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第14章 狼の出現

同じ日の晩。

一方で海馬もデジャヴ・ドリームを感じていた。

昨日のようなボヤッとした感覚ではなくしっかりとした意識があった。

(マジ・・・かよ・・・。)

デジャヴ・ドリームの発動に焦燥感を覚える。

海馬が目を覚ましたのは檻の中だった。

(なんだ・・・?目線が低い・・・。)

目を開くとどうも、いつもの様子ではない。

身長が180cmの海馬からするととても低い位置で、小学生くらいの目線のように思えた。

(それになんか・・・臭い・・・あたり一面が臭い!)

急に鼻が良くなった気がする。

鼻がスピスピと音を鳴らした。

(え・・・?)

「グルルルル・・・・」

声を出したつもりだったが出たのは低いうめき声だった。

慌てて手を見る。

見たこともないような茶色の毛が体中を覆いつくしているようだ。

(なんだ!?なんだ!?なんだ!?)

慌てて立ち上がると自分の体全体を認識した。

(僕・・・僕・・・犬になってる・・・?)

「グルルルルルル!!!」

喋ろうとすると低いうめき声が上がる。

月明かりが出てきて窓明かりのおかげで徐々に部屋が見えた。

(いや、違う・・・これって・・・。)

目の前の檻の壁に自分の姿が反射して映しだされる。


(狼だ・・・。)


人間なら表情の一つでも変わっていただろうが、目の前の狼はピクリともしていない。

(どうしよう・・・どうしたらいいんだ!?)

海馬はあたりを見渡した。

けれども、月明かりが入る所以外は暗く、ほとんど何も見る事はできなかった。

(まずい・・・やっぱり昨日見た夢は・・・現実になるって事だ。)

「昨日見た夢」は今の所、そのままそっくり繰り返されていた。

違いは、昨日は漠然と夢のままに動いていただけだったが、今日は自我があると言う事くらいだ。


(昨日のままだと僕・・・朱夏とエリを食べちゃう・・・。)


耳が伏せたのを感じる。

しっぽが垂れさがる。

そして、異常な空腹感を覚えた。

(お腹・・・すいた・・・。)

ちょっとやそっとの空腹感じゃなかった。

スピスピという音と共に海馬の鼻が良い匂いに気づく。

(なんか・・・隣からチャーハンみたいな匂いがする・・・。)

隣の檻をみると、そこにはどうやら人間が倒れている。

その人間から漂う良い匂いに海馬はよだれが垂れた。

「おい海馬ぁ。俺を見てよだれ垂らすなって言ったろぉ。」

聞いたことがある声に海馬は驚いた。

(死神っ!?どうしてここにお前が居るんだ!?)

「グルルルル・・・。」

そう言おうとしても出てくるのは唸り声だけ。

それを聞いて死神は肩を落とす。

「やっぱり・・・自我がねぇんだなぁ。・・・くそったれ・・・。」

フラフラの死神は海馬とは逆の壁にもたれかかって座った。

「クソッ・・・杏・・・無事かなぁ・・・。」

死神は独り言だと思って弱音を吐いた。

海馬は死神とはそこまで話をしたことがないが、妹を大事に思っている事だけは知っていた。

(死神・・・。)

「クゥゥン・・・。」

切ない声が犬からも漏れる。

「海馬に食い殺されるのは流石に嫌だぜぇ・・・。」

ギザギザの歯を見せる死神の目から涙が溢れる。

普段は気丈に妹を守るお兄ちゃんをやっているが、中身はただの中学生だ。

死神が見せる弱い一面に海馬は切ない気持ちになる。

(このままじゃ・・・ダメだ。今の話だと杏ちゃんも危ないに違いない。)

海馬は何でもいいから情報を集めようとあたりを見渡した。

目ではほとんど捉えることが出来なくても、たくさんの犬の匂いを感じる。

よく耳をすますとハッハッという息遣いや爪がゲージにあたるカリカリという音も聞こえた。

(ここには犬がいっぱいいるんだ・・・。)

海馬はそのまま五感を研ぎ澄ませる。

(あれ?誰か来る?)

耳を澄ませていると人間の足音が聞こえてきた。

ヒールのような靴で、カッカッと廊下を歩く音だ。

その音がどんどん大きくなったかと思うと、突然ドアが開きあたりが明るくなった。

眩しくて目を細めた。

誰かが電気をつけたようだ。


「さぁて・・・!!時間だよ!みんな!!お腹すいたっしょ!!行っておいで!」


入口の方で何やら音が聞こえるが、一番奥まったところにある海馬の檻からは何も見えなかった。

(なんだなんだ!?)

「グルルルル・・・・」

海馬は唸る。

「・・・クソ・・・海馬・・・奴が来やがった。お別れの時間みたいだぁ。」

(え・・・死神!?それはどういう意味なんだい!?)

「グルルルル!!ウワン!!!」

振り返って死神を見るが、死神は目を閉じてしまっていた。

入口の方からは犬のワンワンという声が聞こえる。

ゲージから犬を開放しているようだった。

次々と解放された犬の足音が廊下に木霊した。

徐々にヒールの足音が近づいてくる。

「あ・・・そうそう!」

一番奥の檻に女は近づいてきた。


「海馬ちゃんは私と一緒っしょ!」


目の前にきた白衣の女性。

海馬にとってはとても懐かしい匂いだった。

(この匂い・・・僕はこの匂いを知ってる・・・。良く嗅いだ匂いだ。)

海馬とその人とよく、狭いベンチでくっついて座った。

だから、何度もこの特徴的なお香のような匂いを嗅いだ事があったのだ。

少し甘いようなお香の匂いを海馬は3年ぶりに嗅いだ。

その人は沢山の檻の鍵を人差し指に引っ掛けてくるくると回している。

そうして、昔、朱夏と海馬の大喧嘩に発展した「禁句」の女の子が目の前に現れたのだった。


(紗理奈・・・!?)


「ワオーーーーン!!!!」

思わず海馬は大きな声を出した。

それは遠吠えとなって狭い檻に響き渡る。

「おお!海馬ちゃんもやる気満々っしょ!さ、行こう?」

紗理奈は檻を開け始めた。

鍵を差し込み回すと、いとも簡単に檻は開かれた。

(もしかしたら・・・助けに来てくれたのかもしれない!!)

海馬は紗理奈からもらったネックレスをチラッと眺めた。

久々に出会った紗理奈に海馬は胸を弾ませていた。

「ほら、出た出た!」

紗理奈が手招きをする。

海馬は檻から出ると、真っ先に死神の檻の方へ向かった。

弱った死神を早く解放してあげたい。

檻に向かって爪をカリカリとした。

すると、紗理奈は笑顔でこう言う。

「あー・・・そいつを食べたいの?ダメダメ!」

海馬はその発言に動きを止めた。

(え・・・?紗理奈は、僕を狼だとしか思っていない・・・?)

この時点で少し不信に思った。

海馬は自分の感じた違和感をかみ砕いていく。

(待って。今の発言は何かがおかしいよ・・・。)

紗理奈をじっと見つめた。

その顔はいびつに歪んでいるように思える。

(僕が「海馬」であることを知っていて・・・人間としての自我が無くなる事を・・・どうして紗理奈が知ってるの?)

海馬は昔、とても仲が良かった頃と今の紗理奈を比較する。

見た目は少しだけ大人びたが、大して変わっていないように思える。

左右に別れたみつあみに、糸目の女の子。

笑うと黒目が見えなくなる。

けれども、その糸目をよくよく見ると・・・紫に光っていた。

その事実に海馬は戦慄する。

(これじゃぁまるで・・・「敵の発言」じゃないか!!!)

海馬を見つめたまま優しく笑う紗理奈はどことなく不自然だった。


「その子はD-09っていってね?・・・大事な“実験材料”なんだから!!食べたら怒られるっしょ!」


その一言が決定打になり、海馬は走り出した。

(紗理奈は・・・紗理奈は敵だ!!)

「え!?えええ?!海馬ちゃん!?どこ行くの!?」

紗理奈は慌ててドアを閉めようとしたが海馬が先にすり抜ける。

そのまま廊下をやみくもに走った。

(嘘・・・嘘だと言ってくれよ!!どんな悪夢だよこれ!?)

けれどもこれはただの悪夢ではない。

エリの能力によって作り出された・・・「悪夢の予知夢」だ。

(このままじゃ「紗理奈」によって「朱夏」を食べちゃう・・・。)

最悪のシナリオが容易に想像できる。

(そんなの絶対に・・・絶対に嫌だ!!本当は・・・本当は紗理奈と朱夏は・・・)

その時ふと、海馬は昔の朱夏の発言を思い出した。



『海馬お兄ちゃん!!・・・紗理奈を・・・信じないでください・・・!!!』


3年前の朱夏が自分に言った言葉だった。

(思えば変だったんだ。大喧嘩したあの日・・・もっと朱夏の話を聞くべきだったのかもしれない。朱夏みたいな素直な女の子が「信じないで」だなんて・・・。)

やみくもに走っていると玄関に出た。

そこには、朱夏が下駄箱の上に登って犬たちの攻撃を必死で避けている所だった。

「ワオーーーーン!!!!」

海馬は遠吠えを一つすると、犬たちを引き離す。

圧倒的な体格差で犬たちを一匹一匹蹴散らしていった。

「え!?え!?!あれは・・・狼ですか!?」

朱夏は突然の狼の出現に困惑した。

明らかに今まで自分を襲ってきた犬たちを攻撃している。

「・・・あ・・・あれは!!!」

朱夏の目には海馬のネックレスが目に留まる。

紗理奈からのプレゼントのネックレスだ。

「海馬君!?海馬君なの!?」

朱夏が下駄箱から身を乗り出して来る。

1匹の大きい犬がその瞬間を見逃さない。

朱夏に向かって鋭い牙で噛みつかんとばかりにジャンプした。

海馬は全力で駆け寄りその犬を突進で吹っ飛ばす。

「クゥゥン!!!」

「キャンキャン!!」

犬たちは大きい犬が吹っ飛ばされたのを見て恐れをなしてどんどん逃げて行った。

そして、最終的には海馬狼と朱夏だけがそこに残った。


「ワオーーーーン!!!」


海馬は勝利の雄たけびを上げる。

朱夏がせっせと下駄箱を降りてきた。

「海馬君!!!会いたかった!!」

海馬に朱夏は力任せに抱き着いた。

(朱夏・・・無事だった・・・。良かった。)

海馬は耳を伏せてしっぽを振った。

「海馬君、どうしてそんな姿に?何があったのですか?」

「クゥン・・・」

そう聞かれても海馬にもさっぱりわからない。

「この間そのネックレスの話題が上がっていなかったら海馬君だってわからない所でした。でも・・・助けてくれてありがとうございます。」

少し困った顔でそう言うと、朱夏は犬にするように頭を撫でて抱き着いた。

(ちょ、ちょっと!中身は僕なんだってば!)

海馬は照れるが、朱夏はそのことに気づいていない。

しばらくすると海馬狼から朱夏は離れた。

あたりを見渡してふぅと一息つく。

「さて・・・。これはデジャヴ・ドリームですね・・・?」

「クゥン・・・。」

海馬は出来るだけ優しく鳴いた。

「建物の外は犬でいっぱいなんです。中へ行きましょう?」

朱夏は建物を詮索する気だがそこに紗理奈がいることを知っている海馬は朱夏の服を引っ張った。

「ど、どうしたんですか?!」

「グルルルル・・・・!!!」

「何かあるんですか??」

「クゥン・・・。」

「うーん、困りましたね・・・。」

何とか意思疎通を図ろうとするが、会話ができなくて困る。

「でも、こっちがダメって感じがします。犬が居ても玄関から出ましょうか?」

「ワン!」

それでも、朱夏はなんとか行く方向を変えた。

「分りました!外へ逃げましょう!!」

朱夏は玄関のドアの鍵を開けてあたりをそっと見る。

犬が何匹かいるが、海馬が居れば突破できそうな数だった。

「いきましょう、海馬君。」

「ワン!」

2人は広い校庭のような場所を駆けだした。


駆けだして、3秒後に後悔した。


2階の窓から、白い獣に乗った紗理奈が校庭に降ってきたのだった。

「え・・・!?」

朱夏がすぐに立ち止まる。

海馬は朱夏の前に立ってうなり声を上げた。

「・・・うそ・・・。」

「あれ?あっれー!?あれれれれ!?!?」

紗理奈も突然の朱夏の登場に目を丸くしている。

「うそでしょ・・・あなた・・・紗理奈!!」

朱夏は口を押えていた。

幽霊でも見るような目で朱夏は紗理奈を見た。

「朱夏っちじゃない!元気!?その様子、元気っしょ!」

白い獣にまたがったまま、紗理奈は手を振ってくる。

「紗理奈・・・生きてたの!?」

「うん!すごいっしょ?」

「良かった・・・。私てっきり・・・」

朱夏の目は涙ぐんでいるように見えた。

けれども、紗理奈の顔は喜ぶどころか憎しみが全面に出ていた。

「さ・・・紗理奈?」

その様子に朱夏は怯える。

「・・・ねぇ、朱夏っち?私がこの3年間何を思って生きてきたか・・・分かるよね・・・!?」

「え・・・!?」

紗理奈がゆっくりと白い獣から降りた。

白い獣はゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。


それは、とても白い狼だった。


月明かりに白い毛が光ってとても綺麗だ。

「ワオーーーーーン!!!!」

「確かにあなたのおかげで・・・キングに出会えたんだよ?それには感謝する。ありがとうっしょ。」

紗理奈の目が紫色に光る。

白狼がこちらに向かって歩いてきた。

「グルルルル!!!」

海馬は危険を察知して朱夏の前に立ちはだかってうめき声を上げる。


「紗理奈・・・お願いです。私の話を聞いてくだ・・・」

朱夏は懇願するような声で紗理奈に話しかけるが、紗理奈はそれを一蹴する。

「話なんて聞きたくない。朱夏っちをどうやって苦しませて殺すか。それが私の生きる糧だったっしょ。」

「そんな・・・。」

朱夏は悲しさを顔に滲ませた。


「死んで。」


紗理奈はぴしゃりと朱夏に向かって言い放った。

その時だった、突然どこからか低い男性の声が響いた。


「・・・ハウンド・マスター・・・。」


白狼の目が金色に光る。

海馬はその目を直視してしまった。


「グルルルル・・・ワオーン!!!」


先ほどまで白狼の方を向いていた海馬はゆっくりと朱夏を向いて唸りを上げた。

「え!?か、海馬・・・君!?」

驚きを隠せない朱夏は咄嗟に動くことが出来ない。

海馬狼と朱夏の距離はゆっくりと狭まっていく。

(な!?体が・・・勝手に動く!!)

海馬は自分の意思で体を動かす事が急に出来なくなった。

(朱夏、逃げてくれ!!)

心の中で叫んだが体は全くいう事を聞かない。

「あーっはっはっはっはっは!!!!」

紗理奈はいびつな笑顔で笑い始めた。

その顔はもはや朱夏の知っている友人の顔ではない。

(な・・・なんだこの異常な空腹感・・・。)

海馬は元からお腹がすいていたが先ほどの光る白狼の目を見てからはそれが極限まで引き上げられているような気がした。

本能が肉を食えと言っている。

(やばいやばいやばい!!!逃げてくれ!!朱夏!!)

本能のままに体は勝手に朱夏へ向かう。

よだれが止まらない。

紗理奈は海馬が朱夏に向かっていくのを楽しそうに見ている。

「あなたがだぁいすきな、海馬ちゃんに・・・食われて死ね!!!」

「い・・・いや!!!!」

(やめてくれええええ!!!!)

海馬の想いも空しく、海馬狼は合図とともに朱夏にとびかかった。

ただの狼と化した海馬は朱夏を押し倒す。

そこには昨日の夢と同じ光景が目の前で繰り広げられた。

朱夏は海馬にのどを噛みつかれあっという間に真っ赤に染まっていく。

(くそっ!!!くそっ!!!やっぱり僕が朱夏を・・・)

そして空腹の狼は「人間の肉」を食べ始める。

それが例え自分が一番好きな女の子であっても本能のままにむさぼった。

1つだけ昨日と違う点があるとするなら、そこに海馬の意識がきちんとあるという点だけだった。

それはあまりにも残酷な仕打ち。

あまりに酷い光景に、夢が覚めても海馬は涙することさえできなかった。

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