2-11-3 盾と囲い
2-11-3 盾と囲い 耳より近く感じたい2
ルリは布団で寝ているし、成斗と修はソファーで寝ているし、状況が全く解らない大智は取り敢えず、弟を起こそうと声を掛ける。
「おい、成斗、起きろ」
「……」
相当疲れているのか、弟は起きない。
代わりに修が起きた。
「…おぉ大智、おかえり。ようやく帰ってきたか。
起きて待ってるつもりだったけど、俺も寝ちまってたか」
修はそう言い、腕をやや上に上げて伸びをする。
大智は修に訊く。
「修、何でお前が…」
「ストップ、ここで話したらナルが起きちまう。
キッチンで話そうぜ」
修は自分の膝に乗っかる片山の頭を持ち上げ、立ち上がる。
そして、膝の代わりに置いたクッションに、片山の頭を乗せる。
大智と、修はコーヒーカップを持ってキッチンに移動する。
床に座り、若干小声で話し始める。
「ナルのやつ、今回は相当頑張って耐えたみたいだぜ」
「え、耐えたって、何を?」
「女のボディタッチ、するのも、されるのも」
「! 修、見たのか?」
大智は動揺する。
それを見て、修は軽く肩を上げ溜め息をつく。
「本当にお前はナルの事になると…。
俺のバイト先に酔ってる親戚と来た時のナル、ぶっ倒れるんじゃないかって思うくらい青ざめた顔しながら、両手で親戚を支えてたよ。
このクソ暑い夏に長袖を着て、大量に別の汗かいて。
ナルが起きたら、ちゃんと褒めてやれよ」
大智は驚いた顔をして言う。
「成斗、ルリに…音波ちゃん以外の女に触れたんだ…」
大智の顔が、嬉しそうな悲しそうな、複雑な表情になる。
修は大智の肩に手を置き、真面目な顔で言う。
「本題から言うけど、大智、ゆっくりでいいからナルと距離をとっていけ」
「? な…んで」
「お前達兄弟はお互い依存してる。
そして、俺や栄太郎たちもナルに頼り過ぎてる。
言い方を変えれば、ナルをいいように扱ってる。
違うか?」
大智は首を振って言う。
「距離って…依存って何だよ、いいようにって。
確かに頼ってはいるけど、俺は成斗の事を心配して…
お前だって、前から気付いてたんなら分かるだろう、
あの時何かに没頭させないと、あいつの精神が壊れると思ったから、」
「その事については、音楽にのめり込ませて正解だったと思う。
でも、いつまでも俺達のサポートだけをさせるわけにはいかない。
それは大智、お前も分かってるだろう?
だから、今回の軽音祭ではナルのサポート無しで、最初から最後までやるって話し合ったじゃないか」
「それは、そうだけど」
「ナルは確かに、お前が選択して取ってきた行動で救われた。
だが同時に、お前に絶対服従みたいになってる。
お前がそんな事を思っていないとしてもだ。
ナルがお前やお前を通しての俺達の頼みを断ったことがあったか?
年明けの事だって、平気な顔してドラム叩いて、栄太郎の代わりやって。
ナルの中では、大智は守ってくれる盾でもあり、囲いでもあるんだよ」
「…そんな、」
大智は眉間にシワを寄せ、下を向き目を細める。
「ナルもオトハちゃんていう彼女が出来たことだし、いい加減、盾無しで歩き出さないとな」
「成斗、」
「ナルは変わり始めてる、変わろうとしてる、お前も変わらないと。
勿論、俺達もだ」
「……」
…暫く沈黙の時間が流れる。
修は勝手知ったる我が家のように、コーヒーを入れて飲んでいる。
大智が口を開く。
「…修、俺が変わるって、何だよ」
「ん? お前自身の為の時間を持てってこと。
大智がまたギター触りだしたら、ナルも嬉しいと思うぜ。
あとは、女つくるとか」
「はあ? 女? 何で、俺今真面目に訊いてるんだろう?
修、ふざけるなよ…女とか、」
大智は少しふて腐れたように言う。
「俺は凄く真面目に言ってるんだぜ。
だって、今のお前じゃ濃厚なラブソングの歌詞とか書けないし。
親戚の彼女、お前にベタ惚れじゃないの。
もたもたしてると、他の男に奪われちまうぜ」
修は大智のへその下辺りをポンと手の甲で叩く。
瞬間、大智の体がビクッと反応する。
「なっ!/// …修、いい加減にしろよお前」
大智は、修に叩かれた部分に手を当てた。




