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第25章 100点満点

死神と対峙した紗理奈は、内心焦っていた。

(確かこいつ、化け物級の身体能力っしょ!?私なんかが敵う相手じゃないっしょ!)

「おい、どうしたぁ?掛かって来いやぁ!」

そんな紗理奈に死神は詰め寄る。

元々交戦的な死神は久々の戦闘に少しワクワクしていた。

(あ・・・あれを使うべき・・・?い、いや。今はまだ使うわけにはいかないっしょ!考えるのよ、紗理奈!!)

紗理奈はしばらく考える。

そして、ワクワクしている死神の意表を突く言葉が紗理奈からは出てくる。

「た、助けてほしいっしょ!!私、捕まって利用されてるだけっしょ!」

演技がかった口調で紗理奈が頭を下げた。

「ぁ?なんだお前?脅されてんのか?誰に利用されてんだぁ?」

自分自身が魔女に脅されて利用されていた経験から、死神はすんなりとその演技を信じてしまう。

紗理奈は心の中でニヤリと笑った。

「S-03という人!二階の研究室にいるっしょ!!アイツを倒して欲しいっしょ!」

紗理奈は廊下の奥にある階段を指差した。

「二階?よし。案内しろや!・・・んで、あんたは?」

「私はD-37。ゲノム・アイって言う遺伝子の能力っしょ。それを、良いように利用されてるっしょ!」

紗理奈は漏らしても害の無い範疇で自己紹介をする。

それを聞いた死神はため息を漏らす。

「はぁ。非戦闘員かよぉ。つまんねー。」

「こ、こっちっしょ!」

根っからの戦闘マニアに紗理奈はビビりながら死神を二階へと案内した。

二階はシンプルな作りになっている。

階段、トイレ、廊下、そして、それ以外は大きな研究室が1つある。

「ここに居るっしょ!」

そう言うと紗理奈は思い切り研究室のドアを開けるとドアの中に駆けこんだ。

「キング!!助けて!!D-09が攻めてきた!!殺されちゃう!!」

叫びながら研究室の中へと走り去っていく。

「な!?だ、騙したのか!!」

死神はここに来てようやく騙された事に気づいた。部屋の中から紗理奈の声だけが響く。

「あのさ?私はキングが大好きっしょ!脅されてもないし、言う事を聞かされてる訳でも無い!!キングの力になれるならなんだってやるっしょ!」

その声は自信と覚悟に満ちた力強い声だった。

「テメェ!!よくも騙したな!!」

怒りながら叫んで死神も後を追って研究室に入る。

すると、そこには白い狼と紗理奈がいた。

紗理奈は狼に寄り添っている。

「あ?なんだ??」

死神は怪訝な顔をした。

死神が聞いていた話だと、S-03はスラットした髪の長い男性だったはずだ。

「いねぇじゃねぇか。まさか、その犬がS-03とか言わねぇだろうなぁ!?」

その一言に白狼が一歩前へ出た。

「小僧。今なんて言った?」

低い声が辺りに響く。

「ぁ?なんだこの声?」

死神はあたりを見渡すが他には誰もいない。

「なんと言ったと聞いているのだ!!」

低い声は怒りに満ちている。

「あぁ??どこにいやがる??その犬がS-03かどうかを聞いたんだぜぇ!?」

死神はそう言うと目の前よ白狼からすごい殺気をかんじた。

「なっ!?なんだ!?まさか、マジでアイツの声なのか?」

死神は今まで感じたことの無いプレッシャーにたじろいだ。


「我は・・・犬では無い!!狼だ!!!」


その瞬間、死神は正面に居たはずの白狼を見失う。

瞬きをした瞬間に、爪を振り上げた白狼か目の前にいた。

「なっ!?」

死神はギリギリの所で体が反応して真後ろに飛び退いた。

それでも爪が腕を捉えて、3本線の血が滲む。

「イッテェ!」

死神は思わず声を上げた。

「我を愚弄した罪は重いぞ。D-09!」

白狼の攻撃の手は緩まない。

前足で着地したかと思うと今度は後ろ足で死神の腹を蹴り飛ばした。

しなやかな筋肉からは信じられない程重い蹴りが炸裂する。

「ガハッ!!」

死神は一気に廊下まで吹き飛ばされた。

痛みで意識が朦朧とする。

気がつくと頭を切ったのか、床に血が滴った。

(だった2撃で・・・こんなに追い詰められるなんて!!)

力の差は火を見るより明らかだった。

さらに悪い事に相手はカンカンに怒っている。


(やべぇ!超楽しいぜぇ!!!)


今までに無い圧倒的な強い敵に死神は笑った。

そして心底、勝ちたいと思った。

「やられっぱなしは性に合わないんでなぁ!!こっちも行くぜ!!」

死神は手の平をめいいっぱい広げた。

「スピリット・リッパぁぁぁぁ!!」

死神の赤い鎌は不気味に光る。

「小童が!良いだろう。己の未熟さを知るが良い!!」

白狼が牙を剥き出しに叫ぶ。

「望む所だぜぇ!」

赤い鎌を白狼の届くほど長く構えた後、死神は横薙ぎにそれを振りかざす。

しかし、ヒラリと回避されてしまう。

(一度でも、どこかに当たれば、魂を切り離せば、まだチャンスがあるはずだぜぇ!)

死神は今度は鎌を縦に切りつける。

白狼は赤い鎌より先に地面を蹴り、軽く飛び越え更に間合いを詰めてくる。

(今だ!!)

間合いが詰められ、赤い鎌よりも死神側に白狼が移動したのを見て、鎌の長さを瞬時に元に戻す。

1秒も掛からず死神の鎌は元の長さに戻った。

その背中側からの攻撃にも関わらず、白狼は鎌をしゃがんで軽々と避けて見せた。

「何!!?後ろに目でも付いてんのかぁ!?」

連続回避に死神は流石に驚く。

白狼はもう既に腕を振りあげていた。

鋭い爪が目の前で光る。

(ば、化け物かよ!?)

死神はそれでも何とか避けようと咄嗟に床に伏せた。

頭スレスレを爪が通る。

爪を避けて床に伏せたのは良かったが、目の前には大きい狼の後ろ足が振りあげられていた。

気づいた時にはもう遅い。

その足は死神の顎を思いっきり蹴り上げた。

「ガッ!!」

死神はまたもや吹っ飛ばされた。

吹っ飛ばされた先には階段がある。

しかし、勢いがあまりに良すぎて、階段を通り越し、そのまま床の無い二階の壁の縁に突撃する。

「ガハッ!!!」

壁にバウンドして浮遊感を覚える。

目を開けて下を見ると、死神が居るそこは玄関ホールの真上。

天井付近の壁だった。

(ま、マジかよ!?落ちる!!)

「う、ウワァァ!!?」

死神は真っ逆さまに一階まで落ちていく。

「し、死神!?」

そこには心琴と別れて玄関まで来ていた鷲一が声に反応して上を見上げたところだった。

上から降ってくる友人を見て、鷲一は全力で走って手を伸ばす。

地面に落ちる既の所で鷲一は死神をキャッチした。

勢いあまって二人はガラガラという音と共に玄関先に転がる。

後からポメラニアン2匹もついてきた。

「いってぇぇぇ!!どうしたんだ!?大丈夫か死神!?」

キャッチした中学生は血だらけだった。

「あの女・・・そんなに強いのか?!」

鷲一は先ほどポメラニアンをいじめていた白衣の女にヤラレタのだと思った。

死神は女に負けたと思われたくなくて慌てて訂正する。

「ち・・・ちげぇよ!犬・・・じゃなかった。狼だ!さっき犬って言ったらめっちゃキレられてよぉ・・・。」

死神は頭から滴れる血を拭った。

「ってか、なんでまだここに居るんだぁ!?逃げろよ!」

一刻でも早く退散しなくては狼にやられてしまうと死神は焦る。

「狼・・・?海馬って事か?」

「いや、別の白い奴・・・。S-03って、さっきの女は言ってたぜぇ。そんな事より早く逃げろぉ。」

死神は急しながらそう言った。

しかし、鷲一は首を横に振る。

「それが、心琴がここに居て、手錠されちまってるんだ。鍵を探してる。」

「あんだって?!・・・どこだぁ!俺様が鎌できってやるぜぇ!」

死神は鎌を片手に構える。

「切れるのか!?・・・でも他に手はないし・・・こっちだ死神!!」

そう言うと鷲一と死神は心琴のいる部屋へと走り出す。

その時だった。

ポメラニアンたちが急に鳴き始めた。

「キャン!!キャン!!!」

「クゥゥン!!!」

その声に鷲一が後ろを振り向くと、そこには見たことがない白い狼がいた。

白狼は死神と鷲一が話をしている間に近くまで忍び寄っていたのだ。

「ポメ共!!こっちだ!!」

鷲一は大きく手を広げてポメ達2匹を抱える。

そして、可能な限りの速度で廊下を駆け始める。

しかし、狼のスピードに敵うはずなく一瞬で回り込まれてしまった。

先に行った死神に鷲一は大声で叫ぶ。

「死神!!そこをまっすぐ行ったところの左手のドアだ!!」

「わかったぜぇ!!!」

死神が走り抜けたのを見て、鷲一はポメ2匹と白狼と対峙することとなった。

(あ・・・これダメだ。・・・勝ち目・・・なくね?)

牙をむく白狼を目の前に一瞬で負けを悟る。

手が震えて、足がすくむ。

(死神の奴、よくこんなのを相手にしてたな・・・すげぇ・・・。)

手に抱えたポメラニアンたちも恐怖に怯えている。

鷲一はゆっくりと息を吸って吐き出した。

(こういう時こそ・・・ふてぶてしく笑えばいいんだよな・・・?)

海馬がいつもそうしているように、鷲一はおもいっきし笑って見せた。

「よぉ!S-03。初めまして。」

「・・・!?」

いきなり笑顔で声をかけられて白狼は驚いた様子だ。

「心琴を良くもあんな目に合わせてくれたなぁ・・・。」

怒りと笑顔が混ざり合う。

「ほぉ・・・。我を目の前にしても臆せぬか。愚かなり。」

その様子を鼻で笑って白狼が言った。

「目的は何だ?」

「なぜ貴様に教えなくてはならない?D-09が帰ってくるのを待っているのか?浅はかな。」

(だ、ダメだ。全然話にならない。海馬みたく会話だけで状況を変える事なんてやっぱり俺には無理なのか・・・?)

交渉術の難しさを鷲一は目の当たりにする。

目の前の狼は今にも飛び掛かってきそうだ。

(いや・・・海馬と同じじゃなくてもいい。なんとか、場を持たせるんだ。きっと、死神が手錠を切ってくれる!!)

「・・・じゃぁ、俺が目的を当ててやろうか?」

口から出まかせに、鷲一は言った。

「ほぉ?聞こうではないか。」

思いのほか、楽しそうに白狼が言う。

でまかせで言った自分の言葉に鷲一は少し戸惑った。けれども、もう後には引けない。

鷲一はひとまず分かっている範疇の情報を羅列し始めた。

「4日前、お前らは心琴にあるパラサイトを注入したな。犬を使って噛みつかせた。」

チラッと狼を見る。

白狼は座って静かに耳を傾けている。

「心琴の能力は傷つけた相手を犬にする能力だ。」

「ふむ。娘に会って聞いたか。」

「ああ。そうだ。」

白狼はしっぽをパタパタとさせて聞いている。

ここまではとりあえず間違いなさそうだ。

「心琴によって傷つけられた人が犬になる。その犬が別の人に噛みつく事でその別の人も犬になる。こうして犬はどんどん増えるんだよな」

「ふむふむ。」

「心琴が入院していた看護婦や、両親が行方不明なのは犬になってしまったからだろう?」

「おお。ご名答さ。」

楽しそうに白い狼は尻尾を振った。

鷲一は時間が稼げている事に少し安堵しつつゆっくりと話を進めた。

「そして・・・ここに所狭しと置かれている犬達・・・それがその看護婦やご両親・・・元人間だ」

ここまでは先ほどの死神との会話で発覚した事実だ。

「ほうほう!良くわかったね。それで?我はこの犬達で何をしようとしていると思う?」

「・・・。えっと・・・。」

そこで鷲一は言葉に詰まった。

その先の理由まで分かっている訳じゃない。

少し考えるが一向に答えらしい答えが見つからなかった。

「・・・。ふむ・・・“そこまでしか”見抜けていないなら50点だな。50点の生徒は・・・不合格だ。」

普段、大学の講師をしている白狼は先生のようにそう言った。

一歩、また一歩と白狼が近づいてくる。

その鋭い牙がチラチラと見えて鷲一は焦った。

(他に・・・他に・・・何か・・・!!そうだ、敵の能力を桃が言ってた!)

焦りながら桃からの情報を思い出す。

「は・・・ハウンド・マスター・・・!」

「お?」

その言葉に白狼は立ち止った。

割と近くに座り込む。

「ハウンド・マスターで犬を操って・・・さらに犬を増やす・・・?」

思わず白狼に答えを求めて聞き返した。

すると白狼も楽しそうに答えてくる。

「そうそう!その調子だ!!それで・・・?それが進行すると人間はどうなる?」

もう少しで答えが届きそうな鷲一に嬉しそうに白狼がヒントを出し始める。

けれども、鷲一は楽しんでなんていられない。

自分の頭の中で出てきた答えはこうだった。


「人間は・・・全部犬になる?」


「そうだ!!!!良くたどり着いたね!!!君には95点を上げよう!」

「・・・え・・・?マ・・・マジ・・で?」

自分で出した答えが正解だったようで鷲一は困惑する。

むしろ、良い事なんて一つもなかった。

この狼は心琴の能力を利用して人間滅亡を企てているのだ。

「残りの5点・・・導き出せたら殺さないでやろうか。間違ったら・・・わかるな?」

その鋭い眼光に鷲一は息を飲んだ。

「残りの・・・5点?」

「そうだ。」

鷲一は何のことを言っているのか分からなかった。

けれども、どうやらこの狼には他にも目的があるようだ。

「まぁ・・・これだけの犬に対して1匹だけ・・・。その願いは叶うかはちょっと分からないがね。」

これもまた、鷲一へのヒントなのだろうが、白狼が少し寂しそうにそう言う。

そこに先ほどの死神の言葉がよぎった。

【さっき犬って言ったらめっちゃキレられてよぉ・・・。】

「・・・あ・・・!!!」

これだけの犬に対して・・・1匹だけ。

(そうだ。1匹・・・海馬だけは・・・犬じゃない!!)


「狼・・・だ・・・。狼を増やしたい・・・のか?」


つぶやくように鷲一がそう言った。

「おお・・・!!!すごいぞ!!その通りだ!!100点満点を上げよう!!!」

そのワードが出てきて白狼はとても嬉しそうにした。



「絶滅した、ニホンオオカミの再繁栄・・・それこそが我の願い!!」



声高々に白狼は鷲一にそう言ったのだった。

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