さんの相手もしてちょうだいね。
ふふっ、お父さんとあなた、気が合いそうだから」
片山は、音波の母親に頭を下げ、笑顔で言う。
「有り難うございます。
お邪魔しました」
「お母さん、外まで送ってくる」
音波と片山は外に出る。
片山はバッグをバイクに留め、鍵を挿し、ヘルメットを被る。
バイクを道路まで押し、跨る。
バイクに挿してある鍵を見て、音波は尋ねる。
「片山くんは、鍵にキーホルダーとか付けないの?」
「え? キーホルダー?」
「うん」
片山は、ガラスの瓶に入れてある、汚れたキーホルダーを頭に浮かべる。
「あー、キーホルダーは付けない。
鍵だけで既にジャラジャラしてるし、別に…付けなくていい。
…何で?」
「ううん、何でもない」
「…」
片山はバイクのエンジンを掛ける。
「それじゃ、音波」
「うん、またね」
「…ん」
バイクを発進させ、片山は帰って行った。
片山の姿が見えなくなるまで見送った音波は、家に入る。
音波が階段を上がろうとした時、父親が声を掛ける。
「音波、彼は? もう帰ったのか?」
「うん」
「そうか、暫くはいると思ってた…。
なあ音波、彼の苗字って片山だよな、セイトって、どんな字?」
「え? 成功のセイに、北斗七星のトだよ」
「そうか…、彼は兄弟いるか?」
「え、上に大学2年生のお兄さんがいるけど、」
「そうか、2人兄弟か」
「お父さん、どうしたの?
片山くんを見た時にビックリした顔してたし、色々訊いてきたり」
音波は不安な表情になる。
父親は音波の顔を見て、努めて明るい声で言う。
「いや、その…初めてできた音波の彼氏だからな、家族とか色々、彼の事を知りたいと思ってな」
彼氏と言われて、音波は顔を赤くする。
同時に、父親が母親同様、片山の事を受け入れてくれたと思い、嬉しくなる。
「えっ、うん、ありがとう//」
音波は父親に、片山が軽音楽部に入っていてドラムをしていること、片山の兄がバンドを組んでいて、それが自分の好きなバンドであること、片山がそのサポートをしていること等を話した。
「…そうか、ドラムをやっているのか。
今年の学園祭は、予定を空けて見に行くかな」
「え、来るの?」
「父さんだってギターやってるんだ。
興味を持つのは当然だろう」
「そっか、そうだね」
父親との話がひと通り終わり、音波は2階へ上がる。
部屋に入り、片山に入れてもらった写真を見る。
(あれ? 片山くんと一緒の写真が…)
中條が連写したであろう写真の中で、片山が写っている部分が無い事に違和感を感じる。
「…、」
音波が考えていると、玄関のチャイムが鳴った。




