転生するなら
特にこれといった刺激的な日というのは中々ない。
高校に入学してから二年半弱、進路を考えて、進学か就職か、はたまたニート等を決める時期にいる高校生。
それが僕。結城奏多、十八歳。
可もなく不可もなく、勉強してゲームして漫画読んで、あとは晩御飯作ったりと過ごす日々。どうでもいいかもだけど、彼女はいません。 欲しいと問われれば――――――まあ、欲しいかな?と長考する程度。
つまり、今のままで幸せ。家庭は決して金持ちという程の裕福ではないけど一般家庭で、それで良いと僕は思ってる。
これ以上求めたらバチ当たるんじゃないってくらい心は満たされている。
本当だよ。嘘じゃないよ。
まあ、何でこんなことを考えているのかというと、明日が勤労感謝の日だからなんだ。それで両親に、プレゼントをしようとショッピングモールに向かっているわけです。
母の日、父の日にも贈り物はしてるけど、両親としては贈ってないから、バイトで貯まった金で何かを買おうと思ってる。
ここで幼馴染の女子がいれば、参考になるし、都合つけてのデートなんてことも出来るわけだけど、悲しいことに幼馴染女子なんていないし、美少女委員長や生徒会長が友達という事もない。
いたら一人で選びに行こうなんてしないよ。
って、考えてたら悲しくなってきた。
忘れよう。
こんなんでプレゼント選んでも良いものは贈れない。
青信号になった瞬間、小さな子どもがはしゃいで渡っていた。
今日も平和だ、そう思っていた。
その時だった、信号が赤のはずなのに車がクラクションを鳴らして進んでいた。
アホだろ。
なんて考えてる余裕はなかった。横断歩道を渡っていた大人は端にすぐに逃げたがはしゃいでいた子どもが車の接近で足を止めていた。
何でなんだろうね。人ってここぞってとき、無意識に体が動くの。ヒーローとか助けを求めていた人を見たら勝手に動いていたとかあるでしょ。
つまり、何が言いたいかと言うと、子どもを助けようと動いていた訳ですよ。僕の体が。
でも、抱えて逃げるには間に合わなくてどうしたかと言うと、走った勢いを使って子どもを前に押した。
直後、僕の視界に空が広がった。確実に引かれた。
「ゴハッ!……ぁ……ぁッ」
息が出来ない。しようとすると吐血する。たぶん肺が潰れてるんだろう。心臓辺りに刺さったような違和感があるから肋骨も折れてるかも。
寒い、本当にヤバい、体が動かない。
「……あの…あの、聞こえますか!!」
多分倒れてるだろう僕の顔の前に誰かが顔を伺って声をかけてきた。
声からして女性だ。
でも視界、霞んでてわからない。
それより。
「こど……こど、もは」
「大丈夫です。無事です」
そっか良かった。
まったく本当にどこのアホ運転手だ。これで子ども死んでたらどうするんだよ。どんな人か知らないけど、人生まだあんたより生きてないんだからな。
「救急車呼んでるので、待っててください」
そうは言うけどもこれは助からない。本人がそう感じてるんだから間違いない。
いつの間にか霞んでた視界も真っ暗だし。これはそろそろかな。
父さんも母さんも悲しむだろうなぁ。でも、最後が人助けで終わるのは良かった。
でももし、もし、転生なんて小説展開が出来るなら魔法がある世界に行ってみたいな。
*
ん?
知らない天…定番だけど違う。真っ暗になった途端、真っ白な空間が視界に映った。周りには浮遊する幾つものケサランパサランみたいな見た目のモフモフな球体が浮かんでる。
可愛い。
周囲を見渡してると後ろに変な気配?がした。
これがニ〇ータ〇プか。
なんて思いながら振り返ると、振り返る?何か体を動かした感覚がないんだけどまあ、いいや。ともかく目の前に二十歳くらいの美人のお兄さんがいた。
「神気を感じとるって君凄いね」
「シンキ?何それ?」
「神の気配だよ」
神?神ってあれだよね。天照大神とかゼウスとかの神話に書かれてる。
でも、それにしてはフランクで、寝起きみたいに髪ボサボサ神にしか見えない。
「失礼な事考えてない」
「まあ、本当に神様なのかなと?」
「はは、正直だね。僕は神だよ」
ユルいよ。めちゃフランクだよ。
え!?神様ってこんなに親近感が湧くものなの。こう、「我は神ぞ。頭が高い」とか、「神を愚弄するか!裁きを受けよ」あれ?もし、本当に神様なら僕死ぬぞコレ!
「す、すいません。フランクでしたのでついタメでしゃべってしまいました。消滅はご勘弁を」
「あはは、そんなことしないよ。そもそも出来ないし」
「そうなんですか」
「したら追放ものだね。それでここが何処か分かる?」
さらっと自分のイフの危機を日常会話の如く流したよこの神様。何か納得いかないけど、それで神様って納得してしまった。
それでえっとここが何処かだったよね。
「神様がいるんですから神様の空間ですよね」
「ブブー、ここは転生する魂の集まる場所だよ」
何か一瞬ムカついたんだけど、魂の集まる場所と言われて体を動かした感覚無いのが自分も魂だと分かって、殴る気が無くなった。
「それで、どういう神様なんですか?」
「そんな他人行儀じゃなくていいよ、さっきみたいにタメで良いから」
「そうですか?なら、そうします」
「いや、なってないよ」
「あ」
「君、面白いね」と神様に笑い始めた。面白がれた。
それにしても何でこんなにユルいんだろ。気になったので質問すると、「長く生きてると威厳とか二の次になるんだよ」と神様は答えた。
そういうものなんだ。
いや、この神様だけかもしれない。だから、半分だけ信じよ。
「では、あらためて。僕は転生神リネカ。名前のとおりここで白紙の魂を転生させるのが僕の仕事」
「転生?そういうのって閻魔大王がやるものでは?」
皆さんラノベで忘れがちかもだけど、閻魔大王が死者の裁定者だから、一度立ち会うはずなんですよ。
「閻魔は善き魂と悪しき魂を選別して、善き魂を優先して僕の所に連れてきて、悪しき魂は地獄に送って魂を白紙にしてから連れてくるのが仕事なんだよ」
そうなんだ。地獄ってやっぱり恐怖に満ちた場所なんだろうか。針山とか、釜茹とかあるのかな。
気になったので聞いてみたら、場所によるらしい。
日本付近では釜茹、針山は本当にあるみたい。
「あれ?なら何で僕は僕なんですか?」
「それは閻魔がそのまま連れてきたからだよ」
「何故です?」
「君、子ども助けでしょ。しかも死に方があまりに悲惨だったから、記憶保持したまま転生させてやってくれっていう、彼女の粋な計らいだよ」
転生神は「しかも泣きながら」と付け加えた。
閻魔大王様は相当優しいらしい。予想でしかないけど。
僕のその悲惨な状態を聞くと、やっぱり肋が折れていました。それで車に踏まれて肺は潰され、心臓も折れた骨が刺さっていたらしいです。
惨いの一言だ。
そういえば転生神様、閻魔大王様を彼女って?
「閻魔大王様って女の方なんですか?」
「今代はそうだね。中々いないけど」
閻魔大王にも勿論家系があるわけで、生まれるのは必ず一人。そして、生まれた時点で次代閻魔大王となるらしい。
それが女性でも。しかも、女性閻魔大王は今代合わせて十代だけみたいなんだけど、男閻魔大王よりも仕事がうまく運んでるみたい。
女性の方が社長に向いてるらしいって番組で学者の人が言ってたけど、本当なのかもしれない。
ありがとうございます、閻魔大王様。
完結させていない作品がありますけど、思い付いたので書いてみした。
読んでいただきありがとうございます。
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次回は6月13日11時です。