君の名前は……。
どうしよう。自分の体なのに、泣き止めさせられない。
というか、特典付きの転生って良くあるのだと目を覚ましたら五、六歳くらいの子だったみたいなものじゃないの。
何で、赤ちゃんからにしたんだろうあの転生神様は。
あ、でも、転生前に魔力について簡単に聞いてみたことを考えると、ちゃんと考えてくれてるのかもしれない。
*
少し前
「一つ聞いて良いですか」
「良いよ。うえるかむかもーん」
敢えて不慣れな英語を使うところが一層フランクさを引き立ててる。何処までもこの人、じゃなかった神様はフランクだ。
「これから行く転生する世界にあたって魔力について簡単に聞きたいんですけど」
簡単にというのは転生したあとにちゃんと知りたいから。でも、魔力操作を付けてくれるみたいだから少し聞きたいと思ったのだ。
「そうだね。今から行く所は魔法は勿論だけど、魔力を動力源とした道具が使われたりしてるね。あと………魔力は限界まで、零まで消費すると体内の魔力量が増えるみたい。特に小さい頃は顕著だね。まあ魔力操作が簡単にできる小さい子なんていないけど」
そりゃそうだ。訓練をしない限り体内に流れるものを操るなんて難易な事でしょ。ラノベでも魔力操作のできる人の補助で感覚を覚えるとかで習得してたし。
「ありがとうございます」
*
って言ってたし、赤ちゃんからやればそれなりに増えるよね。今更ながら、結構チートな要望して、魔力操作と浮遊魔法なんて特典をもらったなぁ。
それにしても泣き止まない。赤ちゃんの頃は本能に抗えないとは、流石に疲れてきたよ。
「奥様どうしましょう。私が揺すっても泣き止みそうもありません」
泣いてるから自然と目を瞑っているんだけど、どうやら僕の新しいお母さん以外の人があやしているみたい。
先程から感じていた小さな不快感の原因はそれかと思った。多分だけど、僕の新しい身体は、最初に揺すってもらうのはお母さんが良いんだろうと考えながら泣き続けている僕。
これも仕事、赤ちゃんとしての仕事なのだ。
伯爵家の子どもだし、今世話してくれてるのは多分声からしてメイドさんじゃないかな。
本当にすいません。メイドさん、これが赤ちゃんの性なんです。
「ありがとうララ、変わるわ」
メイドさんはララさんというのか。
ララさんは新しいお母さんに僕を渡して抱き抱えたのか、その瞬間、安らぎが体を包み込んだ。
落ち着く、このままが良いと感じた時、僕は泣き止んだ。
「やはり奥様の腕の中が良かったようですね」
「ふふ、そうね」
「ですが、ご無理はなさらないでくださいね、出産したばかりでかなり衰弱している筈ですから」
そうか、出産すぐなんだ。そう思うと僕ってワガママだな。伝わるかどうかは置いておいて、僕はありがとうという意味を込めてお母さんの指をギュッと握る事にした。
泣き止ませることは無理だったけど、身体は動かせるかな。
お、いけそう。
「ララ見て、この子私の指を握ったわ。可愛いわ」
「可愛いですね」
お母さんとメイドのララさんはとても嬉しそうな声が聞こえる。
直後、ギィーっと扉がゆっくり開く音がした。誰か入ってきたのでしょう。その人にお母さんが声をかけた。
「ユリネ、貴女も弟を抱いてみる?」
優しい声でユリネという人に声をかけると、「はい」と恥ずかしそうなユリネという幼い子の声が聞こえた。女の子かな。
弟ということは僕の姉さんだ。一人っ子だったから姉弟というのは嬉しい。
お母さんはユリネお姉ちゃんの腕に僕をゆっくりと渡していく。
うん、お母さん同様優しさに包まれて落ち着く感覚。
子どもは人の本質にとても敏感らしいから、優しさを感じてるんだと思う。
母さんもお姉ちゃんも、あと本能的に先にお母さんに抱いてほしかったことで泣いてしまったけどララさんにも優しさがあった感じがする。
結論、三人とも優しい。
この本能で本質を感じる感覚、今のうちに覚えておこう。
と、ユリネお姉ちゃんの優しさを感じなら考えているとバンッ!と盛大に扉をあける音と共に「リーナ、生まれたんだって!」と大声が響いた。
びっくりした。その瞬間、何か込み上げてきた。
泣いちゃうのかこれ、泣いちゃうの僕。
「う……うう…んぎゃあああー……!」
泣いちゃったぁ。
何となく予想はつくけど一体誰?
「旦那様、静かに入ってください。泣かれてしまわれたではありませんか!!」
「すまない、生まれたと聞いていてもたっても……」
「お気持ちは分かりますが奥様も疲れていらっしゃいますので〝ご配慮を〟お願い致します!良いですね!」
「はい、すいません。リーナもすまない」
やっぱり僕のお父さんか。というか声を控えめに配慮しながらメイドに叱られるって、めちゃくちゃダメじゃん。
でも、声からして反省してるのかな。すぐにお母さんにも謝ったから、自分の非を認められる人だということかな?
転生神様、リネカは要望以上の家族に巡り合わせてくれたみたいです。
見つかったのがここだって言ってたから貴族はやっぱりプライドが高いんだろうな。
「それで、子どもはどっちだ」
「男の子よ。今はユリネが抱いてるわ」
「お父様だいてみる?」
ユリネお姉ちゃんは僕をあやしながらお父さんに聞いた。その時にはもう僕は落ち着いて泣き止んでいた。
泣くときも泣き止むときも高低差が激しい。感情のコントロールが出来ない赤ちゃんらしい。
まあ僕なんですけどね、あはは。
「ユリネ以来だから大丈夫かな」
「お父様、私でも抱けました。不安ならララに教えてもらえば宜しいのです」
「そうだな、ララ頼めるか」
「勿論です。私としても不安でしたので」
ララさんの容赦ない言葉を受けながら、赤ちゃんの抱き方レクチャーを受け、落とすと怖いからともう一度レクチャーを受けた僕の新しいお父さん。
真面目だ。
「旦那様、頭をしっかり支えてくださいね」
「では、ユリネ」
そして、ユリネお姉ちゃんは僕をお父さんに渡した。不安なのか、抱き方がぎこちない、頭は支えてくれてるけど怖いよ。
本当に落とさないか不安も込み上げる。
あ、これ、これ泣くな。
「んぎゃあああー!」
ごめんお父さん。あれだ、赤ちゃんに泣かれるお父さんって、原因これなんじゃ。もっと自信持って抱いてください!
すぐに、お父さんはお母さんに僕を渡した。そして、あやされて泣き止んだ僕は、泣き疲れて眠りに着いた。
*
「泣き疲れたのね、寝ちゃったわ」
赤子の可愛い寝顔を眺めて、可愛いと感じながら表情を緩ませながら女性は言った。
彼女は奏多の新しい母親、アンジェリーナ・マリナ・アズリー。そして、頬を緩ませていたのはアンジェリーナだけではなかった。
ベッドに寝凭れるアンジェリーナと赤ん坊の奏多を囲んで、娘のユリネ・フロース・アズリー、夫のギーヴス・カエルム・アズリー、そしてメイドのララ達も同じように奏多を見て口元を緩ませてた。
「お母様、この子のなまえは?」
「リーナ、それはこの父に任せて「却下です」そんな!」
即却下されギーヴスは項垂れる。ユリネは何で?と首を傾げたが、メイドのララは理由を知っているため、頷いていた。
ユリネが生まれる時「自分に名付けさせてくれないか」とアンジェリーナに頼み、任されたギーヴスは男の子と女の子の名前を必死に考えた。
結果は、ユリネが生まれた時に名付けられた名前は女の子に付けるような名前ではないレベルに酷いものだった。
その場に居合わせた、メイド達、産んだアンジェリーナが激怒するほどにだ。
結局名前はアンジェリーナがユリネ・フロース・アズリーと名付けて事なき終えた。そんな事、産まれたばかりのユリネには知る由もなく、そんな名前が付けられそうになったことを知れば嘆くかもしれないと、この件に関しては二度と永久凍結された為知る術は皆無といって良い。
「それでお母様、なまえは?」
「それが、まだ決まってないの」
困った表情で答えるアンジェリーナにユリネが体をそわそわとさせながら提案する。
「それなら、私…つけたい…です」
「良いわね、きっとこの子も喜ぶわ!」
嬉しくなり、アンジェリーナはユリネを見て微笑んで言った。
「ありがとうございますお母様。それで、その…もうきめていまして」
ユリネは頬を赤くしながら言った。
名付けられるのなら自分の弟か妹に名付けてみたいとずっと考えていたユリネの心は名付けられる歓喜でうち震えた。
ただ、気に入ってもらえるか不安で中々口に出せず、着ているドレススカートの裾を握ってそわそわもじもじしている。
その気持ちを察したのかアンジェリーナはユリネの頬に手を添え、目を見つめた。
「大丈夫、自信をもちなさい」
(ギーヴスではないだからきっと大丈夫)
本人がいる前で中々にグサッと刺さる事をアンジェリーナは内心で考えていた。
そんな事も露知らず、ギーヴスはメイドのララと共にユリネが名前付ける所を待っている。
「すぅ……はぁ…………ベル、ベル・ルーデレ・アズリー」
「良い名前です。旦那様ではこうはいきませんね」
「ララ、本当に君は家主に容赦がないな」
「遠慮しなくても良いと仰ったのは旦那様ですから」
そう言われては何も言えないギーヴスは再び項垂れることになり、そのやり取りを母娘は笑ってみていた。
こうして、結城奏多はベル・ルーデレ・アズリーとなった。
どうも翔丸です。
転生なので、赤ちゃんが本当に思ってるのかはわかりませんがこんな感じなのではと思って書いてみました。
次回は6月15日13時です