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1話その2

金髪の女騎士は怒っていた。

それは蝙蝠の化け物に対してもあるが、特に今の自分の有り様に酷く怒りを覚えている。

勇王ユータ様の名により、勇王の顔に泥を塗ったとされる不届き者達を粛清していった。

今回はフルサワフミヨという女を殺すよう命じられたが、突如現れた蝙蝠の化け物に一方的にやられているのだ。

建物から投げ飛ばされ、人気のない河の近くに誘導されると腹や顔にばかり強力な攻撃をしてくるだけで無く執拗に体を掴んでくるのだ。

こちらの攻撃はほとんど紙一重で避けられ、私のHPも風前の灯火だ。

魔王デスボロスにも屈しなかった私だがこの化け物から恐怖を感じてきた。

助けてくれユータ


蝙蝠の化け物こと正体を明かすと榴咲士(りゅうざきあきら)はダメージこそ無いものの結構焦っていた。

最初に女騎士を髪の毛を掴んで投げたが、毛が一本たりとも抜けていなかった。

それだけでなく鎧を着けた腹部はともかく顔面に攻撃を入れても傷一つ付いていない。

そして自分の能力が一切効いていないため、今は一方的であるが能力が効かず無尽蔵に動く体とあってはさすがに体力が持たないため、相手のタネがわからなければ最悪殺される展開ではある。

まぁそんなことは日常茶飯事なんだが、能力効かないのはどうしよう…5年くらいやってるけどそんなの初の体験だぞ!

化け物の顔は変わらないが(あきら)は内心無茶苦茶動揺している。

「私は姫王ソフィア・セイントだ!恐怖など無い!」

「姫王!?…なんか聞いたことあんな…?」

女騎士が自分に喝を入れる際に叫んだ名前に士は反応したが深々と考える暇も無く女騎士は士に襲いかかった。

「うぉぉぉぉ!!!ジャッチメント・パ…」

「技名が長い!」

剣を白く輝かせながら走ってくる女騎士の口目掛けて士はそこら辺にあった小石を投げつけた。

「ニむぐっ!」

「あ…ラッキー!」

小石は女騎士の口の中に入り必殺技の詠唱らしきものも出来なくなった。

たまたまだったものの当然その隙を士は見逃すことなく、すかさず接近した勢いに乗って飛び蹴りを放った。

女騎士が小石を吐き出したときには士の生々しい足が目の前まで迫っていた。

女騎士は死期を悟り目を閉じた。その瞬間

「ブラット・インフェルノ!」

厨二臭い名前の技が聞こえたと同時に蹴りを放っていた士が大爆発しながら吹き飛ばされた。

女騎士が声の聞こえた方を見ると、人影があり少しずつ女騎士に近づいていった。

暗い夜なのもあり最初は鮮明に見えなかったが、周りの草木が先程の魔法で燃えて灯り代わりとなり近づくにつれ姿が見えてきた。

たくましい体型にTと胸に書かれた銀の鎧、そして雄々しい顔つきはまさしく勇者と呼ぶにふさわしい風貌である。

「ユータ…」

「大丈夫かい?ソフィア」

この勇者オブザ勇者と呼ぶにふさわしい男、ユータこそ今回の連続殺人事件の首謀者であり、士達が今回狙う異世界転生者である。

「あちち…ようやく本命かな…」

士は体の炎を払いつつ相変わらず表情は変わらないが真剣な眼差しになった。

「そこの蝙蝠の怪物よ!よくも我が伴侶の姫王ソフィアを死の淵にへと追い込んだな!」

「やっべぇ!河川敷が燃えてる!消火しないと!」

「この勇王ユータが貴様を始末してくれる!」

「砂かけたらワンチャン消えるかな…いや無理か…消防車呼ぼうにも元に戻らないと携帯使えねーし…」

ユータが河川敷に響く程の声で名乗りを上げていたが、士は燃える河川敷の対処に奮闘して全く聞いていなかった。

「行くぞ!」

ユータが声を上げると見向きもしない士の方へと走ってきた。

「まぁそれに…」

「ライトニング・スラッシュ!」

「こいつを駆除しないと消防士さんが危ないしな!」

ユータが振るった剣を士は姿勢を低くして避けた。

「やっぱ、男相手ならこれだな」

士は小声で言うとユータの股間に向けて膝蹴りを入れた。

言うなれば金的、男の尊厳を打ち砕く一撃は戦局を有利に進める防御無視の一撃。現に士は何度も男の転生者に対して金的を放ち葬ってきた。

しかし、士は今人生で初めての体験した。

確かに今回の相手はいくら攻撃しても外傷は無く自身の能力も効果が無かった。それら二つにはそれなりに対処法や誤魔化しはあるのだが、こればかりは驚きを隠せなかった。

何故なら金的がめり込まず、逆に膝がハンマーにでも殴られたような痛みがあるからだ。

「痛ぁぁぁ!!!」

あまりの痛さに士は尻餅をついた。

「化け物の攻撃が俺に通用するか!死ね!ライトニング…」

ユータは尻餅をついた士に剣を振りかざした。

「ペッ!」

士は唾を吐きユータの視界を潰すと、転がって剣を避けた。

士はすぐさま起き上がると目を擦るユータの背後から蹴りを入れた。が、また士の足に痛みが走った。

「痛ぁぁぁっ!どうなってんだよ!」

頭蓋骨が硬い人はそれなりにいるかもしれないが、それなりに身体能力が上がっている今の状態で逆にダメージを負う程の硬さとなればもはや洒落にならないレベルである。

士は足を抑えながらもユータの攻撃を避けたが、さすがに全て捌きるのは不可能なため、蹴りを一発受けてしまった。

しかもその威力はとてつもなく、20mくらい吹っ飛ばされた。

外傷無し、能力無効、さらには超頑丈で怪力となればその秘密がわからない限り勝ち目は無い、

となればやることはただ一つ、そのためにも河の近くに行かなくては。

すると士の背中が変形し機械的な蝙蝠の羽になると、両翼が紫に発光し空へと飛び立った。

「逃すか!神速斬!」

ユータが上空にいる士に剣を振るうと斬撃がとてつもない速さで飛んで行き肩翼を切断した。

落下した士はそのまま河へと墜落した。

「ふっ…真の勇王であるこの俺に倒せない敵はいない」

ユータは自慢げに言った。

「だが今回はソフィアが死にかけて貴重なメガポーションを使ってしまったか…まぁ俺に敵う奴はいないんだし、2、3日後に一人で糞共を掃除してやるか!」

ユータが笑みを浮かべながら言うと、ソフィアと共に河川敷を立ち去って行った。



「おぅぇぇぇ!臭っ!毎度のことながら河川敷の河は汚いなぁ!」

士はユータと戦った反対側の場所から上陸していた。

とぼとぼと歩いて行き安全柵を越えると士の姿は中肉中背で右目の隠れた元の姿に戻っていた。

「追っては来てないな…。水落ち=(イコール)生存フラグってあんま有名じゃ無いのか?」と人目を気にしながら士は疑問に思っていた。

しかし、今一番に考えるべきなのは転生者対策であり、その鍵を握るのは何処かで聞いたことのある[姫王ソフィア]という名前だけである。

転生者の目的の明確化と初見で倒せなかったチート能力の攻略、いつものことながら面倒なことである。

士は地面から突然現れた白バイに乗ると、河川敷を後にした。



田中真侍(たなかしんじ)は自宅で一人たたずんでいた。

正確には女騎士に襲われ気絶した古沢さんをベットで寝かしているため一人では無いのだが。

いきなり襲いかかってきた女騎士、それに助けてくれた蝙蝠の化け物、明らかに非現実的なことがおき疑問に思っていた。

しかし、女騎士はともかく蝙蝠の化け物は中世市(なかよし)では頻繁に目撃されているとの情報がネットに流れていた。

不可解な連続殺人事件が発生した場合や街で異形の怪物が暴れてる際に颯爽と現れ解決してしまう。

[見た目はキモいけど街の守り神的存在]や[最初は怖いしキモいと思ったけど、手振ったら振ってくれたしいいやつと思う!] などキモいのとセットだがネットの評判では良く思われている。

だがこのような書き込みもあった。

[明らかに日本人じゃないけど人を殺していた。あれはリアルマジ怪物] [蝙蝠さんが出ると世間の悪いところが表に出るよね。そこら辺の記者より有能ww]

[半年くらい前にクビになった隠蔽教師の後釜が有能すぎてジャングル生えるww]などマイナスイメージや不愉快なものも書き込まれていた。

真侍が蝙蝠の化け物についてネットサーフィンをしていると。

ピンポーン

とインターホンの音が鳴った。

真侍はカメラを確認すると、右目の隠れた爽やかでチャラそうな男、榴咲士(りゅうざきあきら)が写っていた。

「榴咲くん!?」

「あー店長?さっき古沢さん家に行って誰もいなかったんだけど、なんか知らない?」

真侍は突然の来客に驚いたが、士はマイペースに話していた。

「古沢さんなら(うち)に入れたけど…」

「マジかよ、店長熟女好きだったとは…機会があったら店長の好きそうなの描いてきますわ」

「そういうのじゃないよ!」

真侍は勝手に捏造された性癖を強く否定した。


「間違いかもしれないんだけど、蝙蝠の化け物の正体って榴咲くんだよね」

「んあーそうっすよ。後々言う予定だったんでバレても別にいいっすけど」

真侍の自宅に入るなり聞かれた質問に士は平然と答えた。

「詳しいことは明日にでも切矢さんに聞いてほしいっすけど、彼女が起きるまでなら話してもいいっすよ」

「わかったよ。あと、〜っすは敬語のつもりと思うけど敬語じゃないよ」

「知ってまっすよ」

多少は目上の人として見られてる自覚はあるものの真侍は士のペースが全然理解できなかった。

「とりあえずはっきり言っちゃいますと、動画広告編集課はただの隠れ蓑っす。あ、でも店長は表向きの仕事に専念してほしいですし、暇な時は手伝いますよ俺らアルバイトなんで」

士が自分のことを店長と呼ぶのはアルバイトという立場にあるからだと真侍は理解した。

あと動画広告編集課は自分一人なんだなという事実は少し心に傷がついた。

「本当の名前は異世界犯罪対策課。異世界から持ってこられた生命や技術を世の中に広めないために駆除ったり隠蔽したりする感じの仕事っす」

「なんか異世界から地球を守るヒーローみたいだね」

「ヒーローなわけないだろ馬…」

真侍がヒーローと比喩したときマイペースで軽口な士の表情がいきなり殺気立った。

一瞬の出来事だが真侍の全身に悪寒が走った。

「う…ん…ここは…」

冷たい殺気の影響なのか古沢さんがゆっくりと目を覚ました。

「はい話し終わり!古沢さんお怪我はありませんか?」

士は先程の殺気が嘘であるかのような笑顔になると、寝起きの古沢さんに元気に話しかけた。

「え…はい、痛みは特に感じないですけど…」

いきなりのことで困惑していたが、古沢さんは静かに答えた。

「そいつはよかったっす。そんで唐突で悪いんすけど聞きたいことがあるんすけど良いっすか?」

「えぇ、大丈夫ですが…この状況について説明して欲しいのですけど…」

「首謀者の腰巾着に殺されそうになって気絶したから、店長が家に連れ込んだ」

軽々しく話す士のペースに古沢さんは押され気味であった。

それから悪意のある言い方はやめてほしいと真侍の心は叫んでいた。

「……わかりました。助けていただいてありがとうございます」

発言前の間が真侍に士に対する怒りと後悔の念がこみ上げてきた。

「それで…聞きたいこととは?」

「ここ最近この近くにある街亜高校(がいあこうこう)で勤務経験がある先生が2〜3人くらい殺されるっていう事件があるのは知ってますよね?」

「!……はい」

士の質問に古沢さんは動揺しながらも頷いた。

「でも、私は犯人じゃ無いですよ!」

「うんまぁ犯人なんて微塵も思ってないっすよ。聞きたいことの一つが殺された人らと古沢さんに街亜高校で働いていたって以外に共通点があるのかが知りたいっす」

古沢さんは必死に訴えたが、士は表情一つ変えず話した。その微笑みは何処か不気味であった。

「殺された教員は全員、街亜高校では1年の教員でした。それも副教科ではなく英語や数学といった科目の教員です。それで私もいつか殺されるんじゃないかって…」

「なるへす」

体が震えながらも話す古沢さんとは対照的なほど士は緊張感の無い適当な返事をしていた。

「そんで、もう一個聞きたいことあるんですけど。自殺でも他殺でもいいんで街亜高校で死んだ生徒っています?」

「…は?」

士が軽々しく発したことに完全に蚊帳の外であったが真侍は驚きを隠せなかった。

この男はいきなり死人について聞いたのだ。デリカシーがないとかそういうレベルではないだろう。

「死人って…そんなこと聞いてどうするんですか!」

「結論から言うと貴方が思い当たる人が殺人犯っす」

「死んだ人間が殺人犯なんて…!そんな馬鹿げた話し信じられないですよ!」

「信じるか信じないかは勝手っすけど、早く解決しないと貴方も元同僚達も全員殺されますよ」

古沢さんは非現実的な内容に激昂していたが、士は真剣な眼差しで話していた。

「もういいです!助けていただいたのは感謝しますがこれ以上関わらないでください!」

ふざけた話しに怒りが爆発したのか、古沢さんは真侍の家から出て行った。だが話しをはぐらかし逃げ出したようにも見えた。

「はぁ〜怒られちゃった…」

「いきなり真剣に悩んでることの原因が死んだ人間なんて言われるとそりゃ怒るよ。でも…」

「ん?でも?」

「僕も母さんに勉強のこととかで色々言われた時みたいに、これ以上話したくないって感じだったような…」

「やっぱ店長もそう思う?」

「うんまぁ…あと課長ね…」

怒りという嵐が過ぎ去った後だと言うのに士と真侍は呑気に話した。おそらく士のマイペース差が移ったのだろう。

「まぁ半分くらいは内容わかったし明日から頑張りますか、それではまた…2日か3日後くらいだったけなぁ…?とりあえずお疲れっす」

士は真侍に軽く頭を下げると、真侍の家を出て行った。

時刻は午後9時前、課長としての初勤務から半日ほどが経過したがここまで内容の濃い1日は生まれて初めてだろう。

動画広告編集課もとい異世界犯罪対策課の隠れ蓑の課長、出世に釣られて入った部署が戦争のど真ん中だなんて誰が信じてくれるのだろうか。

会社で失敗しない不安から戦いの中生き残れるのかの不安に変わっていた。

文字通り命懸けの仕事になったことへのプレッシャーが真侍に襲いかかっていた。

真侍は力が抜けたように床に寝転がった。

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