2-10-3 「成斗が帰ったら」
2-10-3 「成斗が帰ったら」 耳より近く感じたい2
ルリは大智をソファーに座らせる。
そして背中を擦りながら言う。
「バイトの時は、私がセイちゃんを見てるし、シフトも大体同じだから、通院は私が一緒に行く。
大智はバンドに集中して、先ずは8月を乗り切ろう。
大丈夫、絶対に良い病院が見つかるから、ね?」
顔を下に向けたまま、大智は言う。
「ルリ、済まない、ルリを巻き込みたくなかったのに…、
成斗を…頼む」
テーブルに放り投げられていたレターパック。
不安定な状態を維持できずに、テーブルから落ちる。
バサバサッ、
レターパックの中身が開封された口から広がる。
ルリが、資料の一部分らしきものを拾う。
「…大智、コレ…見て!」
ルリはレターパックの中身を全て引き出す。
「え…どうしたルリ、」
「大智、これ全部セイちゃんの為のものだよ?
病院の資料、パンフレット、これも、これも…リストもある。
ほら、見て!」
「何だって?」
大智は、ルリから渡された資料を見る。
大智たちが住んでいる場所から通える範囲の、病院やクリニック、専門医のデータ等の資料。
診療時間から担当医、専門医がいる曜日、全ての病院・クリニックをまとめて、検討出来るようにリスト化されている。
(こんなの、お袋じゃ出来るワケない…)
大智は、レターパックの送り主の字を改めて確認する。
「やっぱり…っ、」
資料を持つ大智の手に力が入る。
ルリは訊く。
「送り主、誰から?」
「…親父だ、やっと…やっとかよ、今になって、やっと…、くっ!」
大智は肩を震わせる。
やっと父親が動いた。
今まで避け続けていた息子、成斗の為に…。
震える声で、大智は言う。
「…成斗が帰って来たら、知らせてやらないとな…」
「大智、うん、そうだね」
怒りと喜びの感情が入り混じった大智は、堪らず傍に居るルリを抱きしめる。
「悪い、ルリ…、今だけ、今だけ、このまま…っ、」
体を震わせながら嗚咽する大智を、ルリは優しく抱きしめる。
「大智、泣いていいんだよ。
私でよかったら、甘えてよ。
私には、弱いところ見せていいから…」
ルリは大智の背中を優しく擦った。
--夜、22時前
ガチャリ
夜のバイトから帰ってきた片山は、玄関ドアを開け、靴を確認する。
兄の靴と女物の靴、ルリが来ている。
「…」
(昼間ルリに自分の身体の事がバレた時、ルリは執拗に訊かずに直ぐ行ってくれた)
片山は靴を脱ぎ、リビングに入る。
「ただいま」
「あ、セイちゃんおかえり」
ルリがキッチンから声を掛ける。
「ルリ姉、昼間はごめん」
片山が申し訳なさそうに言うと、ルリは菜箸を振りながら答える。
「いいから、大智は部屋で作業してるから、呼んできてよ」
「…わかった」
片山は兄の部屋をノックして声を掛ける。
「兄さん、ただい_」
ガラッ!
引き戸が勢い良く開く。
「成斗、おかえり。
お前が帰ってくるの待ってた。
コッチ来て座れ」
大智はそう言うと、弟の腕を掴んでソファーに連れていき、座らせる。
「え、な…に?」
訳が分からない片山は戸惑う。
兄の大智は弟の隣に座って言う。
「成斗、これを見ろ」
レターパックを弟に渡す。
「これは?」
「いいから中を見ろ、親父からだ」
「え、父さんから?」
片山は少し緊張しながら、レターパックの中身を取り出す。
「…あ! こ、これって、」
「そうだ、病院の資料だ。
親父が調べてくれたんだ。
学生時代の友人とか、親父の赴任先遠いのに、直接会いにも行ったんだろう、
ほら、名刺も入ってる。
あの体面とかを気にする親父が、お前の為に動いてくれたんだよ」
大智は弟の肩に手を掛け、揺する。
「…父さんが、っ…」
片山の体が震える。
「お前がバイトしてる間に、親父に電話した。
来月分の仕送り、早いけどもう振り込まれてるって話したろ?
あれ、病院代に使えって、最低2〜3ヵ所は行って合うとこ探せって言ってた。
もし親父の知り合いのクリニックを選んだとしても、合わないと思ったら直ぐに別の病院に変えろって言ってた」
「…」
「この間、お前の症状を見て、親父もやっと解ってくれたんだよ。
今まで家でも見る機会無かったし」
「父さん…信じてくれたんだ、俺のこと」
片山は資料を抱きしめ、ボソリと言う。
「これで…進める、進むことが出来る」
大智は言う。
「親父に…電話するか?」
片山はコクリと頷いて言う。
「…うん、する」
スマホを取り出し、電話帳を開いて父親の番号を表示する。
そして電話を掛ける。
プルルルル…プッ、
[…]
「…もしもし、成斗です」
[…どうした?]
「父さん、資料を見た、」
[…ああ、大智にも話したが、病院は…特に心療内科は医者との相性があるから、実際に通院してみないと分からない。
リストが全て正しいとは思うな、突貫で作ったから抜けてる部分がある]
「わかった」
[…大智は、ちゃんとお前の事見てくれているか?]
「うん、助けてもらってる」
[…そうか、成斗、ちゃんと食ってるか?]
「ちゃんと食べてる」
[…ドラムやってるんだろう、その…そう、大智から聞いた。
しっかり食べて体力つけないと、すぐにばてるぞ。
ドラムは…体力が要るから]
「うん、わかった…」
[…もう切るぞ]
「父さん、」
[…何だ?]
「信じてくれて…ありがとう」
[…、ああ、頑張れ、じゃあな]
「…うん」
プツッ
スマホを耳から離す。
(父さんの話す声が優しかった、)
大智が声を掛ける。
「親父、何だって?」
「頑張れって、」
「そうか、少しは改心したのかな、よし、遅くなったけど飯食おう」
大智はソファーから立ち、カウンターに移動する。
ルリが大智に料理を渡す。
片山も立ち上がり、カウンターに行く。
料理を前に、片山は言う。
「…美味しそうだ」
片山は、唐揚げを手にとった箸で挟んだ。




