第31章 融合!?
鷲一と桃と心琴の霊魂が入ったポメラニアンは角田の車で揺られていた。
「ってかぁ・・・。その怪我、やばくなぃ?」
桃が固定具の上からも血が滴る足を見た。
「・・・分かってる。」
静かに鷲一がそう言う。
折れている所の怪我では無い。
足は完全に皮と僅かな肉だけで繋がっている。
「ねぇ・・・触っていい?」
その言葉に驚き桃を見ると桃は舌舐めずりをしていた。
桃の目がこの上なくうずいているのを感じて鷲一は恐怖を覚える。
「ちょ!!待て!!!こっち来るな!!!」
手で桃が来るのを阻止しようとするが、狭い車の中では大した意味にならない。
「ちょっとだけ!!ちょっとだけだからぁ!!」
おねだりする様な声を出して迫ってくる。
「こんの!!桃!!やめねぇか!!」
鷲一は本気で怒るが、桃は止めようとしない。
手が簡易ギブスに向かっていく。
「おい!!車の中で暴れるな!!」
角田がそう叫ぶが二人は聞いちゃいなかった。
「キャン!キャン!」
心琴ポメラニアンも吠えている。
2人はバタバタと後部座席で暴れたが、鷲一が弱っている事もあり遂に隣まで来てしまう。
傷口の手間まで手を伸ばすと、桃は目を桃色に光らせた。
「げ!?」
嫌な汗が噴き出る。
桃の手から小さな静電気のボールが飛び出して来た。
鷲一はいよいよ焦った。
ただでさえ痛い傷口に更なる攻撃を味方から受けそうになるとは思っても見なかった。
「やめろ!!やめてくれ!!!」
大きな声で叫ぶ。
本気で鷲一は暴れた。
「車ん中で暴れんなって!」
「暴れないでよ!ずれちゃうじゃん!」
角田と桃が同時に言う。
けれども鷲一は何とか桃を阻止しようとさらに暴れた。
「傷口狙ってる!!傷口だけはやめてくれ!!」
桃に拷問癖があると聞いていたが、いざ自分が標的になるととてつもない恐怖だった。
しかし、桃は鷲一の肩を座席に強く押し付けたかと思うと一思いに静電気ボールを傷口目掛けて打ち込んだ。
―バチン
「いっでぇぇ!!・・・・あ・・・あれ?」
最初は激しい痛みを感じたものの、今まで痛かったのが嘘のように感覚が無くなっていく。
「へ?あ・・・あれ?痛く・・ねぇ??」
何が起こったか分からない鷲一は桃を見上げた。
「電気を神経に送り込んで、痛みを麻痺させてあげたの!敵の陣地に乗り込むんだから痛みなんて感じてられないでしょ?出血大サービスなんだから!キャハッ!!」
とても満足そうに桃は笑った。
「そ・・・それを早く言えよ・・・。」
顔が完全に引きつったまま大きく息を吐いた。
「それ言っちゃったら鷲一の恐怖におびえる顔を見れないじゃなぁい?キャハッ!!!」
ドがつくSの恍惚な笑みが溢れる。
「確信犯かよ!!クソ!!」
鷲一は口をへの字に曲げて悪態を吐いた。
「良いじゃない!それくらいのご褒美があっても!一時的とは言え痛みを無くしてあげたんだからっ!キャハッ!!」
にっこりと笑う桃に鷲一は眉間にシワを寄せてそっぽを向く。
「ったく・・・。・・・ありがとな、桃。」
桃を見ないままボソッと呟く。
「貸し1だからね?キャハハッ!!」
「マジ?」
その言葉に思わず振り向く。
「うん、マジ!!」
完全に女王様気質の桃は鷲一に勝ち誇った笑顔をみせるのだった。
「ったく・・・じゃれるのも、ほどほどにしておけよ。ほら、付くぜ。」
角田は呆れながら二人にそう声をかける。
目の前には先ほど逃げ出した大学の獣医学部が見えてきている。
「・・・あれ?なんだありゃ。」
角田が近づくのをやめて車を脇道に停車させた。
すぐにライトを消す。
「どうしたんすか?」
「あれ、見ろよ。」
見ると目の前には軽トラックが止まっている。
その荷台にはたくさんの犬用のゲージが積まれていた。
「・・・あ・・・。紗理奈とS-03だ。」
鷲一は白衣を着た二人を見てそう言った。
二人は荷台にゲージを積んでいるようだった。
どうやら、トラックのゲージは空っぽの物しかなさそうだ。
「・・・まさか・・・さらに犬を連れてくる気なのか?」
「だとしたら相当な数じゃない・・・?」
鷲一と桃は顔を見合わせた。
自分たちが立ち向かうのが無謀な気さえしてくる。
しばらく様子を見ていると軽トラックにのりこみ紗理奈とS-03はどこかへ行ってしまった。
「・・・と・・・とにかく行かねぇと。」
少しだけ怖気づいた様子で鷲一は言う。
「クゥン。」
心琴ポメラニアンは不安そうに鷲一の手を舐めるのだった。
◇◇
大学の獣医学部の1階の大部屋。
所狭しと置かれていたゲージも、中にいた“人間犬”も一匹残らずそこには居なかった。
そして、海馬狼もゲージと共にどこかへいなくなっている。
辺りは静寂に包まれていた。
死神はそんな静かで真っ暗な部屋にポツンと置かれた檻の中で目を覚ました。
「ハッ!?!?」
自分の手を見る。
「・・・や・・・やべぇ・・・。」
そこには既にスピリット・リッパーは無かった。
「心琴・・・心琴の奴は!?どうなったぁ!?」
スピリット・リッパーが解除してしまったと言う事は、心琴の霊魂は天へ召されてしまったに違いない。
そう思い死神は自分の手を信じられないような顔で見つめた。
「・・・俺が・・・俺が・・・心琴を殺しちまった・・・?」
手はわなわなと震えた。
死神は絶望して膝をついた。
けれども、その絶望は一瞬で解消されることとなる。
「しにがみいいいいいいいいいい!!!!!!」
玄関からとてつもなく大きな声で鷲一の声が響いた。
「なっ!?鷲一!?あの馬鹿!ここ敵陣だぜぇ!?」
戻ってきたのは嬉しかったが、敵に見つかっては意味がない。
「死神!!!!やべぇんだよ!!」
急に大部屋の明かりが付いたかと思うと、松葉杖をついた鷲一と桃が部屋に飛び込むように入ってくる。
三上がくれたショルダーバッグにはポメラニアンが一匹、舌を出して顔を覗かせていた。
「犬、いねぇな。海馬もだ。どこいっちまったんだ?」
鷲一はあたりを見渡してそうこぼす。
けれども今はそれよりも心琴だ。
「馬鹿、鷲一!声がでけぇ!!!敵に見つかるっての!!」
死神は焦って鷲一に声をかける。
「大丈夫だ。あいつらなら、どこかへ出掛けた!」
鷲一はとりあえずその事だけを伝え、ポメラニアンを死神の前に突き出した。
「あぁ?なんだこの犬?これも“人間犬”なのかぁ?」
死神は状況が理解できない。
「実はな・・・心琴の魂がこっちに来て・・・。」
「無事についたのかぁ!!良かったぜぇ・・・。」
死神は安堵のため息をつく。
けれども心琴の魂らしいものが見つからない。
「・・・で・・・心琴の魂はどこだぁ?」
死神はあたりを見渡して、ハッとした。
目の前には黒くて丸い目をした可愛いポメラニアンが舌を出している。
「魂を入れる体が無くて・・・この犬に入ってるんだ・・・。」
「なにぃぃぃぃぃ!?」
そして、すぐに安堵できなくなった。
「てめぇ!!桃!!少しは考えろ!!」
死神は桃に向かって怒るが桃は髪の毛をいじっている。
「だってー・・・鎌が消えちゃったんだもん?キャハッ」
死神に向かって嫌らしく桃が笑った。
言いたいことが遠回しに伝わってきて死神は腹を立てながら犬に手を伸ばした。
「ぐぐ・・・。悪かったなぁ!・・・さっさとその犬よこせ!!」
その焦りように鷲一はすぐに檻の隙間からポメラニアンを死神に渡した。
「犬に魂いれたら、まずいのか?」
鷲一が聞きにくそうに死神にそう言うと、死神はため息をついた。
「当たり前だろぉがよぉ。魂ってのは実体がねぇ。隣り合ってる部分から融合するんだぜぇ?」
「げ!?・・・って事はポメラニアンの魂と心琴が・・・。」
「ああ。ほら。融合しかけてる!!まずいぞ!!!」
死神は指を指さしてそう言うが桃にも鷲一にもそれは見えない。
死神の視点からは心琴とポメラニアンの体の半分くらいがくっついているように見えていた。
「切ってくれ!!頼む!!切り離してくれ!!」
血相を変えて鷲一は死神に頼み込む。
「なんとなく半分にしてみるけど・・・俺様にだって無事かどうかは解んないからなぁ!?」
その様子にちょっとビビりながら死神は手を出す。
「スピリット・リッパー・・・!」
いつもの3分の一にも満たない小さな鎌が出てくる。
「小さっ・・・!!!」
桃はミニマムサイズの鎌を見て笑いそうになっている。
「今はこれが限界なんだぁ・・・。だけど、魂切るくらいなら問題ねぇ。」
そう言うと死神はポメラニアンの真横を切るような仕草をした。
ポメラニアンはすぐにしっぽを振って動きだし、ショルダーバッグに戻っていった。
「うし。これで大丈夫・・・だと思うぜぇ。心琴の魂は俺が持っている。体を探すんだなぁ。」
そう言うと死神は鷲一と桃に手を振った。
「よ・・・よかった。ありがとう死神!恩に着る!」
「体見つけたら戻ってくる!あ、あと鍵ね!鍵も探してあげるよ!キャハッ!」
鷲一と桃は部屋を後にした。
死神は二人を見送った後そっと霊体の心琴に話しかける。
二人には見えていないが、心琴はちゃんと死神の隣に立っていた。
「鎌・・・最後まで持たなくて悪かったなぁ・・・。」
死神は霊体の心琴に申し訳なさそうに謝った。
けれども心琴はゆっくりと首を振る。
「死神君は力の限り頑張ってくれたワン!・・・ワン?」
自分の語尾に驚いて心琴は手で口を押えた。
「・・・やべぇ・・・ちょっと犬混ざったなぁ・・・。」
死神は冷や汗を垂らしながら目線を逸らした。
「あ・・・あはは・・・まぁ、大丈夫ワン!」
「大丈夫ではないがなぁ。まぁ、大半が心琴みたいだからきっとすぐに戻ると思うぜぇ。」
憶測で死神はそう言った。
「・・・鎌が消えかけた時、実は杏ちゃんが見つけてくれたワン。」
「そうだったのかぁ。アイツの力、俺に似てるからなぁ。察知してくれたんだなぁ。」
死神は少し嬉しそうに杏の話をする。
「途中で消えかける鎌に、力を注いで時間を稼いでくれたんだワン!おかげで桃が来るまで鎌が形を維持できたんだワン!」
心琴は笑顔で死神に杏の雄姿を伝えた。
「杏が?」
驚いた表情で死神は心琴を見る。
心琴も死神に笑いかけた。
「今は疲れて家で寝ちゃってるんだけど、帰ったら褒めてあげてワン!」
「・・・そうか・・・ああ。そうするよ。」
死神もなんだか誇らしそうにそう言って笑う。
そして心琴をちらっと見てまた笑った。
「な、何ワン?」
「良い話してるのに・・・その語尾・・・しまらねぇなぁ?」
「は・・・早く戻ることを祈るしかないワン・・・。」
歯を見せて笑う死神に心琴は困った顔で笑い返すのだった。




