8 最下層、ラスボス戦2
2章終了まであと2話……!
「去れ……ここは神の聖域……人が足を踏み入れる場所ではない……」
『炎の武人』がいきなりしゃべった。
「神の聖域……?」
「去れ……」
言うなり、『炎の武人』が巨大な剣を振り下ろす。
「くっ……!」
俺は『魔導加速装置』を発動した。
その場から超スピードで離脱する。
『炎の武人』が振り下ろした剣は、床を深々と切り裂いた。
……直撃すれば、当然即死だ。
「今のタイミングで、避けた……? 突然速くなる……妙な道具だ……」
『炎の武人』がふたたび近づいてくる。
俺は慎重に距離を測った。
敵との間合いは、近すぎても遠すぎても駄目だ。
近すぎれば、攻撃を避ける間もなく潰される。
遠すぎれば、俺一人に注意を引きつけられない。
奴が俺だけを攻撃するように、絶妙の距離感を保たなければならない。
そして隙を見て――、
「【ディーファイア】!」
アリシアが尻尾を揺らし、火球を放った。
中級の火炎魔法である。
ごうんっ!
火球は見事に『炎の武人』の顔面に命中する。
「ぐうううっ……」
たじろいだように後ずさる『炎の武人』。
「いいぞ、アリシア!」
俺は歓声を上げた。
この調子で攻撃を当てていくぞ――。
それから七度ほど同じような攻防を繰り返した。
「ぐうっ……人間と獣人ごときが……神の眷属である我を……」
神の眷属?
こいつ、ただのモンスターじゃないのか?
俺は不審に思って『炎の武人』を見据えた。
――そして、八度目の攻防。
俺が加速して奴の眼を引きつけ、アリシアが火炎を放つ。
「ぐおおおおっ……!」
『炎の武人』がたじろいだ。
「ん、なんだ?」
今まではダメージらしいダメージはほとんど与えられなかったのに――。
俺はじっと目を凝らした。
今回、奴が攻撃を受けたのは胸の辺りだ。
そして、そこを左手で押さえながら、『炎の武人』が後ずさっていた。
「あの胸のところに何かある――」
けど高すぎて、攻撃が届きそうにない。
「そうだ、アリシア。風の魔法は使えないか?」
「風……ですか? 中級までなら使えますが……」
「じゃあ、そいつを使って俺を奴の胸元まで飛ばしてくれ!」
「飛ばす――」
つぶやいた後、アリシアは俺の意図を悟ったようだ。
「分かりました! 【ディーウィンド】!」
アリシアが俺の足下に風の魔法を放つ。
その圧力で俺の体が浮き上がった。
「おおおおおおっ……!」
ちょうど斜め上の方向に向かって、飛んでいく。
まるで空を翔けるような強烈な浮遊感とともに、『炎の武人』の胸元へと迫る。
近くの突起に手をかけ、しがみついた。
すぐ近くに装甲の焦げ目がある。
さっきのアリシアの攻撃魔法でついたものだろう。
「そこだぁっ!」
剣で思いっきり斬りつける。
何度も、何度も。
「おのれ……」
『炎の武人』が俺を振りほどこうと動くが、必死で突起を握り、振り落とされないようにしつつ、さらに剣を振るった。
それを二十回ほど。
ばきん。
剣が折れると同時に、『炎の武人』の胸部装甲が砕け散る。
その下にあったのは、紋章のようなものだった。
そこにかすかな焦げ目がついている。
「見つけたぞ――お前の弱点!」
俺はもう一度、風の魔法のサポートを受けて跳び上がった。
同時にアリシアが雷撃魔法を放って、『炎の武人』の注意を引きつける。
その間に俺は奴の胸部まで跳んで、予備の剣を叩きこんだ。
刀身の根元まで深々と紋章に突き刺さる。
るおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああああっ!
絶叫。
そして、『炎の武人』の巨体が揺らぎ、ず……ん、と倒れたのだった。





