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転生は赤ちゃんからでも世界最強です   作者: 翔丸
赤ちゃん生活編
19/24

議会

猛暑!(゜ロ゜;ノ)ノ



 ベル達が魔物と遭遇してから一週間が経った頃、その報告はアズリー領を北東に進んだ先にある【オルレイン王国】王都ダルクの中心に聳える蒼と白の城―――――リュミネルにも伝えられた。


 そして、丁度、城内の議会室にて五の席を儲けた円卓の内、一席を開けた中で、報告の一つとして上げられて落ち込む、一人の男が慰められていた。


 白亜の鎧を着けた引き締まった体を椅子の中で縮込ませ、白銀の髪の下の顔は世界の終わりのような絶望的な表情をしていた。

 その男の名前はギーヴス・カエルム・アズリー。

 アズリー家当主でありアズリー領の主。

 アンジェリーナの夫であり、ユリネとベルの父親である。

 そんな彼に左隣の席に座っている六十代くらいの老婆が言葉を掛けた。


「はぁ…ギーヴス。いつまでもくよくよしてないで元気を出しなさんな。子ども達は無事だった、それで良かったじゃないの」

「……はぁ」


 普段はこんなにも気落ちする事はギーヴスはない。

 だが、一つだけとも言える事がある。それは自分の知らないところで家族が危険な事柄に関係したものだ。


 つい先ほど議題に上がった時も議会を放り出して帰ろうとしたくらいに。

 やはり、アンジェリーナが回復するまで休暇を取るべきだったと後悔するギーヴス。

 つまり、何も出来なかった自分の不甲斐なさに滅茶苦茶気落ちしている、親馬鹿という訳である。

 しかも、()()()()()()()()()()()がいたにも拘わらず起きたことなので余計だった。


 ギーヴスは決して頭が筋肉出てきていると言われるような人ではない。寧ろ頭を使う方である。

 しかし、家族が絡むとどうしても考えなしに突っ込もうとする。

 それだけ愛情が深いとも言えるのだが、議会で出すないでほしい。その理由を一人の男が代表してはっきりと事を言った。


「ギーヴス、議会が長引く。それと宮廷騎士団団長のお前が落ち込んでいると、騎士達の士気にも影響が出る。そろそろ割り切ってほしいのだが。ロザリア様の言うとおり、助かった。それでいいだろう」


 そう言ったのは右三つ目の席に座る真紅に煌めく髪と瞳を持った男。

 するとギーヴスは椅子から立ち上がって真紅髪の男に向かって青筋を浮かび上がらせながら口を開いた。


「おい、フェアス!ロゼ嬢もその場にいたのに心配ではないのか」


 フェアスと呼ばれた男はフェアス・マーグナ・フレイ。ロゼの父親であり、【オルレイン王国】で宰相(さいしょう)をしている。


 そして、彼は数日前に王都へ戻ってきたばかり。その最中に娘が危険な目にあった。

 冷静を装ってはいるが、ギーヴス同様に歯痒さ堪らない気持ちだ。

 そんな気持ちを心に留めている時に、心配ではないのかと言われては、言わずにはいられない。


「あ"?んな訳ないだろ!!私だって心配したに決まってる。だが俺はいつまでも落ち込むよりも、次守れるように動こうとする。それだけだ」


 過去の後悔を引き摺るよりもそれを経験値として次に活かす。

 その正論にギーヴスはそうだなと折れ、深く深呼吸をした後、体を真横に向けて頭を下げた謝罪の言葉を述べた。

 フェアスもまた、同様にそちらに向かって頭を下げ謝罪する。

 その先にいるのは、蒼髪碧眼で、均一された顔立ちで、二十三の歳で即位継承したオルレイン王国の王、アハルト・へルド・ダルクである。


「気にするな。久しぶりに恒例がやってきたにすぎんからな」


 アハルトはフッと面白おかしく鼻で笑った。

 それにロザリアは言われれば確かにと頷いた。


 ギーヴスとフェアスは家との関係で昔からの腐れ縁で、ギーヴスが暴走しかけるとフェアスが鎮める事があった

 それは、我が子がユリネだけでまだ三歳の時。

 ユリネが熱を出した。その日も偶々議会があり、気になりすぎて上の空。挙げ句の果てに、議会放り出して帰ると言い出した。

 今回のように。

 それをフェアスが医師と薬剤師を呼んだのなら信用しろと諌めたといっては口論が始まったといった具合に。


「申し訳ありません」

「ハハハハハハハ。何、お前達の親馬鹿さ加減は城内では既に周知となっている」

「ハル……殿下、笑い事ではありませんし、私はギーヴスと違って冷静に行動できます」

「親馬鹿は否定しないか」


 くつくつとアハルトは口の前に手を添えるように出して笑いを堪える。

 フェアスは基本は落ち着きのある人だが、上機嫌になると妻のアーテや娘のロゼの自慢話が饒舌となって止まらないのだそうだ。

 フェアスも相当な親馬鹿という事になる。


「殿下」


 そろそろ終わりにしましょうと、ロザリアが声を掛けた。

 彼女は先々代の王の時から使えているこの中では最古参の上層部の貴族で、何かと厄介事は最終的にロザリアが止めている。


 そんな事もあり、度が過ぎた時に声を掛けられればアハルトはすぐに気持ちを切り換えるのだ。


「フェアス」


 名前を呼ばれてフェアスも切り換えて報告書を読み上げる。


「議題を戻します。一週間前、ギーヴス騎士団団長の領地アズリー領直近の森に変異種のフォレストヴォルフが出現。その時鉢合わせたのが、アズリー伯爵家の長女ユリネ・フロース・アズリー、私、フレイ伯爵家の長女ロゼ・エメルラ・フレイ、アズリー領民のシウ、そして、先月産まれたアズリー伯爵家長男ベル・ルーデレ・アズリーの四名です」


 フェアスは仕事として淡々と読み上げていく。


「ベル士がその場に居合わせたのは不明ですが、ユリネ嬢とロゼ嬢は報告書にもあがっているシウという女の子を探すためにだそうです。良い子に育っ…ごほん失礼しました」


 自然に溢れた誉め言葉にアハルトはくつくつとまた堪え笑いながらこの二人は本当に飽きないなと考えていた。


 同じ頃、ギーヴスもフェアスも内心でユリネの事を誉めていた。

 フェアスと少し違うのはそこに何故かベルがいたことだ。

 六歳とは言えど、森に連れていくのが危険なことくらいユリネだって分かっているはず。なら、赤ん坊のベルは屋敷内にいなくてはならない。

 となると、ベルは勝手に抜け出したことになる。

 ユリネ達の事も含めて、アンジェリーナもララ達従者も何をしていたのかと領地に戻ったら問い(ただ)さないといけないと密かに決めたギーヴス。

 だが、もっと気がかりと感じたのは、その過程だ。


 森は領地を護る結界の外にあり、少ないとはいえ魔物が徘徊している。赤ん坊のベルがどうやってそこまで辿り着いたのか疑念が残るまま報告を聞き続ける。


「ユリネ嬢、ロゼ嬢の証言によると変異種に遭遇後、()()()()()()()()()()()()()とのこと。その者は直ぐに姿を消したそうで、正体は分かりません。その後、騎士団によって無事保護され、女の子は親の元に無事に帰還、ロゼ嬢達も怪我なく無事だそうです」

「……変異種…やっぱりこれはやって来たということだね」


 ロザリアはワントーン低い声で言った。


「恐らくは。ですがまだ、これは只の影響を受けての事です。猶予がある内に戦力を整えるべきです」


 その発言を聞いたアハルトは暫く沈黙してから先ずギーヴスに声を掛ける。


「…………ギーヴス、騎士団の戦力を増強しろ。特に新人の教育に力を注げ。脱退しない程度にな」

「畏まりました」

「ああ、それと方針が決まるまでは帰れるとは思うなよ」

「……くっ……畏まりました」


 悲惨な叫びを今にも上げそうな表情のギーヴスを見て頬をニヤニヤさせているアハルトを見て、絶対わざと言ってるなこの国王、とこの議会に他に何人か参加していれば誰もがそう思っていただろう。


「フェアス、アーテ夫人に結界魔道具の強化の正式依頼をする。ロザリア、後で書状を製作して、フェアスに渡しておいてくれ」

「任されたよ」


 ロザリアは頷く。ロザリアはアーテ同様に魔道具の研究をしている。強化はできなくはないが寧ろ、魔力消費効率を変える等の改良や新しい物を作ることに長けている。


 対して、アーテは魔道具の効果を強化する事が得意なのだ。

 故に、そちらに依頼を回すことにしたのだ。


「アーテも恐らく今日中には帰ってくると思いますので、直ぐに渡しておきます」

「頼む。それと……」


 それから他の上位貴族にも、他国にも報告の書状、それとギルドと連携して定期的に生態調査を行うように取り計らう事を命じて議会は終わった。


「ああ、疲れたぁ」


 椅子に背もたれだらしない姿勢で寛ぐアハルト。

 議会室に残ったギーヴスとフェアスも椅子に背もたれた。


「癒しがほしいんだが」

「俺だってほしい」

「良く言う。もうすぐ、アーテ夫人とロゼ嬢が帰ってくるだろが」

「そうだな。そうだ、ギーヴスいつかベルくんに会わせろ」

「会わせるか阿保!」

「俺は立ち寄ってはいるが見てないんだ」

「知るか!ともかく却下だ」


 王を挟んでやいやいと口喧嘩をする二人である。

 何だかんだで仲が良いので、いつか会わせるだろうとアハルトは思いながら聞いていた。


「俺は駄目か?ギーヴス」

「〝ハル〟は構わん」

「ハルは良くて俺は無理と酷い父親だな」


 ハルとはアハルトの愛称、あだ名である。

 ギーヴス、フェアス、アハルトはとある縁で繋がりを持つようになるのだが、それは別の話。

 ともかく、愛称で呼べるほどに三人の関係は良好なのだ。


「お前に純粋なベルを会わせたら絶対に泣かすから会わせん」

「んだと。そういうお前はどうなんだ?ん?」

「お、俺はキャッキャッと……喜んでくれたさ」

「嘘だな」

「嘘じゃない!」

「ギーヴスお前、嘘つくとき必ず目が泳ぐからバレバレなんだよ」


 アハルトに指摘されこの二十年近くでようやく知った事実だった。

 ただしこれは気を許したものにのみ。

 それ以外ではそんな事は起きないのだ。これに関しては敢えて、アハルトは言わないでおいた。


 何故?

 単純に面白いからだ。


 それから十分程議会室は三人だけの談笑部屋になっていた。

 変異種のフォレストヴォルフを討伐した者が本当は誰かとも知らずに。

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