2-12-2 我慢させてる
2-12-2 我慢させてる 耳より近く感じたい2
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音波の部屋に入る2人。
「へえ、これが音波の部屋か」
「うん、」
「音波、あんまり時間ないから、早速写真、始めていい?」
「うん、分かった」
片山は椅子に座り、既に起動してある音波のパソコンを操作する。
バッグの中から四角い物を取り出し、パソコンに接続する。
「音波、これ外付けのやつなんだけど、音波のパソコン、今確認したら容量があんまり無いから、次から写真はこっちに移して。
今回のも、こっちに移すから」
「えっ、いいの?」
「うん、余ってるやつだから、使って」
「ありがとう」
片山は、画面を幾つか表示させ、操作していく。
「中條、一眼レフカメラで連続で写真撮ってたみたいで、枚数が多い。
でも、良く撮れてる」
音波は、片山が中條の写真を褒めるのを聞き、ほんの少し嫉妬する。
「コスプレのイベントとかで沢山撮ってるから、上手なのかな、」
「どうだろう?」
片山は、自分の表情が写っている音波と一緒の写真は除外する。
「音波、終わった」
「ありがとう。
あ、そうだ!
私が撮った写真、見る?」
片山は振り向き、音波に言う。
「うん、見たい」
「去年の軽音祭と3月の池谷でのライブの写真、いっぱい撮ったんだよ」
そう言いながら、音波は片山の右側に寄り、マウスでパソコンを操作する。
「ほら、赤いタオル、凄いでしょう?」
「本当だ…2階席からはこう見えてたんだ」
ズームで撮影していない写真、ステージから1階席まで写っている。
赤いタオルが波を打っている光景。
片山は次々と、音波が撮った写真を見ていく。
ふと、片山のマウスを操作する手が止まる。
「この写真…同じだ」
「え?」
「バンドのサイトの写真と同じなんだ、見てみて」
片山は、兄のバンド、DOSE.(ドース)のウエブサイトを表示させる。
「ほら、同じだろ? 何で?」
「ホントだ…、あっ、もしかしたらお兄ちゃんかも」
片山は振り向き、音波を見る。
「え、音波のお兄さん?」
「うん、今年の1月にお兄ちゃんに渡したの。
軽音祭の写真を集めてるから、協力して欲しいって言われて」
「そう」
「あ、そういえば、軽音祭前もグッズを作るからって、メンバーの写真選ぶのを手伝った。
その時にお兄ちゃん、ドースの人とサークルの関係で知り合ったって言ってた」
「そうだったんだ、知らなかった。
兄さんも修さんも、写真の話は一切してなかったから。
音波のお兄さんと知り合ったのは、多分慎司さんだと思う。
折衝役は慎司さんが主にやってる」
「そうなんだ」
片山は写真を見ながら言う。
「…、俺が知らないところで、音波が兄さんたちの事を助けてくれてたなんて思わなかった。
音波、ありがとう」
「そんな、大したことはしてないよ//」
音波は、自分が撮った写真が役に立っているのを知り、嬉しさと恥ずかしさで照れる。
少し無言で写真を見ていた片山は、椅子から立ち上がり、音波に言う。
「音波、話したいことがある」
真面目な顔で言われた音波は、少し緊張する。
「うん、」
二人はベッドに座る。
片山は前を向いたまま、音波に話す。
「音波、俺、病院に行く」
「…え?」
音波は、自分の左側に座っている片山の横顔を見る。
「心療内科に行って、カウンセリング受ける事にした」
「…」
「誕生日に、音波を初めて抱きしめて、思った。
俺は触れるようになってるのに、音波には我慢させてるって。
この間父さんに言われた、男は女を守るものだって。
自分でも考えていたことを、言葉で実際に叩きつけられて、正直きつかった。
どうしようもなくて、我慢できなくて…感情が爆発してしまった。
このままじゃ、本当に何かあった時に音波を守れない」
「片山くん、」
片山は、音波の方を向いて言う。
「もう、怯えて拒絶してるままじゃ前に進めない。
カウンセリングを受けて、記憶や感覚が蘇っても大丈夫なように、意識が飛ばないように症状が改善されたら、音波に辛い思いをさせなくて済む」
片山は、ふんわりと包み込むように、音波を優しく抱きしめる。
「俺はもっと、音波と触れ合いたい。
あの日のように抱きしめたいし、抱きしめて欲しいと思ってる。
音波のこと、こんなに大好きなのに、
まだ、こうやって、ふんわりとした形でしか抱きしめられない」
「…」
片山は音波を包んでいた腕をほどき、言う。
「言葉だけじゃなく、もっと近くで音波を感じていられるように…
音波にも俺のこと、近く感じてもらえるように、
俺、頑張るから、待っていてほしい」
音波は片山の意志を聞き、心配顔で言う。
「片山くん、ありがとう。
でも約束して、絶対に焦らないって。
急激な変化は、逆に症状を悪化させちゃうかもしれないから。
過剰なストレスで、体に出ちゃうってお母さんが言ってたから」
片山は驚いて訊く。
「え、音波のお母さんが?」




