初のおしゃべり
あれから二日が経ちました。
ロゼさんとロゼさんのお母さん、アーテさんそしてジルさん達と数人の侍女は騎士の人達に護衛してもらいながら王都に帰っていった。
ロゼさんは凄く戻りたくなさそうにユリネお姉ちゃんと僕を見ていた。特に僕を。すっかり気に入られてしまった。
嬉しいけど、ブラコンの姉が増えたみたいでまた会ったらユリネお姉ちゃんと喧嘩になったしまうような気がする。
だって、既に母娘そうなったんだから。
ロゼさん達が帰る前日には起こった騒動を報告するために二人の騎士が王都に向かっていったらしい。
僕の起こしたことが報されるのかと懸念していたんだけど、ユリネお姉ちゃんとロゼさんは僕がやったこととは証言しなかったみたい。
だと、ユリネお姉ちゃんが自室に僕を連れて全部話してくれた。
そのあと、「ベルはお姉ちゃんが守るから」と抱き締められた。
あの魔物の件でユリネお姉ちゃんの何かが変わったのかもしれない。まあ、単に僕が無茶したのを見て不安に感じてるだけかもしれない。
どちらにせよ、お姉ちゃんのブラコンレベルが上がった。
僕も魔力循環と魔法威力のコントロール以外に度々リーナお母さんが読む本を一緒に読むようになった。
リーナお母さんが読む本は大抵が魔法に関すること立ったからだ。
最初は今の魔力量では使えそうなものではない魔法ばかりだったけど、二日目に興味を持ってると分かったリーナお母さんはたまに〝ウィンドカッター〟と同じ初級魔法の本を取り出しては一気に読ませず、焦らすように少しずつ読み聞かせてくれた。
お陰で文字も覚えてきたし、初級魔法は大体使えるようになった。言葉を理解できるんだからここはせめて文字も理解できるようにさせてほしかったと思ったけど、焦らされたこともあって新しいものを覚えるという事で楽しかった。
そのあとは、お姉ちゃんとロゼさんと遊んだり、喋れるようにユリネお姉ちゃんとロゼさんが暴走しないようにミーシャさんの監視のもと歌を歌ったり、赤ちゃんらしく空腹でギャーギャー泣いてたり、所用で泣いてたりとそんな事をしていた。
夜。
空腹でリーナお母さんを起こしてしまうのが困りもので生まれてからの最大の悩みなのだけど、笑顔を見せてくれるので何も言えない。
そして、僕がベルとして生まれてから一ヶ月半が経とうとしていた時、事件が起きた。
初級魔法も大体マスターしつつ、僕が歩けるようになったからそろそろ一人でリーナお母さんの部屋を出て歩こうとしたら、リーナお母さんの部屋だけにして欲しいのかララさんに止められてしまった。赤ちゃん一人は屋敷だとしても危険だと考えてるからだと思う。
でも、赤ちゃんの体に精神が引き摺られてどうしても感情を優先にして駄々をこねてしまう。
ララさんに両脇を持たれそのまま両腕の中に抱かれ落ち着かせようと揺すられる。
僕はイヤイヤと手足を振り回して暴れる。
「あうあー!」
「ベル様大人しくしてください。お願いします!」
「あうあー!」
「イヤイヤ言わないでください」
「いやいやー!」
「「「……え?」」」
部屋にいたユリネお姉ちゃん、リーナお母さん、ララが驚き呟いた。
これがベル・ルーデレ・アズリーとして生まれてから一ヶ月半の初めてのおしゃべりである。
悲しきかな。
*
「初めてはお姉ちゃん…初めてはお姉ちゃんお姉ちゃん……」
あのあと、僕はリーナお母さんの腕の中にいる。驚愕の余り暴れるのを止めたんです。
そんなことより、一番悲しい光景がある。偶々お母さんの部屋にいたユリネお姉ちゃんが同じ事を何度も呟く状態になってしまった。
そりゃあ、ロゼさんが帰った後もピアノを弾いて練習してたんだから。『お姉ちゃんと呼んで』というオリジナルブラコン曲を作って練習させられたりしたしね。駄目だったけど。
ショックは大きい。
そんなお姉ちゃんを見てララさんは必死に元気を出させようと頑張っている。
リーナお母さんにしても僕を抱きながら「あらあら」としか言わない。悲しいのか怒ってる?のか分からないけど、それが妙に怖い。幸い、抱かれて安心してるのか泣いてはいない。
複雑。
しかもそんなときでもお腹が空いて泣いてしまうのだから、赤ちゃんは自由だ。
「一番最初の言葉が『嫌』というのは悲しいけれど」
「面目誤差いません」
「気にしないでララ。あなたはベルの事を思ってやったのだから」
「感謝いたします、奥様」
「それと毎回一回は言ってるのだけど奥様はやめて」
「はい、ですから一回は呼んでます」
ララさん、変に意固地だよね。何でなんだろう。
「もぉそういう所は年齢にそうのね」
「十六でも大人です。ですが奥様もまだ二十四ですよね」
「あらあら、ララよりは大人よ」
え!?衝撃の事実!
つまり、お姉ちゃんが六歳だから最低でも十六、七歳くらいに産んだって事だよね。
流石、貴族社会。
ララさんは見た目通りって感じ。でも、しっかりしてるから十八くらいかなと思ってた。
「何故でしょう、今誰かに失礼な事を言われた感覚が」
「ふふ、誰かララのその何かを話してるのかもしれないわね」
「判明したらお仕置きですね」
何故かな。そうでなかったら疑われてた気がする。赤ちゃんで良かった。と思ったら、変な罪悪感が。
これはあれですか、女性の年齢には触れるなという忠告だろうか。うん、そう思うことにしよう。
お母さんは「そうね」と言いながら笑ってる。
いつの間にか和んでいた。
*
翌日。
前日の夜に空腹で泣いたり、朝起きてはまた空腹で泣いたり、トイレで泣いたりと赤ちゃんの仕事で、リーナお母さんにお世話をかけていた。
今日も特に変わりない日常だけど、今日は、
「ベル、早く来ないとお姉ちゃんは捕まえられない」
「あうぅ」
「うっ……これはベルの歩く練習歩く練習……」
ユリネお姉ちゃんが何かに悶え苦しみながら、暗示のように何かを何度も呟いている。
その間に僕はユリネお姉ちゃんを捕まえようとぽて、ぽてと歩く。まだまだ歩くのを難としている。
目標があると歩きやすいようで、それに気付いたユリネお姉ちゃんが「おいで」と呼び掛け、僕は追いかけているのだ。
一定の距離で待ってくれてるんだけど、もうすぐという所でまた離れるを繰り返される。
その度に辛くなる。同時にユリネお姉ちゃんの表情が苦しむような表情になったり、さっきみたいに呟いている光景を見ている。ちなみに離されたのは三回。
まあそういうことも、歩くのに必死で余り考えてられない。だって、体がまだ柔な赤ちゃんだと、踏み込みの力加減に、体幹に意識を向けないと倒れるから。
バランスを崩しそうになると僕の後ろに控えているミーシャさんが慌てるので、一層必死になる。
そろそろきつい。
そんな顔をしたからかユリネお姉ちゃんが膝をついて僕に言った。
「ベルゥ〜こっちこっち、三回で終わり。来たらぎゅってする、あとなでる」
それ、お姉ちゃんがやりたいだけでしょ。
でも、ユリネお姉ちゃんとリーナお母さんのハグは好きだ。赤ちゃんのご褒美としては最高ではなかろうか。
うん、やる気アップだ。
赤子ベル、行きまーす。
「あうーー!」
ぽて
まあ、歩く速度変わらないのですけどね。
体は強化されても赤ちゃんなのは変わりない。
今はぽてぽてで頑張る。
「ベル頑張れ、そして、かわいい」
そして、ぽて、ぽてと歩くことに体感的に十分。
あと数センチという所で僕はお姉ちゃんへとダイブした。
でも、まだ六歳のお姉ちゃんには支えるのは早かったのか後ろに倒れ込んだ。
「お嬢様!」
「ん、大丈夫」
でも、しっかりと受け止めてくれた。それが嬉しく、キャッキャッと笑う。
精神が肉体に引っ張られるのは仕方ない。
寧ろ、正直でよろしい。
「ベル、頑張った」
ユリネお姉ちゃんが頭を撫でてくれる。
それに僕はただ身を委ねる。
「ベルは甘々えん坊さん」
「あう!」
それはお姉ちゃんもでしょと意味を込めて言った。
けど、それは間違った解釈で受け止められてしまい、「仕方ないなぁ」と微笑ましい表情で僕を見つめる。
その時、扉がノックされた。
「ユリネ入っていいかしら?」
「はい」
すぐにユリネお姉ちゃんは立ち上がって、僕を抱き抱えた。
今更隠すこともないと思うけど、頬がほんのり紅潮してるからやっぱり恥ずかしいのかもしれない。
そして、丁度リーナお母さんが入ってきて、ユリネお姉ちゃんと一緒にソファに座る。
「それでお母様どうかしたのですか?」
「ユリネ、そろそろ王都に帰ろうと思うの」
どうも翔丸です。
一応お知らせしようと思います。
もしかしたら、タイトルを変えるかもしれません。
変えた時にまたお知らせしますが、あくまでも予定なので。そして、未定です。
突然、すいませんでした。
次回も読んでください(≧▽≦)




