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第20章 遅い起床

「らーらー・・・らくだ?」

「それさっき言っただろぉ・・・。」

「じゃぁ・・・らー・・・らっぱ?」

「それもさっき言ったぜぇ・・・はぁぁぁ。」

幽体離脱状態の杏と死神はやることがなさ過ぎて二人でしりとりをしていた。

けれども、杏と死神では勝負にならない。

さっきからずっと杏の番だった。

「桃・・・エリ、付いてる!頑張る!」

エリは朝からずっと桃の看病をしている。

今はずっとうなされている桃の頭にぬれたタオルを当ててあげる。

「あいつも・・・献身的な奴だなぁ・・・。」

「そんなことより、夢の内容を早く他の人に伝えに行くべきだと思うんだけどね!」

二人は文字通り上から発言をする。

「そう言えばさ、霊体でもパラサイトって発動するんでしょ?だって、桃も魔女も使ってたじゃん。」

杏は思い出したかのようにそう言った。

死神は言わんとしていることは解るが首を振る。

「ああ?俺のパラサイトは実体のある手からじゃねぇと無理だぜぇ?」

死神の鎌は霊魂状態だと出ないらしい。

「ううん、そうじゃなくってさ。その力って魂が元になっている力なんでしょ?」

「あ・・・あー・・・?そうだったかぁ?」

死神はどうでもいいと思ったことは覚えないタイプの人間だ。

「その力を当てたら、生命線治せないかな!?あとちょっとでくっつきそうだし!」

杏の目はキラキラしている。

その発想は死神にはなかった。

「あー・・・まぁ、やるだけやってみるかぁ。」

やることもない死神はめんどくさそうにそう言った。

実体のある時と変わらないように、手のひらに集中する。

手にひらに生命線をかざした。

「スピリット・リッパー!!!!」

死神の手からは何も出ない。

けれども、ぼんやりと赤い光を放つ。

「あ・・・これ・・・私も出るやつと一緒だ!!」

杏はそれを見て歓喜した。

いつの日か、兄のように鎌が出せるかもしれないという期待が込み上げる。

「で・・でもよぉ・・・これは・・・すっげぇ疲れるぜぇ!?」

手から放たれる光は、どんどん生命線に吸収されているようだった。

「お兄ちゃん!すごいよ!生命線がエネルギーを吸ってるよ!」

その様子に杏は喜ぶ。

「って事は・・・この生命線ってのはすごいエネルギーが凝縮されたものなのかもなぁ・・・。どんどん魂の力が吸い取られていくぜぇ・・・。」

「え・・・大丈夫?」

苦しそうな死神の顔に杏は少し心配になる。

「わ、私もやってみる!!」

杏は目を瞑ってありったけの力を手に集中させた。

「やめとけぇ?疲れるぜぇ?」

心配な死神は止めるが、杏は一度やると言い始めたら止まらない。

杏の手が若干赤く光る。

けれども見る見るうちにその光は吸い取られて消えた。

「ひぃあ!!ナニコレ!!」

思った以上の吸引力に杏は驚いた。

杏の力では生命線の回復には至りそうもない。

「お・・・でも・・・見て見ろよ。どんどん、体が近づいて来てる。」

死神の生命線は力をどんどん吸収して徐々に徐々に地面へ近づいている。

天井にへばりついている杏はそれを指をくわえて眺めた。

「いいなぁ!!お兄ちゃんは体に戻れそう!!わ・・・私は・・・無理かも?」

「俺様が戻ったら手で引っ張ってやる。もうちょっと待っとけ。」

そう言うと死神は手のひらに集中する。

赤い光は既に消えかけている。

額に汗がにじんでいる感覚がする。

「まだだ!!まだいける!!もう・・・すこし!!!」

もう、体に手が届く距離まで来ている。

「お兄ちゃん頑張って!!!あと少し!!」

杏も声の限り応援した。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

死神が雄たけびのような声を上げたその時。

何とか、死神の魂は体の中へ入っていった。


「ガハッ!!!」


死神は飛び起きた。

「し・・・しに・・・がみ!?」

エリは死神が起きたのを見て急に抱き着いた。

「こ・・・こら!!な、なんだよ!?」

いきなり抱き着かれて死神は戸惑った。

「しに・・・がみ・・・死んだ・・・思った・・・心細くて・・・。」

エリは今日一日1人でずっと桃を看病していたことを死神は知っている。

「あー・・・そりゃそうだよな。俺らはずっとお前が見えてたぜぇ?」

「え!?」

エリは驚いた。

まさか倒れて気を失っている人が自分をずっと見ているとは思わなかった。

「桃が倒れて、魂がくっつかなかったから幽体離脱しちまってたんだぁ。杏もそこにいるぜぇ。ちょっとまってな。」

そう言うと死神は天井付近までジャンプして戻ってくる。

杏の体を触ると杏もひょっこり飛び起きた。

「お兄ちゃんありがとう!!!」

「杏!!!あん!!!」

エリは今度は杏に飛びついた。

「わわっ!!ちょっと!?」

「杏・・・無事・・・よかった・・・。」

もはやエリは涙と鼻水でぐちょぐちょだ。

「げ!!!ちょっと!?鼻水付けないでよ!?」

「ふぉ、ふぉめん・・・。」

エリは慌てて離れるが鼻水がびよーんと伸びた。

「うわ・・・最悪。」

杏は起きて早々に鼻水をつけられて機嫌が悪くなる。

「おぉぃ。D-15。」

「D-15ちがう!!」

被験者番号で呼ばれて間髪入れずに訂正を求める。

「あ、わりぃ。エリよぉ。」

死神も悪気はない。

「な・・・なに?」

エリは鼻水をかみながら死神を見た。

「こっちはもう、大丈夫だから。朱夏達の所へ戻って、桃の伝言を伝えるんだぁ。」

「!!」

死神の口からそんな言葉が出てくると思っていなくてエリは驚いた。

「いままで、看病してくれてありがとなぁ。」

「ほんと、エリってどこまでもお人好しなんだね!」

ギザギザの歯を出して兄妹は笑った。

「ふたり・・・ありがとう!!!」

エリはもう、すっかり暗くなった外を見た。

朱夏たちがどうなったか心配でたまらない。

エリは二人に手を振るとドアを開け、階段を駆け下りて行った。


◇◇


「海馬君!!!」

「海馬!!」

二人が家の外へ出るとそこにはもう、狼の姿はなかった。

「いません・・・。どう・・・しましょうか・・・。」

あまりにも深刻な状況に2人は立ち尽くした。

「探すのは・・・得策じゃねぇよな。とりあえず・・・いつもの流れで言うと・・・作戦会議?」

いつも事件があるとみんなが集まって作戦会議を開いた。

けれども、いつもよりも4人も少ない状況での作戦会議・・・しかも二人ともほとんど情報がなかった。

「ふ、二人でですか?」

「・・・。」

気まずい空気が流れる。

この二人が二人きりになることは今までほとんどなかった。

乗り気じゃない朱夏に鷲一は頭をぼりぼりと掻いた。

「あー・・・。なんつーか・・・朱夏は海馬を助けてぇよな?」

「も、もちろん。」

それはゆるぎない事実だ。

「俺もな、心琴を助けてぇんだ。あ、もちろん海馬もな?二人しかいねぇし・・・なんていうか・・・良い案なんて出るかわかんねぇけど・・・やるだけやってみねぇか?作戦会議?」

困った顔をしながらも鷲一は肩をすくめて笑ってくれた。

「・・・そう・・・ですよね!!私達が諦めてしまっては・・・噛み殺されますし・・・海馬君に・・・。」

そう自分で言って朱夏はしょんぼりとした。

肩を落とす朱夏に鷲一は怪訝な顔をする。

「・・・海馬は自分の意志で朱夏を殺したりはしねぇだろ。絶対。」

海馬がどれだけ朱夏を思っているか、鷲一は知っている。

「・・・そう・・・だと思います。」

朱夏も海馬の意志じゃないと信じてはいる。

「それなら、そこは「海馬君に」じゃなくて「狼に」で良いんじゃね?」

「え?」

朱夏は鷲一が何を言い出したかと思った。

言葉の使い方が変わるだけで、結局海馬に殺されることに変わりない。

「その方がさ、ほら。朱夏が楽になるかなって・・・。「海馬」よりは「狼」って思ってた方が・・・?」

「・・・・へ?」

朱夏は鷲一の言っている意味が最初は解らなかったが、徐々に感づいた。

(つまり・・・私が『大事な人に殺される』って思い詰めるなって事なのかしら?)

余りにもわかりにくい気の使い方に朱夏は口を押さえて噴き出した。

「うふふ!!もしかして・・・もしかして鷲一さん、私を励ましてくださっているんですか?」

自分の中の結論が正しいか、鷲一を見て確認する。

「あー・・・まー・・・そう・・・かもな。」

鷲一は目線を逸らしながらそう言った。

答えはどうやら合っていたようだ。

「でも・・・それでも私、食べられちゃうんですよ?」

悪戯に朱夏が笑った。

少しだけ、どんな反応が返ってくるか楽しみだった。

「いや、海馬よりはいいだろ?・・・それに・・・。食わせねぇし。」

「え?」

朱夏はそう断言してくる鷲一をじっと見た。

「絶対に、海馬に朱夏を食わせない。俺が約束する!」

にやりと笑って鷲一がそう言った。

「あ・・・。」

思った以上の力強い言葉に朱夏は泣きたいのか笑いたいのか分からない顔をした。

今まで我慢していた恐怖の半分を鷲一が持ち上げてくれた気分になる。

「・・・あ・・・ありがとう。その・・・嬉しいな。」

とても小さな声で朱夏は顔を赤らめてそう言った。

海馬以外の人にため口を聞くのは本当に久しぶりだった。

「・・・お?・・・敬語じゃない事もあるんだな!そっちの方が良いんじゃね?」

鷲一はどこまでも素直にそう言う。

そんな鷲一に朱夏は踵を返して後ろを向く。

「そ、そ、そんなことないです!!敬語は皆さんと平等に話せる魔法の言葉です!」

かなり慌てて朱夏はそう言った。

「は?・・・魔法?」

そう聞き返されて朱夏は我に返る。

「な・・・なんでも・・・ありません!それより、作戦会議をします。私の部屋にいらしてください。」

「は・・・はい。」

コロコロ態度が変わる朱夏に鷲一はついていけずに返事をする。

その時だった。

遠くから走ってくるフリフリドレスの女の子が走ってきた。

「しゅかーーー!!しゅーいちーーーー!!」

手を振りながら走ってきたのはエリだった。

「あら?お泊りは?」

朱夏はしばらくエリが桃の家へ遊びに行って来るという話だと思っていたため驚いた。

エリは息を切らして話始める。

「はぁはぁ・・・エリ・・・デジャヴ・ドリーム・・・発動。桃・・・今朝から・・・倒れてる。」

「ええ!?」

その一言に朱夏は驚いた。

桃と朱夏はあれ以来、結構仲がいい。

「で、どうしたんだ?何があった?!」

「エリ・・・夢で死ぬ。桃、生き残った。でも、情報聞けたの「満月、犬に噛みつかれる、犬になる」だけ。」

本当にそれしか聞き出せなかった。

「ど・・・どういう事でしょう?」

「解んねぇな。」

鷲一も朱夏も顔を見合わせた。

「とにかく、一度部屋に入りましょう?」

朱夏は家の中に2人を誘導するが、鷲一はある事に気付いて動かない。

「いや・・・まて。今なんて言った?」

「満月、犬に噛みつかれる、犬になる」

エリはゆっくりと桃からの伝言を繰り返す。

「・・・満月!?」

ふと3人は上を見上げた。

そこには若干かけただけの大きな丸い月がある。

「十五夜・・・?」

今回のXデー。

つまり、自分達の寿命が終わる日。

桃の伝言が確かなら、それはもう目前まで迫って居る事になる。


「今年の・・・十五夜は・・・あ・・・明日・・・です・・・・。」

「なん・・だって!?」


3人はこの時初めて自分たちが明日死ぬ運命だと言う事に気が付くのだった。


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