2-9-2 写真送って
2-9-2 写真送って 耳より近く感じたい2
中條は痺れを切らし、声を掛ける。
「おーい、お前ら何時まで抱き合ってるんだよ、ったく」
「…あっ!」
中條の言葉で我に返る片山は、バッと音波から離れる。
「ゴメン音波、俺…」
「ううん、いいの。
褒めてくれて、嬉しい」
まだ顔を赤らめながら音波は言う。
「もうお披露目は済んだし、円井、悪いけど直ぐに脱いで。
仲間に見せに行くから」
中條は、片山を音波から押し離す。
そして、音波のむき出しの背中…肩甲骨あたりを押しながら、更衣エリアへ連れて行く。
「宮野、早く脱がせて。
梶も手伝って、頭は最後に俺がやるから」
と言って、カーテンをサーッと閉める。
そして、カメラの三脚を片付け始める。
残った片山と佐藤は別々の事を思う。
(成斗、軽く抱けるようになったのか、
円井は…棒立ちだけどな)
「それにしても中條のやつ、平気な顔して脱げとか言ってるけど、コス部だから慣れてんのかねぇ…」
佐藤の隣で片山がボソッと呟く。
「っ、早く…決めないと、」
「え? 成斗、なんか言った?」
「…別に」
部室内にある簡素な流し台でメイクを落とす音波に、宮野はタオルを渡す。
「片山クンったら、オトちゃんに見惚れすぎて、写真を1枚も撮って無かったわよ」
音波はタオルを受け取り言う。
「あ、そういえばそうだね。
でも私、あんなに驚いた顔する片山くんが見れて嬉しい。
それに、綺麗って言ってくれて…中條くんのお陰だね。
手伝って良かった」
ーー
「みんな、お待たせ」
メイクをキレイに落とし、すっぴんに戻った制服姿の音波が、片山たちの元に来る。
「ねえ、折角だから何処か、みんなでお茶しようよ。
音波の写真見ながら」
梶が言うと、速攻で中條が断る。
「俺は行かない、そんな時間は無い。
…ああ、悪い。
宮野、悪いけどお前残って手伝ってくれる?
お前ならコレの扱い分かってるから」
中條は焦りながらも丁寧にブーケを扱い、円筒の中に入れていく。
宮野は中條の焦りを知ってるようで、快諾する。
「分かったわ、頭はコレに入れればいいのね」
「ああ頼む」
中條と宮野は、どちらが指示するでもなく、阿吽の呼吸で片付け始める。
中條が、これから大切な人に見せに行くのだろう…と音波は思った。
「さ、みんな行こう」
ーー
音波たち4人が部室を出ていった後、宮野は手を休めずに中條に質問する。
「…何時の新幹線に乗るの?」
「18時台…え?」
中條の手が止まる。
「宮野…お前、何で新幹線だって…」
宮野は中條の手を軽く叩く。
「ほら、手を動かしなさい。
時間に間に合わなくなるなるわよ」
「あ、ああ」
片付けながら中條は宮野に言う。
「宮野、お前のメイク凄いな。
今日一発で、円井をあんなに化けさせる事が出来るって、どんだけ場数こなしてるんだよ」
「んー、メイクは中学校から? 親戚の練習台になってたから。
コスは小学生から」
「ふーん、俺より早いのか。
男もメイク出来るのか?」
「やったことは何回もあるけど、タダではやらない」
中條は宮野の言葉に驚いて、顔を上げる。
「え、金とるの?」
「当たり前でしょ、現金じゃないけど。
メイク道具お金かかるし、私の時間も使うし」
「…」
「あ、オトちゃんの件は気にしなくていいわよ。
私が、手伝うって言ったから」
「…、宮野、今回は本当に恩に着る。
最初は、お前が邪魔だって思ってたけど、助かった。
サンキューな」
「それは私も同じ、楽しかった」
宮野が笑った。
(あ、こいつ…こんな顔して笑うんだ
なんか、あの人に似てるな…)
中條はふと、そう思った。
--
音波たちは、ファミレスに入る。
「音波って、メイクするとあんな感じになるんだね。
アタシ、びっくりしちゃった」
「俺も!円井って、化粧するとすっげー変わるんだな。
な、成斗」
「ええぇ、そうなのかなぁ…」
「…」
片山は下を向いて返事をしない。
「おい、成斗、成斗、」
佐藤が、隣に座っている片山の肩を掴んで揺する。
「え、何?」
片山は別のことを考えていたようだ。
「さっきの円井の姿もそうだけど、メイクが凄かったって話だよ。
なんだよ成斗、お前部室を出てからここに来るまでずっと無言で…。
そんなに感動したのか?」
「…、ああ、そうだな、綺麗だった」
ここで片山はようやく、テーブルを挟んで座っている音波に視線を向ける。
「音波、綺麗だった」
二度目に言った片山は、音波に優しく微笑んだが、どこか切なくて苦しい…そんな目をしている。
音波は心配そうに片山を見て言う。
「片山くん、何か心配事でもあるの?」
「え、何で?」
「だって、さっきから変だよ?」
「あー、別に…思い出してただけ」
(音波に心配をかけたくない、不安にさせたくない…)
片山は話を変える。
「そういえば、俺、音波の写真撮るの忘れた。
啓太、梶、今送って」
梶が意地悪そうに言う。
「片山って、一年前とは随分変わったね。
音波とくっ付いてからは特に。
以前はアタシたち一緒にいても、無口だったし」
「あー、いいから早く送って、写真。
梶は、グループの方で送って」
「はいはーい」
佐藤はスマホの写真をスライドさせながら言う。
「あれ、結構撮ってるな、画質最高にしてるし。
成斗、何処に送ればいい?」
「あー、ナルの…ドースの方、そっちのダイレクトメッセージの方に頼む。
ファイル便でもいい。
他のは、今動いてないから」
「了解」
佐藤と梶は、スマホを操作し始める。
音波は顔を赤らめながら言う。
「絶対にSNSにアップしないでね、恥ずかしいから」
片山は、ふと何かを思い出してクスッと笑う。
「大丈夫だよ、音波。
ほら、梶の写真もどんどん来てるし、
啓太も誤送信なんていうヘマはしないから」
「う、…うん」
誤送信と聞いて、音波は別の意味で顔を赤くした。
「どうしたの? 音波?」
「うう、何でもない。
ねえ、私も写真欲しいから送って」
「中條と宮野も写真撮ってるはずだから、後で俺がまとめて送ってやるよ。
それに、全部スマホに入れたら、直ぐに容量いっぱいになるからな」
片山の言う事は尤もだ。
ライブの写真を沢山撮った後は、音波はいつもPCに移動している。
「音波はパソコン、出来るほう?」
片山に聞かれて、音波は首を振る。
「写真整理とか、SNSに投稿するとか、そのくらいかな」
「あー、そう…じゃあ、家のPCに入れに行った方がいいか。
遠隔は、ハードル高そうだし」
「エンカク…何?」
音波は、キョトンとしている。
「あー、こっちの話。
日にち少し空くけど、夏休み中には音波の家に行って、写真入れてやる」
音波は目を輝かせて言う。
「いいの? ありがとう。
そうだ、夏休み中みんなも家に来てよ。
お父さんも遊びに来てって言ってたし」
梶が乗る。
「わー、またあの面白いお父さんに会えるの? 楽しみ」
片山は佐藤を見て言う。
「音波の親父さん、ギターやってるんだ。
この前、音波がシールド買うの頼まれてた」
「マジで? 俺も行きたいけど」
「佐藤くんとお父さん、話が合うかもね」
「いや、話なら俺だけじゃないと思うけど? なあ成斗」
片山は、手をヒラヒラさせた。




