4 商人フリージア
俺たちは馬車に駆け寄った。
「大丈夫でしたか?」
「は、はい……」
貴族風のドレスを着た二十代半ばくらいの女が答える。
その傍には執事風の初老の男と御者らしき中年男。
そして、ジャイアントワームと戦っていた十代後半くらいのアーチャー少女がいる。
「危ないところをありがとうございました。私は商人をしておりますフリージアと申します。隣の都市から仕入れた商品を実家まで届けるところでした」
名乗るフリージアさん。
「さっきは助かった。ありがと」
と、アーチャー少女が礼を言う。
「あたしはセシルだ」
「俺はゼノ・フレイザーといいます。こっちは相棒のアリシア・ライゼル」
俺が名乗り返した。
「我々はレッドオーブやブルーオーブなど貴重な宝石を運んでいたのです。ジャイアントワームは宝石を食べる習性がある、と聞きますので、それに釣られて出てきたのかもしれません」
フリージアさんが言った。
「ジャイアントワームは、この街道にはまず出てこない――と聞いていたので、少し無防備でした」
「なんにせよ、無事でよかったです」
と、俺。
「では、俺たちはダンジョンに向かうのでそろそろ……」
「ダンジョン?」
立ち去ろうとしたところで、フリージアさんがたずねた。
「ええ、この先にある『雷鳴都市のダンジョン』に行く予定です」
「冒険者の方ですのね。よろしければ、私たちの馬車に乗っていきませんか? お礼はいずれ正式にさせていただきたいと思いますが、まずはダンジョンまで送らせていただければ、と」
「だね。見たところ歩きだろ? 馬車の方が速いよ」
セシルが言った。
どうしよう――。
俺はアリシアと顔を見合わせる。
まあ、せっかくだし好意に甘えるとするか。
装備をつけた状態で、まだ二時間近く歩くのは、けっこう大変だしな。
「分かりました。ではお言葉に甘えて、乗せていただきます。ありがとうございます」
俺とアリシアは丁重に礼を言い、フリージアさんたちの馬車でダンジョンまで送ってもらうことになった。
馬車はさすがに速く、十五分ほどで『雷鳴都市のダンジョン』前までやって来た。
「ありがとうございました」
俺とアリシアがそろって礼を言う。
「いえ、これくらいは当然のお礼です」
フリージアさんが微笑む。
「私たちはここまでです。それではどうかご武運を」
「がんばれよ、二人とも!」
フリージアさんとセシルが俺たちに挨拶をして、去っていった。
あらためてダンジョンを見据える。
岩肌の入り口の向こうには、オレンジ色の石でできた迷宮の一部が見えた。
「ここがDランクダンジョンか……!」
気持ちが引き締まる。
さあ、探索開始だ――。





