あの日の約束
私の夢はアイドルになることだった。
そして、やっとここまで来れた。
今、あの人と同じステージに立っている。
あの人に出会ったのは、とある人狼ゲーム映画の主題歌を歌うアイドルオーディションだった。
あの人、彼女はその頃から誰よりも輝いていて、眩しい存在だった。
ショートカットの黒髪、磁器で出来てるような透き通った肌、薄紅い唇がとても可愛らしい。
小柄で華奢な身体であるが、安定したダンスパフォーマンスを披露し、歌も高音が良く伸びて、おそらく、彼女がこのオーディションを射止めると、そこにいる皆が感じていただろう。
私は待ち合い室で、たまたま彼女の隣の席になり、思い切って話しかけてみた。
「……あの、秋月玲奈さんですよね?」
緊張でどきどきしながら言葉を絞りだした。
「あ、はい」
かわいい小さな顔が自分を見返してきて、ちょっと感動した。
「歌上手いですね。ダンスも凄かった」
「そうですか。ありがとう」
はにかむような笑顔が可愛らしかった印象が残っている。
彼女はもちろん、一番にそのオーディションに受かり、私は当然のように落ちた。
あまりにも何もかもが違って見えた。
彼女は特別なオーラに包まれていた。
その時、私は決心した。
いつか自分もアイドルになって、あの人と共演できるようになりたいと。
そんな夢を私は抱いて、心の中で自分と約束した。
†
それから半年後に、私も今のグループのオーディションに受かり、あの人と一緒のアイドルの道を歩みはじめた。
新型コロナなどの影響で、なかなかデビューできない日々を一年あまり送ったが、今、ネットライブで実質的なデビューを果たそうとしている。
そのネットライブには、憧れのあの人も一緒に出演する。
すでに彼女はソロの人気歌手になっていた。
永年、数年越しの夢が叶い、私はあの日の自分との約束をついに果たした。
「あの、秋月玲奈さんですよね?」
私はあの時と同じように話しかけた。
「ああ、彼方カノンさんですね。今日はよろしくお願いします」
あの人はあの時と同じ笑顔で、しっかりと私の名前を呼んでくれた。