散策 2 でしゅ
屋敷の外から見たアズリー領は、広大です。
屋敷から一キロ半程かな、に掛けて伸びる整地された街道の左右に畑が広がってあり、その先に街が小さく見える。
領地観光ということで馬車は使わずに徒歩で行くことに。
僕はミーシャさんに抱き抱えられながらですけど、赤ちゃんの特権ですね。
でもやっぱり思い切り領地内を走ってみたい。
街道を進んでいると、端の小坂に座っている農家っぽい男性がこっちに気付いて顔を向けた。
「あ、ユリネ様、おはようございます」
「おはようございます。昼食ですか?」
ユリネお姉ちゃんの口調が変わった。顔はミーシャさんが後ろに控えてるから分からないけど、きっと無表情に近い顔だろう。
日はまだ浅いけど何となく分かる。
でも、以外。普段のお姉ちゃんなら『おはよう。昼食?』って微妙に微笑んで言いそうなのに。
貴族って大変なんだな。って他人事みたいだけど、僕もいづれそうなんだよね。まだ赤ちゃん一ヶ月と二週間だからまだ実感湧かない。屋敷あって、領地あって、メイドや執事いるのにね。というか、皆の雰囲気がそうさせるんだよね。
家族を大事に、周りの人を大事にする優しい雰囲気がイメージの貴族とはかけ離れてる。
ラノベやファンタジーコミックでも良い貴族が出てくるものもあるけど、大体が欲望まみれな貴族だから、どうしても実感できない。
いずれは貴族社会と関わることになるだろうから、嫌でも実感する事にだろうな。
「それで、ユリネ様。差し出がましいのは承知しているんですが、ギーヴス様に今年も豊作になりそうですとお伝えくださいませんか?」
ギーヴス?ギーヴスって誰?、と疑問に思っていると、それは直ぐに判明した。
「それはあなたから言ってあげてください。そちらの方がお父様も喜びます」
お父さんの名前がやっと判明した。リーナお母さんは『あなた』、ユリネお姉ちゃんは『お父様』、ララさん、ミーシャさん達従者の皆は『旦那様』とか『主様』だから一切分からなかった。
ギーヴスね。ギーヴスお父さん、いや、ギーヴス父さんの方がしっくりくる。
ありがとう、領民農家のおじさん。
「そうですね。申し訳ありません。直ぐにでもお伝えしたくて」
「大丈夫です。お父様が戻られたらほうこくがあるとつたえておきます」
「重ね重ね、ありがとうございます。私達アズリー領民はいつでもお力になりたいと思っておりますので、困った事があれば頼ってください」
「そうす…します」
今、そうするって言いかけたね。慣れない喋りに限界が来始めたみたいだ。
それにしても、一人の領民だけで、どれだけ領内が人達に慕われているかが分かる。
良い場所だよ、ここ。
転生神様に本当に感謝しないと。
「そういえば、まだ皆には紹介してなかった。ミーシャ」
「はい」
ミーシャさんはユリネお姉ちゃんの一歩後ろに立った。
「もしかして、そちらが」
「ええ、この子がアズリー家長男、ベル・ルーデレ・アズリー。私の弟」
おお、またもやここでやっと僕のフルネーム発覚。
いや、アズリーって時々出てたし。
予想は出来てた………あれ?
ミドルネームがあるってことは、まだちゃんと家族皆の名前把握できないじゃん。
ようやく、『家族の名前は?』から解放されると思ったのに。
「あう〜」
「ん、ベル。元気ないけどどうしたの?」
おっと、感情が出てしまった。本当に自制が効かないよね、赤ちゃんって。
とりあえず、お姉ちゃんで癒されよ。
「あうあう」
お姉ちゃんの方に手を伸ばして、抱いてアピールをする僕。
「あ、お嬢様、ベル様を抱いてあげてください」
「うん、分かった、わ」
その時、ロゼさんから「ふふ」と笑い声が聞こえた。
きっと面白いんだろう。
僕もそうだし。
「ベルは私が好きなんだね」
「あいあい《もちろん》!」
「ベルくん、わ、私はどうです?」
僕をミーシャさんから受け取ろうとした時、ロゼさんが慌てて赤ちゃんの僕に尋ねてきた。
こういう所、子どもっぽいな。
直感と少し見た感覚に過ぎないけど、ユリネお姉ちゃんもだけど、六歳でしっかりしてて、そこは今は良いんだ。
結果だけ言うとロゼさんは善い人。
「あい」
「だそうですよ、ユリネ」
「む、今のはたまたま。会ったばかりで好きにはならない」
「あら、赤ちゃんは人の本性にびんかんと、本で〝たまたま〟読んだことがあります」
「ベルはまだ赤ちゃん。言葉はまだりかいできない」
いや、出来てるよ。完全に。ただ言葉がまだ話せないだけで。
というか何でいきなり張り合ってるの!?
お姉ちゃん口調戻ってるし。
「それなら、ユリネの言葉に答えたのも〝たまたま〟ですね」
「それはちがう。私は気持ちをのせて言った。だから、気持ちをベルはりかいした」
「む…それでしたら、私も気持ちをのせました」
お姉ちゃんとロゼさんの言い争いが始まりました。
人の心を一瞬で掴むなんて。
赤ちゃん、恐ろしい子。
まあ、アイアム。
「今度はお嬢様とロゼ様ですか」
「今度はとは?」
ミーシャさんの呟いた言葉にジルさんが気になってか尋ねた。
そして、少し前にお母さんとお姉ちゃんが嫉妬で言い争いが合ったのを話した。
「なるほど、それは大変でしたね」
「あの時は、ベル様が泣かれたことで収まったのですけど」
「今回は泣いておられませんね」
まあ、子どもの言い合いですから。
と言っても僕も高校、十八歳の精神年齢ですけど。
そのせいで、どうしても子どもの小さな言い争いにしかみえないんですよね。
あの時は、まあ、親子だったからか嫉妬の格が違ったんで。
「まあ、子が可愛いとああなられますよ」
領民農家のおじさんが頷きながら言った。
「とにかく、ミーシャさん止めましょう」
「そうですね」
ジルさんとミーシャさんが僕を抱えたまま止めに行った。
その時でした。
「仕方ない、ロゼの気持ちよく分かった、みとめるしかない」
「いえ、やはり、過ごしたじかんのさは大きいです。負けました」
と、何やら話が着いたようで、最後に握手をして事無く終えた。
一体何があったんだろう。
赤ちゃんはやはり世界最強なのでしょうか?




