散策 3 でしゅ
やっと梅雨明けですかね。
農家のおじさんと別れて、再び歩きアズリー領の街に着いた。
街中は領民やチラチラと少し異色の服からして領外からきた人で溢れ賑わっていた。
その様子を見て、ジルさんが口を開いた。
「ギーヴス様は本当に良き領主ですね」
「ジル、分かるの?」
ロゼさんの疑問を説明していく。
「はい、良き領地は人と笑顔で溢れております。少し細かく説明すると、ここには警戒する警備隊がいません。防犯面で神経質にならなくても良い環境、つまり、治安の良さの証明となります。そして、そういった街では旅人も安心して、長く滞在するはずです」
成る程。ジルさん、若いながら凄い。
言われると確かに、と頷ける。
警備隊が物々しく見回ってたら、何もしなくてもびくびくしてしまうし、ジルさんの言うとおり警備の人も神経質になる。
神経質になりすぎると癇癪起こしやすいからなぁ。それが後々悪い影響を及ぼすことになるかもしれない。
でも、ジルさんの見解の通りならこの街は心配無さそうだ。
「にぎやかですね」
「うん」
お姉ちゃん達は横に並んで街を見渡している。
「ユリネ、あの食べ物はなんですか?」
屋台があり、屋台店主がお客さんに手渡そうとしている食べ物を指差していた。
「あれは織物焼きっていうお菓子」
「なぜ織物なのですか?」
「買えば分かる」
ユリネお姉ちゃんとロゼさんがトコトコと小走りで屋台に向かっていき、ミーシャさんとジルさんは慌てて直ぐに見失わないように後を走る。
「いらっしゃい…て、ユリネ様じゃ……」
「し!お忍び観光なんです」
農家のおじさんのときはそんな事言わなかったのに突然どうしたのかな。
「分かりました。何にいたしますか?」
と言って店主のおじさんは板に掛かれたメニューを読み上げてくれた。
すると、聞いていたユリネお姉ちゃんが最後のメニューを呟く。
「エッグソブロレタス?」
「そちらは新商品です」
「あの、織物焼きはお菓子とききましたが」
ロゼさんが気になり口にすると、店主のおじさんはよくぞ聞いてくれたとばかりにニヤニヤしながら説明していく。
「織物焼きは確かにお菓子です。少し甘い生地にクリームや果物を包んで食べるものなんですけど。生地を甘くしなければ、軽食にも行けるのではと」
発想の転換だ。
でも僕、これを聞いて織物焼きに何か思い当たる食べ物があるんだけど、思い出せない。
見れば分かるかな。
それから、ユリネお姉ちゃんは新商品のエッグソブロレタスを注文して、ロゼさんはクリームとバナンというもののトッピングしたものを注文した。
そのあと、二人はミーシャさんとジルさんにも聞いたが、従者だからと断る。だけど命令と言われ、仕方なくでも、心中は食べられることが嬉しいのか口を緩ませて注文した。
そうしてミーシャさんが選んだのはバナンとベリークリームのトッピング。ジルさんはお姉ちゃんと同じエッグソブロレタスを頼んだ。
何でも新商品と聞いて気になっていたようです。
さっきの街の観察力からして見たり聞いたりと、好奇心溢れる人のようだ。
そして、出てきたのは表面が縮れたシワのような薄黄色の生地に食べ物を包んだ物だった。
そうだ、クレープだ。
思い出してすっきりしたよ。あとはガレットだ。
ちなみにバナンは見た目的にバナナだと思う、ソブロは挽き肉のそぼろかな。
「甘くておいひいです!」
ロゼさんは手を頬に添えて、
「こっちは本当に軽食」
ユリネお姉ちゃんは微妙に笑みを浮かべて。分かり難い。僕を可愛がる時みたいに表情崩壊させれば分かりやすいのに。
「お菓子は至高の食べ物ですぅ」
うっとり惚けるミーシャさん。
女性陣は適当に椅子に座って美味しそうに食べている。
けど、ジルさんは何か違う。
「これは小麦ですね。流石は自然に溢れて、広大な土地を活用して農業を盛んに主に小麦など穀物を生産しているアズリー領。それに、これは出回れば何れ朝食や昼食に定着しても可笑しくないですね。他にも組み合わせ次第で飽きることがありません」
最初は美味しそうにしてはいたんだけど、途中から解説し始めた。
執事の前、絶対に商業関係してたなジルさん。
そんな感じがするよ。
というか僕も食べたい。見せつけるなんて生殺し地獄だ。
なんて思っていると、お腹空いてきて大泣きした。
*
一端屋敷に帰ることとなった。僕がお腹が空いたのが理由でね。その間僕が泣き続けることになるのは仕方ない。
「あああ〜〜ああ〜〜!」
「ベルごめん。私達だけ」
ミーシャさんに代わって帰りながら僕を慰め続けるお姉ちゃん。
「ユリネ誰かいますね」
「領民の方と警備隊の騎士の方々のようです。お嬢様私聞いてきますね」
暫くしてミーシャさんが此方に戻って、歩きながら手短に説明した。
訪ねてきた人は女性で、内容は子どもの捜索だった。なんでも、親の畑仕事を手伝っていたらしく、家に留守番するには幼いために一緒に来たらしいのだが、作業で目を離していたらいなくなっていたそうだ。
周辺、他の人にも聞いたらしいが見つからなかった。もしかすると、森に行ったのではと思い捜索してもらおうと訪ねてきたらしい。
このアズリー領は見える範囲で森に囲まれていて、その母親の親の畑は森近くらしい。
ちなみに僕らの屋敷も森の近くというか真後ろにある。
で、騎士の人達は詳しく子どもの特徴を聞いていたらしい。
「名前はシウというそうです。四歳の女の子で、短い茶髪で赤色のスカートが特徴らしいです」
もし森なら、それだけでも事足りる。詳しく聞ければよかったらしいんだけど遭難して時間が掛かったら危ないから半分は既に探索してるらしい。
「ミーシャ他の騎士にもしらせて」
「ですが…」
「屋敷はすぐそこ」
「………畏まりました。では、他の騎士の人達にもこれを伝えてきますので屋敷に戻っていてください。ジルさんお願いします」
「お任せください」
ミーシャさんは急いで街の方へと凄い速さで走っていった。
その時一瞬、魔力感知で魔力を感じたので身体を強化したんだろう。
まあ、そうだよね。お世話するだけがメイドじゃないもんね、守るのも仕事だよね。
つまり、メイド長としてまとめるララさんも凄いと。まあ、身体強化だけだし、どうも言えないけど。そうなら、戦うメイドではないか。
ヤバイね。
*
ギーヴス父さんは不在なので、報告はリーナお母さんにされることとなった。
森の捜索となると、規模が違った。対応は既にされているので、特にリーナお母さんが言う事はなかったけど、改めてそのシウという女の子の母親に特徴を詳しく聞いて周辺の領民、街の人にも
見かけたら警備隊の騎士に教えるようにという指示だけは出した。
あと、こっちに来ていたロゼ母さんも数人残った護衛の騎士
僕は母乳を貰って今はベッドの上。
僕が行けたら気配感知で見つけられると思うんだけど、それはそれでいなくなったらまた大事になるよね。
「失礼します!」
ジルさんが突然バンッと扉を開けて入ってきた。
血相を変えて、顔青ざめている。
胸騒ぎがする。
「ジル、どうしたの!?」
「お、お嬢様とユリネ様が!?部屋からいなくなりました!」
「それはどうゆうことジル!」
ロゼ母さんが怒気の籠った声で問いただすように言った。
「うぅぅあああああ〜〜!」
体は怖いと感じてしまった。というか実際ちょっと怖かった。だから、体が汲み取って泣いています。
「アーテ」
「ごめんなさい。ベルくんを泣かせてしまったわ。でも」
「分かってるわ」
どうやら僕の泣きで少し冷静になったみたい。
こんな時だけどアーテっていう名前なんだねロゼさんのお母さん。
「ジル聞かせなさい」
「はい、数分前のことです。部屋の中でお嬢様達の側にいたのですが、紅茶を切らしてしまい直ぐに新しいものを取りに厨房までの案内を受けながら向かい戻ってきたとき、部屋の中に二人の姿が無かったのです。その時、窓が開いていたので恐らく……」
窓から出たのか。二階だし危ないけど、お姉ちゃんは風属性の魔法を使えた筈だから多分、それで下りたんだろう。
……………うちの姉がごめんなさい。
それと今からすることにも謝ります。
*
「申し訳ありません」
深く謝罪をする。しかし、アーテは直ぐにジルに頭をあげさせた。
「ジル、謝罪はあとよ。アンジェリーナ」
「ええ、直ぐに報せるわ、ララお願いね」
「はい」
「ジルあなたも捜索に向かいなさい」
「畏まりました」
ララとジルが部屋を出た瞬間、アンジェリーナとアーテは頭を抱えた。
恐らく、いや、確実に子どもの捜索に出たのだろうと考えに至る。何故なら不安に陥っている程、親以外の大人に警戒心を剥き出しにする子どもはいないのだから。
そして、そういう時ほど同じ子どもなら、安心出来るものだったりする。二人はそう考えた。そして、その考えは的中しているだろう。
しかし、まさか、娘がするとは思いもよらなかった。
メイド長兼側付きであるララに指示を仰ぐように頼んだが、それでも、不安になってしまう。
無事を一緒に祈ろうと、アンジェリーナはベルの寝ているベビーベッドに回って、ゆっくり向かう。
「え?」
アンジェリーナは驚愕の表情を浮かべる。
その視線の先はベビーベッド。
だが、そこにいる筈のベル・ルーデレ・アズリーの姿が見当たらなかった。
あらあら、ベルまさか?




