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第8章 ペンダント

気怠い朝、朱夏は目が覚めたのに布団から出たく無かった。

それはデジャヴ・ドリームのせいではない。

エリと朱夏は夢で完全に死んだ事で記憶が引き継がれなかったのだ。

「朱夏!おはよう!朝だよ!」

隣で寝ていたエリは元気いっぱいだ。

揺り動かされて朱夏は仕方がなく布団を剥いだ。

「おはよう・・・ございます、エリ。」

ぼやけた頭をのんびりと起こす。

朱夏は気分が重たいまま、エリに挨拶した。

「昨日、何あった?」

エリは朱夏の顔を覗く。

真っ先に思い出したくない事を色々と思い出した。

「昨日、心琴さんが野良犬に襲われました。」

「え!心琴無事?」

「分かりません。しかも、心琴さんのご両親は鷲一さんを犯人だと決め付けて酷い言葉を・・・。」

朱夏はそこまで言うと言葉に詰まってしまった。

エリは朱夏の手を優しく握る。

「とりあえず、分かった。もう、話、大丈夫。」

「エリ・・・。」

エリは歳の割にしっかりとした子だ。

朱夏が辛そうなのを見てこれ以上の説明は求めなかった。

「今日、どうする?」

エリは朱夏に聞く。

「分かりません。ただ、海馬君とお勉強の約束はしてあるんです。」

今日も海馬と勉強の予定だった。

しかし、この様な事態になっては勉強どころでは無いだろう。

「エリはひとまずラジオ体操へ行っていらっしゃい?」

小学生のエリは夏休みの真っ最中。

毎日公園でラジオ体操をして、スタンプを貰うのが最近の日課だ。

「えー!今日連覇来ない。つまんない!」

エリは唇を尖らせる。

「あら?エリは連覇君に会うためにラジオ体操へ行っていたのですね?」

朱夏はそれを聞いてわざと驚いた顔をしてみせる。

その表情にエリは慌てて手をバタバタさせた。

「ち、違う!違うの!ラジオ体操行ってくる!」

エリは照れたのか、走って部屋を後にした。

「うふふ。可愛い。」

朱夏は妹のようなエリを目を細めて見送った。


◇◇


ピンポン


朱夏は今日も海馬の家のチャイムを鳴らした。

「朱夏ちゃん。・・・いらっしゃい。」

今日は少し疲れた様子の海馬がドアを開ける。

「連日、ごめんなさい。」

「いや、もう少ししたら僕から朱夏の家に行こうと思ってたんだ。」

海馬は少し真面目な顔でそう言った。

「え?」

その顔に違和感を覚えながら朱夏は海馬の後について二階へ上がった。

海馬は朱夏を部屋に招き入れるなりドアを閉めた。

「え?ど、どうしたの?」

朱夏は海馬のことをよく知っている。

平常心じゃないこと位はすぐに分かった。

「朱夏ちゃん、エリは今朝、何か言って無かったかい?」

真剣な目で朱夏を見る。

背中にはすぐドアがあり、朱夏は海馬を少し怖いと思った。

「何か?何かって何ですか?今日は連覇君が居なくてつまらなそうでしたが、ラジオ体操へ行きましたよ?」

ありのままを話す。

「本当かい?」

海馬はドアに手をついた。

息がかかりそうな程、二人の顔は近かった。

普通の時なら顔を赤らめていただろうが、そんな浮き足立つような状況ではなかった。

「ど、どうしたの?海馬君・・・怖いです・・・。」

朱夏の一言で海馬は我に変える。

怯えた様子の朱夏に海馬は慌てて離れた。

「ご・・・ごめん!!違うんだよ!?」

「だから何がですか?落ち着いてください・・・。」

海馬は自分のした事に気が付いて顔を隠すように覆った。

「い、今・・・近かったね!!」

「なんで、海馬君が照れてるんですか・・・。」

急に照れ始める海馬に朱夏は呆れた声を出す。

「僕、冷静じゃなくなると周りが見えない時があるみたい・・・。」

朱夏はひとりで慌てたり照れたりする海馬をみてため息をついた。

「もう・・・。そんなの昔からじゃないですか・・・。」

「え!?そうだっけ!?」

そう言われて海馬は少し傷つくが、朱夏は困った顔で笑っていた。

その顔を見て、海馬も少しだけ笑顔になる。  

軽く息を吐いてから再度朱夏を真剣なまなざしで見つめた。


「エリがデジャブ・ドリームを使ったかと思ったんだ。」


今度こそ落ち着いて海馬は朱夏に伝えた。

海馬の発言に今度は朱夏が慌てる。

「え?!・・・って事は海馬君昨日の夢で殺されかけたのですか!?」

朱夏は心配そうに海馬を見る。

けれども海馬は首を横に振って肩をすくめて見せた。

「・・・エリがデジャブ・ドリームを使った様子がないなら、今朝の夢はきっとただの悪夢だよ。」

落ち着きを取り戻した海馬は冷静を装った。

「でも、さっきの慌てようは普通じゃありませんでしたよ?」

眉をひそめて朱夏はそう言った。

明らかにそれだけじゃない何かを感じる。

「また、一人で抱えちゃうんですか?」

「う・・・。」

そう言われて海馬は朱夏から目を逸らす。

「・・・そう・・だね。朱夏には一応話しておこうかな。今日の悪夢。一応ね?」

海馬はベッドに腰を下ろす。

すると、座った拍子に、ポロッと海馬のポケットからペンダントが落ちた。

それは、海馬がほぼ毎日つけているペンダントで、プレートの形をしたシルバーアクセサリだった。

変わった形の彫刻が施されていて、お店などでは見たことがない。

朱夏は思わずそのペンダントに目を奪われる。

なんだか最近、とても重要な場所でそれを見た気がしたのだ。

(あのペンダント・・・。)

今日に限って気になってしまう。

海馬はそんなに気にすることなくそのペンダントを拾い上げた。

「ねぇ、海馬君?」

朱夏は思わず声を出した。

「え?何?」

「そのペンダント・・・『紗理奈』からのプレゼントですか・・・?」

「・・・!?」

その女の子の名前を聞いて、海馬の目が見開かれた。

眉間にしわが寄る。

朱夏はつい口走ってしまった事を後悔した。

「あ・・・ごめんなさい。何故か気になってしまいまして・・・その・・・。」

二人の間で『紗理奈』は禁句だった。

昔、二人が大喧嘩をする切っ掛けとなった女の子の名前、それが『紗理奈』なのだ。

「・・・そうだよ。」

何も隠す必要は無いといった感じで海馬は答えた。

少しだけ寂しそうな表情に見える。

「え?」

あまりにも自然な受け答えに朱夏はむしろ驚いた。

「紗理奈からのプレゼントなんだ。」

「・・・・そう、ですか。・・・やっぱり海馬君はまだ・・・。」

朱夏は目を逸らしてそう言った。

海馬の心の中に未だ居続けている『紗理奈』に嫉妬心を抱いてしまう。

「朱夏・・・。ごめん。今日はこの話をしたい気分じゃない。また、今度ゆっくり・・・ちゃんと話をする時間を設けてもいいかい?」

海馬は優しい声でそう言った。

それこそ本当に冷静な時の海馬の声だった。

「・・・はい。私、待ってますね。いつまでも。」

朱夏は目を合わせられないままそう言った。

朱夏の切ない気持ちが海馬にも伝わる。

「いつまでもは待たせ過ぎだよ。近いうちにね?」

そう言うと朱夏に笑いかけて見せた。

「うふふっ。はい!」

いつもの調子に戻った海馬を見て、朱夏も今の話は頭の片隅に追いやることにした。

そして、ふと今までの話の流れを思い出す。

「あ・・・そうでした。悪夢の話・・・。」

朱夏はペンダントに気を取られて本題のことをつい忘れていた。

「あー・・・いや、いいや。どうせ、ただ夢見が悪かっただけだよ。」

海馬ももう、夢の事はどうでも良くなってしまったようだ。

それよりも、もっと大事なことがある事を二人は忘れていなかった。

「そんなことよりさ、心琴ちゃんの方が心配だ。」

「鷲一さんもですね・・・。」

昨日の二人はあれから最悪の一日を過ごしたに違いない。

心琴は明らかに具合が悪そうだったし、鷲一も心琴のお父さんから言われたことで相当傷ついているようだった。

「まずは、状況確認からだね。」

海馬は腕を組んでそういう。

「心琴さんの家に行ってみましょうか。」

「そうだね。様態が気になる。」

野良犬に噛まれた程度の症状ではなかった。

昨日の時点で意識は朦朧としていて話さえ出来なかった。

それに二人は、何があったか心琴の口から聞きたかった。

「鷲一はしばらく心琴ちゃんの家には行けないだろうし、僕らが行って状況を伝えた方がいいだろうね。」

「そうですね・・・二人の家は近いですし、その後に鷲一さんの家に行ってみましょう。」

大体の予定が決まると二人はさっさと海馬の家を出た。

家を出るとそこには、首にラジオ体操のカードをぶら下げる少女の姿があった。

「エ・・・エリ?」

「朱夏・・・私、置いていった!!!」

第一声がこれだ。

「え・・・!?」

「今日連覇居ないのに!!!つまんないって言ってるのに!!」

エリは朱夏が海馬の家に一人で行ってしまったことをプリプリと怒っているようだった。

あっけにとられる朱夏を避けて海馬がエリの前に出る。

「あはは。エリちゃん。おはよ!これから心琴ちゃんの家にお見舞いへ行くけど一緒に来るかい?」

海馬はエリの頭をやさしく撫でた。

そして、エリは気持ちよさそうに撫でられた。

「行く!一緒!」

もう、エリは良い笑顔に戻っていた。

「うふふっ。海馬くんの手はエリの機嫌を一瞬で直せる魔法の手ですね。」

海馬に向かって何の恥ずかしげもなく笑いかける。

「ぶふっ。朱夏ちゃん、魔法って・・・真顔で言う事じゃないよ。恥ずかしいなぁ。」

海馬は照れて吹き出した。

「海馬の手ー!魔法の手―!」

エリも朱夏に倣って笑う。

するとそこに朱夏のボディーガードの丸尾が軽自動車を出してくれていた。

いつの間にか朱夏が手配したらしい。

「あ、丸尾さん。今日もお車お願いいたします。」

「はい。どうぞ。」

丸尾がドアを開けてくれる。

3人は車に乗り込んだ。

「さて、出発しましょう!エリ様?シートベルトだけはお願いしますね。」

「はーい!」

エリは元気よく返事をする。

こうして4人はまずは心琴の家へと向かうのだった。

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