第38章 コンクール
事件の翌日
ーピンポーン
鷲一は普段よりも緊張していた。
それもそのはず、心琴の家のチャイムを鳴らしている所だからだ。
「いらっしゃい。鷲一!!」
心琴が元気よくドアを開けてくれる。
「お・・・おぅ。」
鷲一の手には寝ずに書いた心琴の絵が描かれたキャンパスが白い布にくるまっていた。
「入って入って!」
心琴は鷲一の手を引くとリビングに連れて行った。
「あら!鷲一君。いらっしゃい。」
「昨日はどうもありがとう。」
松木夫妻は鷲一の顔を見るなり穏やかに挨拶をした。
「ど、どうも・・・おじゃま・・・します!!」
鷲一は滅茶苦茶、緊張した顔でそう言った。
「うっわ・・・来た。なんで、来たの?」
「こら、心湊!そう言うこと言わない!」
部屋から顔だけ出した心湊だけが嫌そうな顔をする。
心琴が心湊に怒るとポム助が心湊に寄り添った。
「あ・・・あれ?このポメラニアン、飼うのか?」
鷲一は昨日は自分のカバンにずっといたポメラニアンを見てそう言う。
「ポム吉って言うんだよね?」
心琴が心湊にいうと心湊は首を振った。
「ちがう。ポム吉さん(・・)この子は私の命の恩人なんだから!」
そう言うとムスっとしたまま心湊はポム吉を連れて部屋に入って行ってしまった。
「・・・俺、もしかしなくても・・・嫌われてるよな・・・。」
鷲一は心湊のキツイ当たりにびくびくしながらそう言った。
「あの子がああいう反応するの珍しいんだけどね・・・。」
心琴もちょっと困惑気味にそう言う。
「ねぇ、鷲一君。君の手にあるのって・・・もしかして油絵かい?」
心琴のお父さんが鷲一の手のキャンバスを指さしてそう言った。
「あ!そうだ!コレ、心琴にプレゼント。」
「本当!?見て良い!?」
「ああ・・・。」
鷲一は心琴にキャンバスを差し出す。
心琴はゆっくりと被っている布を取り外した。
「!!!!」
心琴はその絵に一瞬で心を奪われた。
「き・・・キレイ・・・。」
そこに描かれているのは美術館で絵を眺める心琴だった。
昨日と今朝とでちょっとだけ違う点は、髪の毛の一部がオレンジになっている点だ。
「こ・・・これ・・・鷲一君が描いたのかい?」
その絵に心を奪われたのは心琴だけでなかった。心琴のお父さんも目を丸くしてその絵に見入っている。
「え・・・あ、はい。俺がこの間のデートの時にスケッチしたものです・・・。」
「あの時の!!そっか!私を描いてくれてたんだ!」
心琴は嬉しそうに笑った。
心琴のお父さんは目を見開いて鷲一を見ている。
その目に鷲一はタジタジになった。
「君、だれに絵を習ったんだい?」
「・・・え?習った事・・・?ないっす。」
鷲一は食いつき気味のお父さんに困惑しながらそう言う。
「まさか・・・独学!?」
「は、はい。」
「高校3年だろ?そうか・・・定時で・・・中学にも行っていないんだったな・・・。」
再びお父さんが学歴の事をいい始めたので鷲一は目を背けた。
「す・・・すみません・・・。」
困りながら謝る。
それだけはどうしようもない事実だ。
けれども、心琴のお父さんはそんなことどうでも良さそうにもう一度絵を食い入るように見つめている。
「実はね・・お父さん、昔は美術の先生をしてたんだよ?」
「へ!?!?!」
突然の心琴の告白に鷲一の声は思いっきり裏返った。
そんな人だと知っていたら、自分の絵なんて見せなかったと鷲一は少し心琴を恨めしく思う。
鷲一はふと、作戦会議の日に丸尾が言ったことを思い出した。
【・・・鷲一さんは絵が上手だと聞いております。是非その絵を父親に見せてみてください。】
そんな事を扉を出る直前に言い残していった。
「ま、丸尾さん・・・知ってたんだな・・・?どういつもこいつも・・・」
先に教えておいてくれたら良かったのに、と少しだけ丸尾も恨むのだった。
「お父さんね?今は、自分の生徒たちの絵を斡旋して売る仕事をしているの。」
「え、じゃぁ、絵のプロじゃねぇか!!」
鷲一はますます驚いた。
そんな人が自分の絵を見ている。
それはそれで貴重な体験かもしれないと鷲一は心臓をバクバクさせながらその評価を待った。
しばらく絵をみる心琴のお父さんを真剣なまなざしで鷲一と心琴は見守る。
「大したもんだ。」
「へ?」
目を丸くしてその言葉を聞き返した。
「だから、大したものだと言っているんだ。」
「あ・・・ありがとうございます!!」
思ってもみない評価に鷲一はまた目を丸くした。
「鷲一君。もし、君さえよければこの絵はコンクールに出した方が良い。」
「へ!?」
今日は思ってもみない言葉が次から次へと出てくる。鷲一は目をきょろきょろさせて戸惑っている。
「大丈夫、作品は戻ってくる。どうかね?」
「鷲一!すごいじゃん!お父さんがそんなこと言うの私初めて聞いた!!」
「え!?え!?」
1人だけついていけないで鷲一は混乱しぱなっしだ。
「それで、どうだい?」
「こ、心琴さえよければ・・・。」
ぼそりとそうつぶやくと心琴は笑顔でうなずいた。
「出してみようよ!コンクール!!!」
明るい声が心琴から返ってくる。
「よし!決まりだ!!すぐに郵送の準備をしよう!!実は高校生の絵画コンクールでちょうどいいのがあるんだ!」
猪突猛進な心琴の父親はそう言うとあっという間に厳重な梱包を施してくれた。
「なんか・・・すごいことになってきちまった・・・。」
あっけにとられる鷲一を余所に、油絵はまたたくまに郵便局に集荷されていった。
この作品が2か月後に別の波乱を巻き起こすことを心琴も鷲一も知る由もない。
「さて!!鷲一君!今日は一緒にご飯を食べて行ってくださいね。」
それまで3人の様子をやさしく見守っていたお母さんが美味しそうなランチを出してきてくれる。
色とりどりの野菜が入った夏野菜カレーだった。
「うわぁ!うまそう!!」
思わずよだれが出そうになる。
「お母さんの料理美味しいんだよ!」
それは漂う匂いから既に感じている事だった。
「心湊ー!ご飯だよ!!」
心琴がいつもするように心湊を呼ぶと心湊は部屋から出てきて明らかに嫌な顔をする。
「げ・・・まだいるの?・・・もう・・・しょうがないなぁ。」
口はとがらせながらも、心湊は食卓に座った。
「さぁ、いただきましょう?」
全ての料理を運び終わった心琴のお母さんも席に着く。
「さぁ、座って座って。」
お父さんが食卓の椅子を引いてくれる。
「ありがとうございます!」
鷲一は心琴ファミリーと一緒に食卓を囲んだ。
「さ、食べよっ!!」
心琴が笑顔でみんなに声をかける。
「せーのっ!!いただきますっ!!!」
初めて心琴ファミリーと食べる今年最後の夏野菜カレーは特別においしかった。
こうして、秋の風が吹き始める頃に起こった「人類犬化事件」は終わりを告げる。
鷲一は未だ違和感しかない左足に一抹の不安を覚えながらも平和なこの時を楽しむのであった。
おしまい
こんにちは、いもねこです!
最後まで読んでいただき本当にどうもありがとうございました!!
いかがでしたでしょうか?
私は個人的に動物が大好きで、こんな作品になってしまいました。
犬耳萌え!>(・w・
最初のプロットでは朱夏が生やすはずだった犬耳が話の流れを考えているうちに海馬になってしまいましたね。朱夏の犬耳もいいよなぁ・・・なんて未だに思っています。
長くなったのに最後まで読んでいただき本当に本当にありがとうござました!
次回作では朱夏・紗理奈・海馬の過去に何があったかが明らかになります(タブン!)
表紙絵は朱夏ちゃんです!10/10から更新開始予定(タブン!!)
もし気に入っていただけたら、ブクマ・評価などをお願い致します!
それでは!また、お会いできる日を楽しみにしています!




