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第30章 伝言

田舎町のとある公園。

兄が帰って来なかった事にショックを受けて、店から走り去ってしまった杏は公園のブランコで泣いている。

追いかけてきたエリはそれを見つけ、ゆっくりと杏に歩み寄った。

「杏、大丈夫?」

エリはブランコの正面まできて声を掛ける。

「お兄ちゃん・・・死んで無いよね?!」

杏は涙を溢しながらエリのお腹に抱きついた。

「杏・・・。・・・大丈夫、死神、強い!」

エリはしっかり目を見て杏に言う。

杏はそれを聞くと更にエリのお腹に強くしがみついた。

「お兄ちゃんが、居なくなると思うと・・・怖いの。」

その怖さは一昔前のエリには解りかねるものだっただろう。

けれど、今となっては朱夏がお姉さんのような存在なので理解できた。

エリは杏をぎゅっと抱きしめる。

「杏。杏が死神、信じる!大事!」

「!!」

力強く抱きしめられ、杏は涙が止まらなくなった。

エリはしばらくそのまま、杏が泣き止むのを待つことにする。

そうすること数分。エリに抱かれたまま杏は徐々に泣き止んでいった。

「大丈夫?」

「うん・・・。もう、大丈夫。ありがとうね、エリ。」

エリが聞くと、杏はようやく笑顔で答えてくれるのだった。

「エリの言う通り・・・だよね。お兄ちゃんならきっと大丈夫。」

「そう!その調子!」

杏は涙を自分の袖でグイっと拭った。

「・・・って・・・あれ?」

急に杏は不思議そうな顔をしてきょろきょろとあたりを見回す。

そしてそのまま立ち上がり、空を眺め始めた。

「杏??どうした?」

エリは急に真面目な顔で空を眺める杏を不思議そうな顔で見る。

「スピリット・・・リッパー・・・?」

つぶやきながらあたりを見渡した。杏にしか分からない気配が空を漂っている。

「え?!スピリット・リッパー??死神の?」

「うん!この気配、間違いないよ!!お兄ちゃん、生きてるんだ!!」

杏の表情に輝きが戻る。

「あっちあっち!!!」

杏はブランコを飛び降りると、急に住宅街へ走り始めた。

慌ててエリも後について走り出す。

「あ!あれ!!」

エリが小学校の方向を指さすと、そこには見慣れた赤い鎌の先端があった。

「お兄ちゃんの鎌だ!!!鎌の先端に・・・誰かの霊魂がある!!」

「え!?」

霊魂は日食でない限り、普通の人には見えないが、死神兄妹は生まれつきの霊感兄妹。

エリには見えないが、杏には魂の影が見えた。

「本当だ・・・かすかにパラサイトを感じる。」

エリには気配を感じるのがやっとだった。

「鎌が消えかけてる!急ごう!エリ!!」

「うん!」

二人は急いでそのまま小学校へ走った。


小学校の校庭に到着すると、そこには消えかけている赤い鎌があった。

その先端はどんどん上に向かって浮遊しかけている。

「いた!!」

赤い鎌は上を向いて傾いている。

傾き始めている理由は明白だ。

鎌の先端にある霊魂が天に召されようとしているからだ。

「や・・・やばい!!鎌が消える!!先端の霊魂が上に引っ張られてるんだ!」

「ええ!?」

それを聞いたエリは困った顔で驚いている。

杏は校庭に駆けていくとジャンプして何とか赤い鎌の柄を掴んだ。

しかし掴んだ先からボロボロと鎌は消えていく。

手繰り寄せるようにして鎌を離さないようにしつつ杏は上を向いた。

「先っぽにいた霊魂・・・あ!!」

先端をみて、杏は知り合いがそこにいることに驚いた。

「杏ちゃん!!!見えるの!?お願い、助けて!!!」

鎌に括られた心琴が杏に向かって助けを求める。

「心琴さん!?!」

杏は思わず驚きの声を上げた。

「え?!心琴、いる!?」

その声にさらにエリも驚いた。

エリには見えないが、死神の赤い鎌の先端には心琴がいるらしい。

心琴は間髪入れずに杏に向かって伝言を叫ぶ。そのために無理矢理ここへ来たのだ。

「朱夏ちゃんに!!伝えて!!お肉をたくさん!!用意してって!!大学の獣医学部へ行って!」

決死の伝言に杏は力強くうなづいた。

「解った!!!!エリ!!伝言をお願い!」

エリを振り返り、伝言ゲームさながら、今言われた内容をそのまま伝える。

「エリ、心琴さんから伝言!!お肉を沢山用意して大学の獣医学部へ行ってって!!!お願い、朱夏さんに伝えて!!あと、桃も連れてきて!!早く!!」

赤い鎌の先端をなんとか手繰り寄せながら杏はエリに叫んだ。

「わかった!!エリ、走る!!!」

それだけ言うとエリは来た道を全速力で駆け戻った。

「確かに伝言は伝えられたけど・・・やっぱり、このアイディア『良い案』ではなかったかも?!」

もはやほとんど柄が残っていない鎌を見て心琴は焦って叫ぶ。

このままだと、もっても後1分だ。

崩れ去る鎌をみて、杏の目に力が込み上げた。

「ウチ・・・なるべくこの鎌に力を注いでみる!!」

杏は決意の表情を浮かべている。

「え!!」

「同じ・・・兄妹だもん!!能力として発現してなくても・・・少し位、力の足しになると思う!!」

杏は全力で力を鎌に集中する。

「杏ちゃん!!」

「はぁぁぁぁぁ!!!!」

杏の目がぼんやりと光る。

その手は以前プールで見た時よりも強く赤く光っているように思えた。

「すごい!!杏ちゃんの目、前よりも光ってるよ!!」

「ウ・・・ウチだって・・・お兄ちゃんの・・・妹だし!」

気丈な杏は口ではそう言うけれども見るからに苦しそうだった。

それでも、その力のおかげで鎌の崩壊は止まり、かろうじて形を保っている。

その間に、心琴は杏に話しかける。

「死神君も、海馬さんも今は無事だよ!獣医学部の檻に閉じ込められてる。海馬さんは・・・狼になって自我を失ってる。死神君は怪我を負ってるけど意識はあるし動けてる!!」

「よ・・・よかったぁ・・・!!」

杏は兄の安否が確認できて歯を見せて笑う。

「はぁっ・・・はぁっ・・・!!!」

しかし、その余裕も徐々に無くなっていくのを心琴は感じた。

「鎌・・・消えていくのは、私をここに送るために無理をしてくれたんだと思う。杏ちゃんのお兄ちゃんは本当に強いお兄ちゃんだね!!」

「・・・えへへ。そう・・・でしょ!」

杏は兄を褒められて嬉しそうに目を細める。

「ハァ・・・ハァ・・・まだ・・・かな・・・?やばいん・・・だけど!!」

心琴からも杏が肩で息をして大量の汗をかいているのが解る。

もともと力が強くない杏はかなり無理をしているようだった。

そして、あっけなく限界は来てしまう。

「あ・・・。」

杏は目の前の景色がグニャンと曲がるのを感じ、その場に倒れてしまった。

鎌は再び崩壊を始め、とうとう柄の部分は無くなり心琴は宙に浮かんでいく。

「・・・杏ちゃん!!その・・・最後まで・・・ありがとう・・・ね。」

心琴は泣き出しそうな顔をしながらも杏にお礼を言った。

杏は倒れたまま心琴に手を伸ばすがもはや届かない。

「だ・・・だめ・・・!!!早く・・・早く来てよ!!」


「桃!!!!」


杏が涙の雄たけびを上げたその時、校庭にピンクの少女が駆け込んだ。

「イジェクト・ソウル・・・からのー!!!」

遠くで聞きなれた声が聞こえて杏は目を閉じて笑った。

ピンクの少女から放たれた小さな静電気ボールは心琴の魂に命中する。

「インサート・ソウル!!!!」

そして、その言葉を境に心琴の魂は地面へと落ちてくる。

「わっ!!!!」

急降下に心琴は驚きの声を上げる。

そしてさらに驚いたことに、魂は心琴の体ではない方向へ「吸着」を始めた。

心琴が目を覚ますと、自分の体が毛だらけな事に気が付く。

「クゥン?」

喋ろうとするとそれは犬の声だった。

「心琴ちゃん!!ごめん!!咄嗟だったから用意できる体がなくて!!」

吸着を終えた桃はすぐさま心琴に謝った。

「この子に吸着させちゃった・・・。」

「ワン・・・。」

桃の手には茶色いポメラニアンがいる。

桃は心琴の魂をポム吉に吸着させてしまったのだった。

「は・・・?」

杏は素っ頓狂な声を上げる。

そして、2,3回桃と犬の顔を見比べて再度大きな声で驚きの声を上げた。

「えええええええええ!?!?それ、大丈夫なの!?!?」

「ごめん、桃にもわかんない!キャハッ!!」

困った顔で桃は笑うのだった。

「あ!!だ、大丈夫でしたか!?」

朱夏とエリが校庭に到着すると、桃が杏を抱きかかえている所だった。

「杏!!」

エリが桃に抱えられている杏を見て駆け寄る。

桃に抱えられた杏は疲れて眠ってしまったようだった。

「死神の鎌を維持してたらしいのぉ。無理のし過ぎね!キャハッ!」

「すぐに布団に寝かせましょう。」

朱夏は杏をおんぶすると、全員が中華屋の2階に戻っていった。



中華屋の2階では鷲一と三上が待っていた。

三上が杏を布団へ横にしてくれる。

桃も起きて急に力を使ったためフラフラとその場に座った。

「桃、大丈夫ですか?」

朱夏は桃も心配する。

「ありがとう・・・大丈夫だよ!キャハッ」

明るくウインクして桃はいつもの調子で笑うが、明らかにいつもよりも疲れた様子だった。

「さて・・・状況はさっき話した通りだ。これからどうする。」

鷲一はエリが助けを呼んでくる前に事の一部始終を桃と朱夏と三上に話し終わっていた。

朝、死神と大学へ潜入したことから始まり、沢山の犬が獣医学部の檻に居て、それらが行方不明になっているであろう看護婦の“人間犬”だと言う事、ネックレスの目の前のゲージに海馬狼が居た事、“人間犬”らしいポメラニアンを2匹保護した事、S-03は白い狼で死神をぼこぼこにするほど強い事、組織に勧誘されたこと、心琴がパラサイトにされて人を犬にしていた事、そして、心琴のパラサイトを無理に使わせる「紗理奈」という女の子がいる事。

てんこ盛り過ぎる内容を何とか理解しようと聞いていた3人は最早頭はパンク状態だった。

「とにかく・・・私は心琴ちゃんの伝言通り、沢山のお肉の用意をします。三上、一緒に来てください。」

「かしこまりました。」

沢山の量をと言う事なら三上の手が必要だった。

「桃はー。心琴ちゃんの魂を付け替えなきゃいけないよね。キャハッ」

桃は困ったようにポメラニアンを見る。

「クゥン・・・」

心琴ポメは言っていることを理解しているのか首を傾げた。

心湊ポメラニアンが近づこうとすると朱夏が抱きかかえて元の位置へ戻す。

「どっちに魂が吸着したかわからなくなってしまいます。あなたはここでお留守番をしていてくださいね。」

「クゥン・・・。」

心湊ポメラニアンはそう言われると部屋の端に座るのだった。

「中身・・・本当に人間なんだね。キャハッ!」

その様子に桃は感心するのだった。

「んじゃぁ、俺と桃が獣医学部に向かう。ここから急いでも30分はかかるからな。」

「え!?鷲一、その怪我・・・大学行く?」

エリは心配そうに鷲一の顔を見る。

「ああ。桃一人じゃ場所とか分からないだろう?エリは杏の看病を頼んだぞ。」

「え!?エリ、一緒行く!!」

エリは行く気満々だった。

しかし、鷲一は真剣な顔で首を横に振る。

「わりぃ・・・守ってやれねぇんだ。」

エリは鷲一の表情に恐怖の色さえ感じた。

それでも尚、心琴の為に敵の拠点に乗り込むのだ。

エリはその様子に頷くしかなかった。

「わ・・・わかった。無理、ダメ!桃も、無理、ダメ!」

エリは心配で二人にそう言う。

「大丈夫!エリは杏ちゃんをよろしくね!キャハッ!」

「ああ。サンキューな。いってくる。」

鷲一と桃は笑顔でその心配に答えるのだった。

「角田に車を出させます。三上と私はお肉の準備ができ次第そちらへ向かいます!」

そう言うと三上は角田に電話を入れた。

その後で鷲一をみて顎に手を当てて考える仕草をしながらこういった。

「・・・そうですね・・・。鷲一様、防具だけでは心元ありません。私のカバンを持って行ってください。」

そう言って、三上は革製のショルダーバッグを鷲一に渡す。

「これは?」

三上は中身を見せながら説明してくれた。

「サバイバルナイフと、パラサイト捕獲に使えると思い、瓶を用意していたのです。それと、有事の際の応急手当用品です。」

見せ終わると鷲一にその鞄を渡す。

「もし、心琴様からパラサイトが出てきた場合は瓶で捕獲して持ってきてください。私が責任をもって研究します。」

いつになく真剣な三上の表情に鷲一も答えた。

「わかった。心琴に入っている「S」はきっと出るだろうから。見つけたら捕まえるな。」

「ええ。ありがとうございます。お気をつけて。」

大きめなショルダーバッグを肩にかけると、心琴ポメラニアンはそこに飛び込んだ。

「ちょうどいい・・・キャリーケースにもなるな。」

そんな話をしていると、角田が白い軽自動車で迎えに来てくれた。

「おし!じゃぁ、行くか!!!桃、心琴、準備はいいか!?」

「えいえいおー!!キャハハッ!!」

「ワン!!!」

楽しそうに二人は返事をするのだった。

外を見ると夕暮れが夜へと変わっていた。

夢で見たあの例の時間まであと4時間の事だった。


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