おにぎり貴族~納豆巻きの乱~
ギリムス=シーオル騎士爵。小さな領地を治める若き領主は『おにぎり貴族』と呼ばれていた。
彼の村の名産が米であり、ある戦いにおいて彼がもたらした『おにぎり』が兵に力を与えたのが、その由来である。
彼はその戦いの功績で貴族となったのだが、元は平民。貴族となっても、小さな村で村人と一緒に汗を流すという変わらぬ日々を過ごしていた。
だが、一度戦争が始まれば彼にも貴族の義務がある。招兵に応じて、わずか五名の兵を連れて彼は戦場へと向かった。街を二つ程越えた港が、今回の戦場だった。
「おお、ギリムス!良く来てくれた!」
「ハッ!」
ギリムスは成り上がりの為、王都の貴族には疎まれているが、前線の貴族には人気がある。それは、彼の知謀による所が大きかった。
「ギリムスよ、早速なのだが兵糧で士気を上げて欲しい」
「と言いますと?」
「船上での戦いが上手くいかん。馴れない場所での戦闘で疲労が溜まり士気が落ちている。だが、今叩かねばならんのだ!サッと食べられて味がよく、精のつく兵糧を開発してくれ」
「……ハッ!」
例えそれが無茶ブリでも、将軍の命令は絶対である。
ギリムスは考えた。と言ってもそこはギリムス。やはり基本は『おにぎり』である。
「……この港の名産は海苔だったな。精のつく?……うーむ、途中の街で土産に買った納豆はあるが、おにぎりに入れるにはなぁ」
港を歩きながら考えるギリムス。考え事をしながら歩いていた為、何かにぶつかってしまった。
「痛っ!?な、何だ?」
彼がぶつかった物は大砲だった。海に向けて配備された物である。そしてその瞬間、ギリムスは閃いた!
「大砲……これだ!」
ギリムスは海苔に、疲労回復の為に酢を混ぜ込んだご飯を広げ、細かく刻んだ納豆とネギに醤油で味をつけものを乗せてクルリと巻いた。
「……これは?」
「『納豆巻き』でごさいます。食べてみて下さい」
「ウ、ウム。納豆は苦手なのだが。……ムッ!……これは旨い!」
将軍はすぐに『納豆巻き』を採用し、兵達に与えた。『納豆巻き』はすぐに兵達に受け入れられ、ギリムスは安堵した。
かくして力と士気を取り戻した兵達により、戦況は有利に動き、やがて勝利をおさめた。
『おにぎり貴族』ここにあり!ギリムスはその名を轟かせ、戦況を勝利へと導いた功績により、準男爵へと昇爵した。