赤ちゃんは遅れてやってくるのでちゅ
暑いです。コロナも増加です( ´△`)
どうしよう。全然泣き止まない。
仕方ない泣きながら、進もう。
僕はぎゃーぎゃーと泣きながらユリネお姉ちゃん達を気配感知で探索しながら探す。
でも、泣き喚くせいで、人とも動物とも違う気配が複数近づいていた。
はぁ、急いでるのに。
我ながらに焦ってミスした事後悔するよ。
ガサッという草木の擦れ揺れる音と同時に何物か達が飛び出してきた。涙のせいでよく分からないけど、黒い四足歩行の生き物っぽい。
動物ではない気がする。
感じるだけでも気分が悪い感覚。
「グルァ!」
何かが叫び声を上げた。
その瞬間、僕の身体がビクついた。
あ、やったぁ!泣き止んだ。
涙が目に溜まってるから拭わないと…って!喜んでる場合じゃない。
四足歩行の何物かが中にいる僕に向かって飛びかかってきてるのに。
僕は気配感知を使ってユリネお姉ちゃん直伝風魔法の〝ウィンドカッター〟を薄く鋭利な刃のイメージで何物かに放った。
目の前の何物かが倒れた。
気配も消えたから倒したのかな?
この調子で僕は浮遊魔法で自分の身体を回転させながら、同時に〝ウィンドカッター〟を放つ。同時にっていうのが不安だったけど、あっさりできた。
このまま倒していく。
その途中で何回か木の倒れる音がした。
ごめん、木。
あ、気配が全部消えた。終わった。
ただ、赤ちゃんが何物を倒すって見た目的に良くないよね。
でも、仕方ない。
僕は普通の赤ちゃんとは違うんだから。
それで、四足歩行の生き物の正体は何だろう。
僕は小さなお手で涙を軽く拭って、ようやく姿を見れた。
その正体は狼だった。
体長が一メートルくらいで、目が赤い、緑混じりな黒い毛皮。
こんな狼は見たことが無い。
こいつが、この狼がファンタジーご定番ではお馴染みの魔物かな。
さて、ユリネお姉ちゃん達を探さないと。
「あいあ!」
*
「魔物」
「ユリネ、領地のまわりに結界は」
「して、るってお父様は言ってたけど」
アズリー領地の周辺には侵入を許さないための防壁が存在しない。というのも、領地中心にある魔道具があり、発動させる事で結界を展開させ魔物から守る事が出来る。それだけではなく、小規模範囲で魔物を近付けなくする効果もあり、余程強力な魔物でなければ近寄ることはないのだ。
そして、それはアズリー領だけに限った話ではない。
他の街や都市でもこの魔道具を使用して生活を守っている。
今ユリネ達がいる範囲は魔物が近付けなくなる効果圏内。
しかし、三メートル体躯の緑混じりの灰色の狼は範囲でユリネ達を赤く鋭い眼光で睨みつけている。
その狼の魔物についてはユリネもロゼも知識でだけなら頭に入っていた。
フォレストヴォルフ。
名の通り、森林に棲息している。標準体長は一メートル前後で、結界の効果範囲内には近寄らないレベルの魔物なのだ。
それに対してユリネ達を睥睨するこいつは三メートルで、範囲内に侵入している。
明らかに異常だ。
こうした異常な魔物は〝変異種〟と呼称されている。
ユリネやロゼ達はまだ知らないが、そもそもフォレストヴォルフはこの森の奥の方に棲息しているため、領地近辺で遭遇する事はまずない。あったとしてもここでは極稀だろう。
とはいえ魔物は魔物。
ユリネにロゼ、迷子となっていたシウにとっては恐怖でしかなかった。
体が震える。
逃げたくても畏縮して動かない。
そう思った瞬間。
ユリネもロゼも、もう駄目だと諦めかけていた。
「やだよぉ、こわいよぉ」
シウがぎゅっとユリネの服を掴む。
直後、自分達がここに来たのはシウを母親のところへ帰すために来た気持ちを思い出す。
ユリネもそして、ロゼも魔法は使えるが魔物相手に太刀打ちできるほどではないし、戦闘経験など一切ない。
それでもここで諦めたらシウを、いやシウの母親が悲しむことになる。それはユリネとロゼの家族も例外ではない。
何より、ユリネはベルの成長をまだまだ、まだまだ見ていない。だから……死ぬわけなにはいかない!
そう思った時、僅かだが二人の足に力が戻った。
動けると感じた瞬間、変異フォレストヴォルフはその動きを見逃さず駆け出してきた。
「グラァ」
「……目の前の敵を刃となりて打ち払え〝ウィンドカッター〟」
「……目の前の敵を火球となりて焼き払え〝ファイアーボール〟!」
ユリネは風の刃をロゼは炎の球をそれぞれ変異種のフォレストヴォルフに向かって放った。
フォレストヴォルフは難なく回避すると、馬鹿にするように鼻で笑い、真っ直ぐユリネ達へと向かって駆ける。
「グァアア!」
声を張り上げながらフォレストヴォルフがユリネ達に飛び掛かる。
避けられないと子ども特有の鋭い直感で悟ったユリネとロゼはせめてシウは助けないとと、咄嗟に自分達の身でシウを覆った。
二人は無駄だと分かっても変異フォレストヴォルフに睨みを効かせて見る。
これを見た大人は、驚愕と血の気が引けて真っ青になるだろう。
「お父様、お母様」
この状況で、もし大人がいたなら助けを求めたであろう人物に少し勇気を貸してもらいたくユリネはボソッと呟いた。
ロゼも同様に自分の両親を思い浮かべた。
「あうあーーーーーーー!!」
「きゃう!」
甲高く叫ぶ声と共にフォレストヴォルフの左目が縦に刃物のような傷が付けられた。
左目から血を流しながら後ろに飛び退いてユリネ達から距離を置いた。
何が起こったのか、突然のことで飲み込めていないユリネとロゼ。
その二人の前に予想外過ぎる人物、いや赤ん坊が中に浮きながら目の前に現れた。
「ベル?」




