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第5章 ひっかき傷

鷲一が海馬達に電話をしてから20分後、中央駅で3人は合流した。

「鷲一!!心琴ちゃん見つかったかい?」

駅の駐車場に停車した軽自動車から海馬と朱夏が降りてくる。

「いや・・・ダメだ。駅には来てないみたいなんだ。」

「・・・そうですか。」

朱夏も海馬も心配だった。

明るくてムードメーカーな彼女はいつも3人を引っ張ってくれた。

心琴は皆にとって大事な人なのだ。

「手分けして、探してみよう。」

「ああ!」

「でも・・・どこを探しましょう・・・?」

しかし、3人共この周辺の地理に詳しくない。

電車で30分のこの場所は自宅から換算すると30kmは離れている。

すると運転席から背広の男が姿を現した。

「やぁ。心琴ちゃんいないんだって?」

車を運転してくれたのは朱夏のボディーガードの丸尾だ。

丸尾はITに強いボディーガードで、朱夏の家のハッキングやクラッキングなどは全て彼が守っている。

「待ってね・・・やみくもに動くのは時間の無駄だよ。検索してみようね。」

「丸尾さん!ありがとうございます!!」

そう言って、彼はいつも携帯しているタブレット端末で心琴が行けそうな場所を検索し始めた。

「徒歩で行ける圏内くらいで・・・雨宿りが出来そうな場所で検索をかけてみるね。」

「雨宿りが出来そうな場所!そうか。」

今も雨は降り続いている。

丸尾はそこから徐々に場所を絞っていく。

「公園・・・が無難かな?店の中という手もあるけど。怪我した状態では入らないかもね。」

「ではまず、公園を探してみましょう?」

朱夏もその案に賛成した。

「ここから直径5kmでは・・・公園が23カ所あるみたい。」

「多いな・・・。」

4人で手分けして探してもそれなりに時間がかかりそうな数だ。

「ここから・・・僕の本領発揮だよ。見ててね?」

「え?」

そう言うと丸尾はさらに検索をかけた。

鷲一はタブレットを凝視するとすべての公園の画像が一斉に表示され並んだ。

「おお!!!」

丸尾とは真逆に電子機器を一切使えない鷲一は驚きの声を上げた。

「雨宿りできる公園だけを検索するよ。」

「な・・・なるほど。」

「さすが丸尾!ありがとうございます!」

「いえいえ!お安い御用ですよ!」

丸尾は全ての公園の遊具一覧のリストを表示すると、ブランコや砂場といった雨宿りできない遊具しかない公園を一斉に非表示にした。

「・・・うーん。ここまでかな?」

ものの数分でリストは完成した。

「23個中、心琴ちゃんの大きさの人間が雨宿りできるのは・・・4か所だね!」

「それなら1人1カ所回れば確認できる!ありがとう、丸尾さん!!」

鷲一は丸尾の手を握った。

丸尾は照れ臭そうにはにかんだ。

「じゃぁ、朱夏様は北の、海馬坊ちゃんは東の、鷲一様は南、で僕が一番遠い西の公園へ行きます。」

「了解!」

「早速行きましょう!」

「見つかっても見つからなくても連絡をくださいね。」

4人はそう言うと雨の中散り散りに走っていった。


◇◇


一番近くの公園だった朱夏は5分足らずで公園に着いた。

「心琴ちゃん!!どこ!?」

目の前には大きな屋根の付いた小屋がある。

「いるとしたら・・・ここですね?」

朱夏はゆっくりとその中を確認するが誰もいなかった。

「ここではない・・・と言う事でしょうか?」

朱夏はすぐさま他の人にメッセージを送信した。

すると丸尾からもすぐに返信が届く。

「残念ながらここにもいませんでした。」

西の公園にも心琴の姿は無かったようだ。

「って事は・・・東か、南ですわね。」

朱夏は今来た道を戻っていくのだった。



鷲一は、なれないナビに四苦八苦していた。

『ここを右に曲がってください』

そう言われたまま歩いているのに、急に矢印の方向が変わる。

「あぁ!?まて、さっきの方向と逆を指してやがる。」

あまりにもスマホが使えず、原始人と海馬に笑われたこともある。

「くっそー・・・。少しくらい使い方を学んでおくべきだったな・・・。」


叔父による嫌がらせの数々の中には、父親に成りすましたSNS投稿があった。

父親と叔父は双子なので顔がそっくりである。

それを利用して酷く残酷な写真や倫理観にかける投稿を繰り返しされ、最後に鷲一の家族写真を載せられた。それを見たネットの人々は鷲一のお父さんによる投稿だと思い込む。住所もさらされ、鷲一の一家は日本中から嫌がらせを受けることになった経緯がある。

それが原因でこの年までスマホをほとんど触ったことがなかったのだ。

『目的地に到着しました。』

丸尾が設定した公園にたどり着くのに、普通に歩けば10分の所を20分かかって鷲一は到着した。

「心琴!!心琴いねぇか!?」

早速公園を探し回る。

結構大きな公園だった。

その中央に大きな山のような遊具が見えた。

「心琴・・・?」

山の入り口は鷲一も入れる程の大きさがあった。

中をよく見渡してみるが、そこには誰もいなかった。

「・・・違ったの・・・か?」

鷲一はがっくりと肩を落とす。



一方海馬はまっすぐに公園に到着していた。

それでも、結構遠くて15分はかかったように思える。

「あれかな?山のような形にトンネルがくっついてる。」

海馬の到着した公園はそこまで大きくない。

目の前に大きな山があり、トンネルが続いていた。

そのほかにもブランコや砂場がちょこんとある。

「心琴ちゃん?いるなら、返事をしてくれないか?」

海馬は山の中を覗き込む。

「あ!!」

狭い山の中、探していた人影はすぐに見つかった。

ぐったりとして横に寝そべっている心琴の姿があったのだ。

「こ・・・心琴ちゃん!?大丈夫!?」

慌てて山の中に入っていく。

地面から心琴を抱きかかえると海馬は驚いた。

「熱い・・・熱があるんだ!」

「・・・しゅ・・・いち・・・?」

抱き抱えられて心琴は目を開けずにか細い声を出す。

「心琴ちゃん!?」

「ご・・・め・・ん・・・ね。」

心琴は海馬を認識できていないようだった。

「心琴ちゃん?ちがうよ、海馬だよ?鷲一も今呼ぶから!!ちょっと待ってね?」

そう言って自分の羽織っていたジャケットを心琴にかぶせて一度横にする。

LIVEのみんなにメッセージを送った。

『心琴ちゃん発見!!ひどい熱だ!!』

それだけ書いて海馬はスマホを一度閉じた。

(きっと、みんなはこっちに迎えに来てくれるはず。とにかく心琴ちゃんを何とかしなくちゃ。)

海馬は視線を心琴に戻す。

するとどこからか変な声が聞こえた。


グルルルルルッ!!!


うめき声のような声に海馬は戦慄した。

「野良・・・犬?まさか・・・野良犬がまだ近くにいるのか!?」

あたりを見渡すが、どこにも犬の姿は見えない。

「??じゃぁ・・・この声は一体?」

ふと自分のジャケットの方をみる。

その下からこのうめき声が聞こえていることに海馬は気が付いた。

「・・・え?」

目を見開く。

このジャケットの下には心琴がいるはず。

「心琴ちゃんが・・・呻いてるの?」

海馬は被せていたジャケットを一気に剥いだ。

「グアァァァッ!!!」

「なっ!?!?」

心琴が急に海馬に襲い掛かる。

いきなり正面から飛び掛かられて海馬は後ろに転倒した。

「うわっ!!」

まるで獣がマウントを取るように海馬の肩に両手を置き海馬を押さえつけた。

「ちょっと!?どうしたの心琴ちゃん!?」

心琴は海馬の呼びかけに全く応じない。

野獣のような素振りで手を振りかざした。

「う・・・うわっ!!!」


ガリッ


振りかざされた手は、咄嗟に防御した腕に命中する。

「あいててて・・・。」

軽く血がにじむ程度の引っ搔き傷が海馬の腕に3本出来上がった。

そして、それを機に心琴はふらりとし始める。

「なっ!今度は倒れるの!?ちょっと!?」

慌てて心琴を抱き寄せた。

地面すれすれでキャッチする。

もう少しで頭を打ち付けるところだった。

「あ・・・あぶなかった。」

心琴を抱きかかえながら安堵のため息を吐く。

海馬は急にすやすやと眠り始めた心琴をしばらく呆然と眺める。

(今の心琴ちゃん・・・なんだったんだ・・・??)

頭の中が混乱して動けずにいた。

すると、ふと怒りのオーラを背中で感じる。

「なぁにが・・・危なかった・・・ですか?」

「へ?」

「人の彼女・・・抱きかかえてるんじゃねぇぞ?」

「へ!?!?」

後ろを振り返ると、明らかに怒っている朱夏と鷲一がいた。

「え!?ちょっと!?勘違いしないでくれ!!」

けれども、心琴はしっかりと海馬の腕の中にいる。

二人には海馬が心琴が気を失っているのをいいことに抱きしめているように見えたのだ。

「もう、海馬君のバカっ!!」

「朱夏!?」

「心琴を返せ!!」

「鷲一まで!?」

二人の勘違いは止まらない。

「違うんだ!まじで誤解だから!!!ちょっと!?二人とも聞いてくれって!!」

海馬がそっぽを向く二人の誤解を解くのにこの後、数分程かかったのだった。


◇◇


一行は丸尾の車に乗って帰宅途中だ。

「あー・・・さっきはすまなかった。」

「私も・・・ついてっきり勘違いいたしました。ごめんなさい。」

頭が冷えた二人は海馬に謝った。

「もう、二人共・・・そんなに僕って信用無いかなぁ。」

海馬は謝られても釈然としない。

「だって・・・ねぇ?洞窟みたいな遊具の中でああいう格好で抱きしめていたら・・・勘違いもしちゃうって!」

丸尾が笑ってそう言った。

「もう、丸尾さんまで!」

海馬はすこし怒って言う。

「それにしても・・・。心琴ちゃん、ひどい熱ですね。」

いまだ意識が戻っていない心琴を朱夏は心配した。

「さっきまで全然元気だったんだぜ?一体・・・何があったんだ・・・。」

鷲一も本気で心配しているが、今はどうすることもできない。

「これからどうする?病院に向かうかい?」

海馬の両親は病院を経営している。

何かあったらいつでも入れてくれると海馬は思っている。

「・・・一回心琴の家に連れて行こう?今日・・・喧嘩したらしいんだ。心配していると思う。」

鷲一は朝の事を思い出してそう言った。

内容は全く聞いていないが、喧嘩したその日になかなか帰ってこなかったら心配するだろう。

そう思っての発言だった。

「そうですね。こんなに遅くなってしまいましたし・・・。」

時刻は夜8時を回っている。

「解りました。心琴様のご自宅へ行きます。」

「お願いします。」

朱夏は何度か心琴の家に遊びに行ったことがある。

丸尾に場所を説明して車は心琴の家へ向かっていった。

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