2-9-4 家に着いたら…
2-9-4 家に着いたら… 耳より近く感じたい2
二人乗りは…出来るのか?
背中は…大丈夫なのか?
バイクの後ろに音波を乗せるという事は、背中から抱きしめられるという事だ。
片山は、ふぅっと息を吐き、歩き出す。
音波も一緒に歩く。
「…、バイクを買おうと思った時には、全く考えてなかった。
後ろに乗せるのは、啓太とか兄さんとか、そのくらいだと思ってた」
「…うん」
「音波、…ごめん」
「ううん、いいの、謝らないで。
あ、ここを曲がるの」
音波は、左の道のほうに方向を変える。
片山も、音波に次いで道を曲がる。
歩きながら、音波は考える。
(前からの抱きつきは、相手が女性だって分かるからなのかな?
後ろからだと姿は見えないから…、あ、でも手は見えるよね…
ううん、そんな安易なことじゃない、片山くんにとっては辛い事だから…。
辛い思い、沢山してきたんだろうから…)
次の十字路を右に曲がれば、音波の家はもう、すぐそこだ。
家に着いたら、片山は帰ってしまう。
夏休み中は、殆んど会えない。
(もう少し、一緒に居たいな…)
頭の中で色々考えている間に、音波は無意識に十字路を右に曲がる。
片山は何も言わず、音波に続いて曲がる。
音波が前、片山がその後ろ、横並びではなく一列に歩く形になる。
そして、音波が止まる。
音波の家に着いてしまった。
「…、ここが、私の家だよ、片山くん」
音波は片山を見ずに、家の方を向いて言う。
「へえ、ここか…覚えた。
音波の部屋は、ここから見える?」
「…2階の、左側が…私の部屋だよ」
「あー、そう、わかった。
それじゃあ、俺…」
先程とは逆に、今度は音波が片山の言葉を遮る。
「私の部屋の下が、お父さんの趣味部屋なの。
機材の搬入とかで、1階の方がいいんだって。
お父さんの部屋、防音なんだよ」
「…音波、」
片山が声をかけるが、音波はまた話し始める。
「お父さんの部屋、見たらビックリするよ。
信じられないくらい、物がキレイに収まってるの」
「音波、」
「あ、そうだ、暑いから喉が渇いたよね。
冷たい飲み物、出すから」
そう言って、音波は片山のバッグのポケットに指を掛け、片山を引っ張っていく。
「えっ、音波?」
急にバッグを引っ張られて、玄関に向かわされる片山。
音波の様子も行動もおかしい。
ガチャリ、
音波は玄関の扉を開ける。
そして去年の年末のように、片山の背中を無意識に押し、玄関内に入れる。
「おい、音波、」
パタン、
玄関の扉が、閉まる。
「…、音波、どうしたの?」
片山は、音波の方を向く。
玄関の扉を背に立っている音波は、下を向いたまま、
「冷たい飲み物…用意するから、上がって」
そう言って、片山の横を通り、バッグを置く。
靴を脱ごうとする音波の肩を掴み、片山は言う。
「待って、音波。
さっきから、本当にどうしたの?」
音波を振り向かせ、両肩に手を乗せる。
「何か言いたい事があるなら、言ってくれ」
心配そうに見る片山の目を見て、音波は口を開く。
「…まだ、一緒に居たかったから…
まだ離れたくなかったから、時間を引き延ばしたくて…ごめんなさい」
「!…音波、お前…」
音波の言葉に驚きながらも、自身に対する音波の正直な気持ちを聞かされて、片山の心が…揺れる。
「ありがとう、音波。
…俺も、同じだ」
片山は、音波をふんわりと優しく包み込む。
「片山くんを困らせて、ごめんなさい」
音波の手は、下がったまま。
片山の背中に手は回さない。
音波からは見えないが、辛そうな表情で片山は言う。
「音波の家は分かったから、何とか時間作って会いに来る」
「うん、」
「音波だけが、辛い思いをしなくて良くなるように、俺も頑張るから」
(…え?)
「片山くん?」
音波は顔を上げる。
片山は、音波を包むように回した腕を離す。
そして、ズボンのポケットからスマホを取り出す。
タイミング良く、事前に設定していたのか、スマホのアラームが鳴る。
片山はアラームを解除して、言う。
「もう、行かないと…」
音波は諦めたような顔で言う。
「片山くん、用事があるのに、私、引き留めちゃって、ごめんね」
片山は優しい顔で、音波に言う。
「謝らないで、俺は音波の気持ちが聞けて嬉しいんだ。
電車に乗って、ここまで来て、良かった。
ありがとう、音波」
片山は、音波の前髪を右手でかき上げる。
そして、音波に言う。
「それじゃ、帰る」
ガチャリ、
玄関の扉を開け、片山は外に出る。
閉まりかけた扉を開けて、音波も外に出る。
「片山くん!」
片山は足を止め、音波の方を振り向く。
「片山くん…家に着いたら、何か打って」
一瞬、固まったように見えた片山だが、直ぐに笑顔で答える。
「音波…、ああ、分かった」
片山は右手をヒラヒラさせ、帰って行った。




