2-10-2 「”親戚”だから」
2-10-2 「”親戚”だから」 耳より近く感じたい2
ルリは、リビングからキッチンに移動し、買ってきた食材をひとまず冷蔵庫に入れていく。
大智は後ろからルリに声をかける。
「何か手伝う事、ある?」
ルリは振り向かずに、大智に指示を出す。
「お米研いで、炊飯器で炊ける分」
「ああ、分かった」
冷蔵庫に食材を入れ終わった後、ルリは今度は冷凍庫を開ける。
「あれ? 大智って料理出来るの?」
米を研ぎながら、大智は答える。
「いや、殆んど成斗が作ってくれてる。
あいつ、お袋に料理教わったから」
「男2人だし、分かんなかったから、取り敢えず冷凍ものも買ってきた。
…チキンカツも揚げるだけなの? 凄いねセイちゃん」
「え、それチキンカツなの?」
「うん、チキンカツ。
好きなの? セイちゃん」
「さあ? 好物かどうかは分からない。
あいつ食べれないの多いから、作ってるってことは好きなんだろう」
ルリは、大智が炊飯器をセットしたのを確認し、言う。
「大智、セイちゃんの事、さっき少しだけ聞いた。
時間が惜しいから、料理作りながらだけど、話してよ。
セイちゃん、あのままだと生活辛いでしょう。
社会人になったら、もっと大変だよ?」
大智はカウンターに回り、ルリと向かう形で話す。
「…、とある出来事があって、それから女が駄目になって、今まで接触を避けてきた」
大智は、弟が襲われた事は伏せて話さなかった。
「…だから、直接成斗の肌に女が触ったりするのは完全に駄目で、お袋は手袋してた。
気休めだけどな。
ルリ、お前どこか触ったんだろう?
今は夏だから、多分成斗は普段より神経使ってると思う」
ルリは、料理を作る手を止めずに言う。
「セイちゃん可哀そう、あれじゃ好きな人が出来ても、例え恋人同士になれたとしても…」
ルリは、言いかけて止める。
大智の声が少し大きくなる。
「だからっ、今…病院を探してる。
成斗も今のままじゃ駄目だからって言ってる。
だけど、いざ病院を探すとなると、沢山有り過ぎて何処がいいのか…、
なかなか決まらない。
タイミング悪くて、俺も今忙しいし…」
大智はリビングに移動し、ソファーに座る。
そして、レターパックを開封しようとする。
「大智、何で今まで教えてくれなかったの?
セイちゃん、中1からって言ってたから、私と大智が結婚式で会った時には、大智はもうセイちゃんの事を助けてたんでしょ?」
ルリは手を洗い、下準備が済んだ食材を冷蔵庫に入れる。
「大智、私も協力する。
病院探して決まったら、私がセイちゃんの病院の付き添いをしてあげる。
大智の弟のためだもん、私にも助けさせてよ、いいでしょ?」
大智は首を振りながら険しい顔で言う。
「駄目だ、親戚だからってルリに迷惑はかけられない。
だから…黙ってた。
本当は家族でどうにかしないといけなかったのに、
親父があんなだから、俺たちは…。
俺が、守ってやらないと、助けてやらないと…」
「大智!」
ルリは、ソファーに座っている大智の足元に座る。
そして、大智の膝に手を乗せる。
「ずっとセイちゃんの事でいっぱいで…、大智一人じゃ限界があるよ」
開封したレターパックを持ったまま、大智は言う。
「成斗の親友がずっと助けてくれてる、高校で出来た彼女も、事情を知っても成斗を支えてくれてる」
ルリは大智を見つめて言う。
「ちょっと待ってよ大智、じゃあ大智は誰に頼るの? 甘えるの? 支えてもらうの?
大智の夢は? 幸せは? 大智は恋しないの?」
「ルリ……っ、そんな目で俺を見るな…」
大智はルリから顔を逸らす。
_頼る、甘える、支えてもらう_
全く無かった訳ではない、時折大智も弱ることはあった。
支えになったのは音楽と仲間たち。
そして、心が弱った時、そんな時はルリと回線を繋げた。
それで何とか耐えてきた。
恋は…恋もしている。
一方的な片思い、そう…目の前に居る。
でないと、遠い親戚と繋がってなどいない。
大智は顔を逸らしたまま話す。
「バンドにバイトに忙しい、成斗の事だってある。
恋とか…今は恋人とかいらない、時間取れないから、どうせ長くは続かない。
…それにホラ、俺こう見えてけっこうモテるから、女には困ってないし」
後半、大智は嘘をつく。
「大智、」
ルリは、大智の腕を掴んで揺する。
堪らず大智は、ルリの手から逃れようとレターパックをテーブルに放り、ソファーから立ち上がる。
「っ、俺の事はいいんだよ、とにかく今は成斗の病院を早く決めないと…!」
ギュッ、
ルリは大智を抱きしめる。
そして言う。
「一人で抱え込まないで! 私を頼ってよ。
ライブあるんでしょう? 8月に。
どう考えたって、もう無理だよ、大智が弱っちゃう。
大学合格して、やっと大智に会えたんだから、力になりたい」
「ルリ…、」
心配そうに見つめるルリの優しさに、大智の張りつめた心が折れそうになる。
(ダメだ、今まで耐えてこれたのに…気持ちが抑えられなくなる、)




