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第22章 捕獲

プルルルル

プルルルル


紗理奈とキングが心琴の元を離れたその時、1階の奥にある事務所の電話が鳴り始めた。

本当は帰る所だった2人は顔を見合わせて事務所に戻る。

「こんな遅くに電話なんて珍しいっしょ!」

「我が出よう。」

そう言うとキングら人間の姿へと変貌を遂げる。

「はい。中央南山大学の獣医学部です。」

紳士的な低い声でキングは電話をとる。

「夜分遅くにすみません。中央区保健所です。こちらに狼を研究している教授がいると聞いて連絡致しました。」

電話は保健所からだった。

思っても見ない所からの電話にキングは怪訝な顔をした。

「私が狼の研究をしている(おう)です。どのような御用件でしょうか?」

キングは人間の姿の時は王と名乗っている。

「実は、普通の犬では無い生き物が保護されまして。狼犬か、ひょっとして日本狼の生き残りでは無いかと思って連絡させていただきました。」

大学で獣医学部の教授に扮してからは狼の研究の第一人者として活動をしていた。

「ほぉ。詳しくお聞かせ願いたい。」

キングはワクワクした様子でその話に食いついた。

「田舎町の住宅街で発見されたようで、多数の目撃の末にすんなりと捕獲されたようです。」

それを聞くとさらに嬉しそうに目を見開いた。

「住宅街?ククッ!そうですか。今は狼はそちらに居るのですか?」

食いつき気味にキングは訪ねる。

「えぇ。居ますが・・・?」

「すぐにそちらへ向かいます!」

そう言うとキングは受話器を下ろした。

「喜べ紗理奈!!まさかとは思うが・・・心琴の能力で狼が生まれたかも知れない!!」

歓喜に満ちた声でキングは紗理奈を抱きしめた。

「本当!?それは凄いっしょ!!今すぐに保健所へ行くっしょ!!」

そう言うと紗理奈とキングは事務所を出た。

廊下に出るとポム吉がしょぼくれて事務所へ戻ってくる所だった。

「あ、ポム吉!例の人は見つかった?」

紗理奈がニヤニヤしながらポム吉に笑いかける。

「ま、まだ・・・です。」

ポム吉はキングをチラチラ見ながらそう呟くように言った。

「ポム吉。お前は首だ。紗理奈が奴の住所を掴んだ。」

突然の首宣告にポム吉は3歩後ずさる。

「ま、マジ・・・っすか?」

その声は引きつっている。

「大真面目っしょ。」

紗理奈の目が紫に光る。

「命だけは勘弁してくれぇ!!」

それを見たポム吉は一目散に逃げ出した。

「逃げたか。ククッ!まぁ、良い。我は今とても気分が良いからな。狼の確認が先だ。さぁ、行くぞ紗理奈。」

「はい!了解っしょ!」

2人は小物よりも上物の確認へ急ぐのだった。



保健所についてキングは感嘆のため息を漏らしていた。

目の前の特大サイズのゲージには狼がいる。

「これこそ・・・これこそ・・・我が待ち望んでいた・・・。」

その目はとても輝いて見える。

狼に釘付けのキングを横目に紗理奈は保健所の人と話をしている。

「それにしても・・・今日はとても犬が多いっしょ!」

「そうなんです。普段は一日に多くて3匹くらいだったのですが、今日はなんと30匹を超える通報がありまして・・・。」

保健所の人は困惑した声を出している。

急に増えた犬達は環境に慣れないせいか騒いだり暴れたりしている。

溢れかえる犬を見て紗理奈は保健所の人にある事を提案する。

「あの、困っているのでしたら、私たちが手助けいたしますっしょ!」

「え?どういう事でしょうか?」

急な手助けの提案に保健所の人は続きを促した。

するとキングが狼から離れて紗理奈達の元へ歩いてきた。

「獣医学部でこの犬たちを引き取ります。そして、健康診断や状況確認を経て里親を探しましょう。」

紳士的に低い声でキングはそう言った。

「それは、とても助かります。この状況が続けばゲージが埋まるのも時間の問題です。今日の犬達だけでも引き取っていただけると助かります・・・。」

保健所の人は深々とお礼を言った。

「なるべくたくさんの子を引き取ります。狼の件のお礼です。」

「トラックはすでに手配済みっしょ!」

“良心的な獣医学部の教授”はそう言うと、狼とたくさん犬が入ったゲージを次々と運び出した。

全てのゲージをトラックに詰め込むと、二人は早速大学へ戻る。

「とても助かりました!!その犬たちをよろしくお願いいたします。」

保健所の人はキングと紗理奈が帰るときに深々と頭を下げた。

「また、何かありましたらご連絡ください!」

「ありがとうっしょ!!!」

トラックは夜道を急いで大学に戻る。

まだ運転中だというのに、キングは狼の事が気になってしょうがなかった。

「紗理奈・・・あれの遺伝子を見てくれ。君の目なら、遺伝子で犬か、狼かを解析できるだろう?」

興奮気味にキングは紗理奈にそう促す。

「了解っしょ!・・・ゲノム・アイ!!!」

紗理奈の目は、ゲノム・ブルームを使った時の紫に光る。

もともと、紗理奈のゲノム・ブルームは「能力開花」のパラサイトだ。

そしてそのパラサイトで自分自身の能力を「能力開花」し続けた結果、紗理奈はゲノム・アイを使えるようになったのだ。

ゲノム・アイは遺伝子配列を目視することが出来る能力。

紗理奈はこの能力でパラサイトを研究する上でのキーパーソンとなったのだ。

「どうだ!?狼なのか!?」

「・・・!?!?」

紗理奈はそれ以上に狼をみて気になったことがあった。

(この・・・元の人間・・・)

紗理奈の目にはそれさえも分かる。

思ってもみない再会を先に果たしたのは紗理奈だった。

(海馬ちゃん・・・?海馬ちゃんなの?)

紗理奈は動揺してしばらく狼を見つめた。

「おい、紗理奈?」

キングに声をかけられて紗理奈は我に返る。

「あ!えっと、・・・お、狼っしょ!!まぎれもない!絶滅した日本狼の遺伝子配列っしょ!」

「おおお!やはりそうか!!!我は、我はついに成し遂げた・・・!!成し遂げたぞ!!」

それを聞いたキングは最高の表情で大学への道を走り抜けるのだった。


◇◇


一方心琴が拘束されて居る部屋ではポメラニアンにさせられた心湊が目を覚ました。

目の前では先ほどよりもオレンジの髪の毛の幅が太くなった心琴が気を失ったままだった。

(お姉ちゃん?)

「くぅぅん?」

そう言おうとすると、口から出たのは犬の鳴き声だ。

(えええええ!?!?)

心琴は紗理奈に無理に能力を発動させられて心湊を犬化している最中で気を失った。

そのため、完全な犬化には至らず、意識だけは心湊のままのポメラニアンになってしまったのだ。

意識が心湊のままのポメラニアンはくるくると尻尾を追いかけるように自分の体を確認する。

(嘘!?本当に犬になっちゃった!?)

心湊は絶句した。

あたりを見渡すと、隣のゲージには先程自分達が閉じ込めた両親が眠っている。

その様子は本当にただの犬にしか見えなかった。

(私も・・・こうなっちゃうんだ・・・。)

心湊は恐怖を覚えた。

(ここから逃げよう!)

扉を見ると完全に扉は閉まっておらず、隙間が開いている。

心湊はその隙間から外を覗いた。

「くぅぅん。」

真っ暗な廊下は薄気味悪い。

思わず気弱な鳴き声が廊下に響いた。

すると、その声に引き付けられるように足音が近づいてくる。

カシャカシャという犬の爪が廊下にこすれる音だ。


(犬!?犬が近づいてくる?!)


心湊は慌てて部屋に戻るが、その足音も心湊の後から部屋に飛び込んできた。

「た、た、助けてくれええええ!!!」

その犬は自分と同じポメラニアンだったが、言葉を喋った。

「(え!?何?!なんなの!?!?)キャン!キャン!?キャン!?!?」

心湊はまだ犬に慣れず、思わず人間のように話をしようとしてしまう。

犬の鳴き声が響くばかりで人間の言葉は心湊は話すことが出来なかった。

「あ、あんた!俺と同じポメラニアンだろ!?なぁ!助けてくれよ!!」

ポメラニアンは心湊に泣きついている。

「(いや、無理だし!私人間だし!!)キャンキャン!キャン!!」

心湊は困って鳴いた。

いくら鳴いても人間の声は出ないので、心湊は話すのを諦めようかと思った。

しかし、ポメラニアンからは意外な返答が返ってくる。

「あー・・・あんた元・人間なのか・・・。俺は生粋のポメラニアンだぜ!!」

会話が成り立っているように思えた。

驚いて心湊は次にこう鳴いた。

「(え?・・・私の言う事解るの?)くぅ~ん?」

そう言うと、ポメラニアンは人間のように笑ってこう答える。

「あっはっは!当然だろ?俺、犬だぜ!!?」

「(そ・・・そういう物なの?)キャン?」

自信満々なポム吉に心湊はちょっとあきれた声を出してしまう。

「とにかく、逃げようぜ?!もうじき、キングと紗理奈が帰ってきちまう。」

「(キング?紗理奈??)ワン?ワン??」

心湊は首を傾げた。

そう言ったその時だった。

入り口の方が何やら騒がしい音がした。

多数の犬の声が廊下に響く。

「(何!?!何が起こってるの!?)キャンキャン!キャン!!」

「あああ・・・帰ってきちまった・・・どうしよう!?」

二匹は隙間から廊下を覗いてみる。

沢山の犬のゲージが次々と運び込まれていく。

その中のひときわ大きいゲージを紗理奈とキングが二人掛かりで運ぶのが見えた。

そのゲージの中には、茶色の狼の姿がる。

狼は何食わぬ顔で欠伸をした。

「お・・・重いっしょ!!!」

「頑張れ紗理奈!!もうすぐだぞ。」

そう言うと正面の一番大きな部屋に二人は入っていった。

二人は一番奥に海馬のいるゲージをドスンと置いた。

その拍子にキラリと輝く物がゲージから飛び出た事にキングも紗理奈も気づかなかった。

「お、重かったっしょ!!」

「お疲れ様、紗理奈。でもまだまだ運ばなくてはならない犬達が沢山いる。頑張ろう。」

「ファイトっしょ!」

そう言うと2人は再びトラックへ向かって行った。


その様子を見届けると、いよいよポメラニアンは慌てだす。

「ど、ど、どうしよう!?俺、アイツらに首だって言われてるんだよ!!」

「(首?)クゥン?」

「そうなんだよ!仕事でミスばっかりしてさ・・・殺されちまうかもしれない・・・!」

「(って事はアイツらの仲間じゃん!?なんで助けなきゃいけないのさ!)ウー!!ワンワン!」

「同じポメラニアンじゃないかぁ!!!」

「(だから、私は人間だってば!!)キャン、キャン!!」

「お前だって、ここに居たら殺されちゃうぞ?!」

「(え!?どういう事!?)クゥン!?」

「やばい組織なんだ。キングはそのヤバい組織の幹部なんだ!!」

「(・・・マンガの読みすぎじゃない?)・・・ワン?」

「俺は犬だ。マンガなんて読める訳ないだろ?!ってそうじゃない。今そんな話をしている場合じゃない!!死ぬか生きるかなんだって!!」

【人間ポメラニアンによる犬語】と【生粋のポメラニアンによる日本語】の異種間コミュニケーションがしばらく繰り広げられた。


「・・・。」

「・・・。」


その様子を部屋の隙間からキングと紗理奈が見ている事に気が付いたのはだいぶ後だった。

「・・・はぁ・・・。」

キングが漏らしたため息に気が付き、ポム吉は恐る恐るドアを見る。

「キ・・・キ・・・キング・・・?」

怒りに満ちたキングの目がポム吉を睨みつけている。

「紗理奈・・・大失敗だ。ポム吉はこのままにして置くと簡単に内部情報をばらしてしまうことが分かった。しかも・・・そっちの犬はどうも、ポム吉と話をしている。自我が人間のままかもしれないな。」

今度は心湊を睨みつけた。

「って事は・・・情報漏れちゃったかもしれないっしょ・・・。」

真顔の低い声で紗理奈が近づいてくる。

「(もしかして、やばい?)くぅ~ん?」

「ああ・・・。終わったかも・・・。」

ポム吉の声が上ずっているのを感じる。

二匹は顔を見合わせる。

「・・・せーのっ!!!!」

突然大きな声でポム吉が叫ぶ。

その言葉の意味を一瞬で察知して心湊は足に力を籠める。

「に・・・にげろおおおお!!!!!!」

その言葉を合図に二匹のポメラニアンは同時に駆け出した。

ポム吉は紗理奈の、心湊はキングの股をくぐって廊下へ飛び出す。

「あ!!コラ!!!」

紗理奈は慌てたが、二匹は既に廊下を走り抜けている。

慌てて追いかけるように廊下に飛び出る。

「・・・はぁ・・・。」

キングはもう一度ため息をついた。

「紗理奈、ポム吉をただの犬に戻しておいてくれ!あんな小さくても一応使える!」

走り去る紗理奈の背中にキングは声をかけた。

「了解っしょ!!!」

紗理奈はそう叫びながら2匹を追いかけるのだった。


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