遭遇と探索でちゅ
ほんの少し時間を遡る。
ロゼの母親、アーテの側付き執事ジルが部屋を出た隙に窓から屋敷の外へと出たユリネとロゼ。
現在、森の中に迷い込んだアズリー領民のシウという少女を捜索するため、同じく森へと入っていた。
「私達、あとでじっくりおこられますね」
「分かってて、出た」
「そうですね……それにしても…お忍び風の服でよかったです」
ユリネとロゼは家に戻っても、服を着替えることはしなかった。
普段着ているドレスは淑女として貴族としての立ち振舞いを前提に作られている。つまり、走ることははしたないということである。それは子どもでも大人でも貴族という立場上変わらない。
だが、木枝に引っ掛ける可能性もある。捜索するにはあたって何かと不便だ。
逆に領民達の服装は動き易い為に捜索には有効だ。
どちらが捜索する際、着ていくかと問われれば動き易い後者を選ぶのは明白だろう。
しかし、二人はまだ幼い。足が短いため探索する範囲を広げれば大人の倍は体力も精神力も使ってしまうことを知らなかった。
そう、勉強しているとはいえど、まだ子どもなのだから。
「はぁ……っ、シウちゃーん」
「はぁ……はぁ…し、シウちゃーんどこですか!」
それから十分間、二人は名前を呼び続けながら探した。
当然、息が切れ荒くなり、足も疲弊してへとへとだ。
その時、ガサッと擦り音が鳴る。
そこからひょこっと小さな女の子が出てきた。
茶色の短い髪に赤いスカートと特徴が一致している。
「シウちゃん?」
ユリネは名前を呼び確認する。
「ぐす……お、お姉ちゃんたち、だぁれ?」
「私達はシウちゃんのお母様にたのまれて探しに来たの」
「怖かったですよね。お母様の所へ帰れますよ」
二人はシウを頑張って安心させようと声を掛ける。
「ほんとぉ?」
「はい」
「怒られるかもしれないけど」
「ユリネ!?」
「うぅぅ…こわいのやだ」
「ユーリーネー」
ロゼはユリネの頬を引っ張る。
ちょっとした冗談のつもりだったのだが、如何せん内容が普通にあって可笑しくないもので通用しなかった。
当然である。
そこでユリネは頬を引っ張られながら「でも」と付け加える。
直後、ロゼが頬を放してくれたので、ユリネは普通に話すことができた。
「それよりもお母様はシウちゃんと会ったら安心すると思う」
「そうですね。シウちゃん帰りましょう」
「……うん」
シウはとてとてと歩いて二人のもとへ向かった。
そして、二人はシウの手を握って後ろに振り返り、森の外へと向かう。
その時だった。
背後から重い一歩で近づいてくる足音があった。
「グルルルル」
その声にユリネとロゼの二人は顔だけを振り向かせて声の主を見た。
緑混じりの灰色の毛の四足歩行である体躯は三メートル近くある。その姿は狼だった。
「…魔物」
怯えで震える声でユリネは目の前の狼を見てそう呟いた。
*
ユリネお姉ちゃんが心配で、リーナお母さん達が話し合っている隙に気配遮断で気配を消しながら浮遊魔法でこっそりと抜け出してしまった。
怒られるのは嫌だけど
そうも言ってられない。
けど、見つかったら魔法ありの世界でも、赤ちゃんが浮いてるなんて異常光景だよね。
だからこそ、転生神様から最初からできるようにしてもらった気配遮断を使って気配を消してるんですけど。
そうだ念のために魔力遮断で魔力も隠蔽しておこう。
次は気配感知だ。
でも、まだこれ範囲が半径十メートルしか感じ取れない。
ちなみに目標は一キロです。
特典ってイメージするだけだから赤ちゃんのうちには出来るかも、でも焦らず。
けど、今回は急いで僕は探索する。
そうと決まれば、浮遊魔法に使ってる魔力を増やして移動速度を上げる。
ビョオオオオオ!!
駄目だぁぁぁぁぁ!抵抗風が強い。
少し落として行こう。通りすぎてもいけないしね。
今さら気付いた。
でもその前に、
「ああああああ!!」
驚きと好奇心通り越して怖いと感じて泣いてしまった。
感情のコントロールが赤ちゃんだからできない。
誰かぁ、僕を泣き止ませてぇぇぇ。
ベル……頑張って。




