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廃品回収 其の四 自殺志願編  作者: 掛世楽世楽
2/2

少女B

2/22 過去シリーズに合せてジャンルを変更し、再投稿しました。


2/21に読んでくださった方、ごめんなさい。


 少しまどろんだらしい。

 私は眼を開けて、暗い天井を見上げた。

 ふかふかのベッドで眠る夢を見たようだ。

 もう一度目を閉じて、体に残る感触を味わう。


 気持ち良かったな・・・。


 あ、ゆっくりしてはいられない。

 早く起きて、井戸へ水汲みに行かなくちゃ。


 私は勢いよく起き上がり、水瓶を持って外へ出た。

 水道がないから、煮炊きするのも、顔を洗うのも、水瓶の水を使う。


 路上には、私と同じような薄汚れた身なりの子供、女性が歩いている。皆、バケツやポリタンクを持って、共同井戸へ水汲みに行く。持って行く器にもよるけれど、一日に何度も、家と井戸を往復する。これは、かなりの重労働なの。水汲みは、女子供の仕事と昔から決まっているらしい。

 水は貴重だから、どの家にも風呂はない。その代わりに、川か海で水浴びをする。

 この辺りはトイレも共同で、これがびっくりするほど汚い。私はそれが一番キライ。

 お世辞にも生活環境が良いとは言えない、とお母さんは思っているみたい。口癖のように「せめて水道があれば」という。私には、よく分からないけれど。


 大人も子供も、毎日が生活することで精いっぱい。

 だから、学校へは行かなくてよいと言われている。

 本当は、お金がないから行けないだけ。文房具や教科書を買うにもお金がいるし。そういう子供は、私だけじゃない。近所の子供は、ほとんどがそう。

 勉強をするって、どんなかしら。本当は、ちょっとだけ学校へ行ってみたい。自分の名前くらい書けるようになりたい。でも、両親を困らせたくないから、想像するだけで終わらせるの。

 学校へ行く子を見ていたら、なんとなくモヤモヤするけれど、私に他の選択肢はない。たとえあっても、私は知らなかった。


 今日も朝から暑い。

 空はどんよりと曇って、空気が湿っている。いきおい、私の気分も湿りがち。

 こういう日は、ゴミ山の悪臭もキツイと感じる。


 井戸に並び、いざポンプを使おうとして、私は左腕がないことに気づいた。


「あ・・・」


 眼が覚めて、私は思わず左腕を押さえた。


「ある・・・よかった」


 夢の中では、左肘から先がなかった。

 それは現実じゃない。

 にも関わらず、私は脂汗をかいていた。


「ひどい。あんまりだよ」


 知らず知らずに、私は涙ぐんでいた。

 ついこの間まで、自分のベッドは天国だった。何もかも忘れて、身も心も休める唯一の場所だったのに。

 それが、安息の場ではなくなってしまった。

 どうしてこうなるの?



 退屈な日常を繰り返すだけの奇妙な夢は、毎晩のように続いた。

 陰鬱な夢を見たくない一心で、寝ずに頑張ろうと、机にかじりついたこともある。

 それも無駄だった。いつの間にか意識を失ってしまう。しかも、おかしな姿勢で寝落ちしてしまえば、起きた時に体まで痛い。仕方がないから、ベッドで横になるしかない。


 どれだけ足掻あがこうとも、夜は必ず来る。

 逃げたくても、逃げられない。


 だんだんと、私は夜が恐いと思うようになった。

 正確には、夢を見るのが恐かった。

 毎晩、少しずつ、自分が夢の中に取り込まれていく。そんなバカげたことを考えてしまうほど、夢は余りにもリアルだった。私は、得体の知れない恐怖に怯えていた。



 考えられる原因は、一つだけ。

 あのビー玉だ。


 バカバカしい。そんなことってある? 少し冷静になりなさいよ。

 理性的な自分が否定する。

 けれど、他に心当たりがない。

 いったい、どうしてこうなったの?



 私は制服のポケットに入れっぱなしだったビー玉を手に取り、めつすがめつ眺めた。

 どう見ても、ただのガラス玉なのに・・・不可思議な安息を感じる。

 そう、なぜか安らぐのよね。

 学校にいる時の不安が、これを持っているだけで消えてしまう。経験的にそれを知ってからは、ずっとビー玉を握ったまま授業を受けていた。


 私は小さなビー玉を、天井の照明にかざした。七色に輝くビー玉は、どことなく温か味がある。

 それはまるで・・・・・うん、もし眼に見えたら、魂ってこんな感じかな。


 やっぱり、手放せない。

 私は学校の苦痛と悪夢を天秤にかけて、悪夢を選んだ。

 不思議と後悔はなかった。




 数か月余りも夢を見続けた頃、私は恐怖でゲッソリと痩せ細りながらも、果敢に夢と闘っていた。

 根性とは無縁の私がそこまで頑張ったのは、それだけ学校生活を嫌い、恐れていたことの証拠でもある。


 鏡に映る自分を見ては、少なからずショックを受けて、何度もビー玉を捨てようと思った。実際、庭の隅に捨ててしまったこともある。

 しかし、結局は拾いに戻ってしまった。


 玉に魅入られたかのように、持つことをやめられない。そして、持っていると昼間は安息が訪れ、夜は悪夢を見る。

 ただし、夢自体に特別な恐怖は何もない。恵まれない生活が延々と続く、ただそれだけの夢なのだ。

 

 両親は痩せ細った私を心配して、病院へ行こうと言ってくれたけれど、医者に治せるものではないと、心のどこかで分かっていた。

 どうやらこの夢は、私とは別の少女が経験する日常であるらしい。きっと私は、夢を介して少女の現実と向かい合っているのだろう。

 この生活を送る人が、地球上のどこかにいる。奇妙な話ではあるけれど、私は、それを確信していた。年齢の近い少女に、少しずつ、親近感も湧いていた。できるなら、不遇な少女をどうにかして助けたかった。


 ちょっと待って。

 私が誰かを助けようなんて、思い上がりじゃない? 自分の面倒さえ見られないのに。

 でも・・・助けたいと思う気持ちに嘘はない。だから逃げるわけにはいなかい。そうよね? ささやかな、私の反攻ってとこかな。

 それに、夢から逃げるようでは、本当の現実に立ち向かうことなど、到底無理だもの。


 立ち向かう? 

 これまで、そんなふうに考えたこともなかったでしょ。あんたなんかに、立ち向かえるの?

 理性的な私が、揶揄する如く自嘲する。

 一度くらいは、頑張ってみようかなって、そう思うの。ダメ?


 学校から逃げ続けている私が、そうまでして夢に相対あいたいしたのは、なぜだろう。今になって考えても、確たる理由は見当たらない。無意識に、これが最後の砦と思っていたのかもしれない。



 今日こそは、負けない。負けるもんか。

 夢を見る度に、毎晩そう思った。

 でも、無理なの。

 心の中では、負けを覚悟していた。

 だって、どこにも救いがないんだよ。

 何を楽しみに生きるのか、何が希望なのか、私には理解できない。


 寝る前までは闘うのだと自分に言い聞かせるものの、夢の中では早く目が覚めて欲しいと、それだけを願っている。情けないけれど、それが自分なの。


 はあ・・・。



 この夢には一つの約束事がある。ビー玉を手にして何日か後に、私はそのことに気がついた。

 最初の晩から一貫して、過去へ(さかのぼ)っている。時間を逆行しているのだ。そのスピードが少しずつ、遅くなっている。ここ数週間は、一晩に一日しか進まない。

 夢の中の私は今、たぶん三歳になるかならないか、それくらいの年齢だと思う。


 問題は、今夜。


 おそらく、今日、私は左腕を失う。

 なぜなら、夕べの私は血に染まった包帯を巻いて、うなされていたから。

 燃えるような痛みは、起きた後でさえ残っているように感じられた。生々しい血の匂いが、脳裏によみがえる。

 今までとは比較にならないくらい、辛く、苦しい夢。想像を絶するほどに、過酷だった。自分が同じ立場なら、そのまま死んでいたのではないか。



 許せない。

 幼い子供に、なんてことをするの。

 私は逃げないと決めた。マリアと呼ばれる異国の少女と一緒に、彼女の悪夢に、私も挑む。



 その夜、私は斎戒(さいかい)沐浴(もくよく)のつもりで、ゆっくりと全身を洗い、身を清めた。

 洗いたての下着とパジャマを身に着け、ベッドに入って祈りを捧げた。


 私は意を決して横たわり、息を整えて目を閉じる。


「恐くない、負けない・・・負けるもんか」


 いざ、尋常に勝負。




 私はいつもの小屋で目が覚めた。

 暗い天井も、悪臭も、すでに馴染みつつある。


 幼い私は、父に呼ばれて部屋の隅に座った。

 そこで待て、という。

 私はガタガタと震えながらも、敵を待った。


 犯人は誰なのか。この眼で見極めてやる。


「マリア、おいで」


 ガラスのない窓から差し込む光の帯が、暗闇にうずくまる人物を浮かび上がらせた。音もなく立ちあがった男性の手には、鈍く光る刃物が握られている。


 嘘でしょう?

 

 彼女の父親が、大ぶりのなたを持って近づいて来る。

 茫然とする私は、為す術もなく左腕を強く縛られ、床に押さえつけられた。


 恐い。

 無理、無理無理無理無理。

 必死で抵抗した。

 でも、逃げられない。

 強く殴られたような衝撃の後、熱を伴う強烈な痛みが、左腕から脳天へ突き抜けた。


「ギャアアアアアアア」



 私は覚悟も虚しく叫んでいた。


 ここにいるはずの幼女は、きっと何も知らずに待っていたのだ。

 父親のことを信じて、ただ待っていた。

 大人しく、言いつけを守って。

 そして、彼女は・・・。

 その光景を思い描くと、私の心はズタズタになりそうだった。


「誰か、助けて!」



 気がつくと、私は自分のベッドで横になっていた。

 枕元に、両親がいる。

 悲鳴が聞こえたので、慌てて駆けつけたのだという。

 カーテンの隙間から、朝の光が覗いている。



「大丈夫?」



 母は少しばかり涙を浮かべていた。

 その隣で、父が苦笑いをしている。



「ずいぶん、うなされていたよ」



 何も言わずに、母は背中を撫でてくれた。

 父は私の肩に手を乗せ、黙って見守ってくれた。

 いつまでも震えながら、私は二人の温かさを噛みしめ、嗚咽を漏らした。


「ごめんなさい」


 謝ることはない、と二人は口々に言って、部屋を出て行った。


 私は肘の上を撫でて、ほっと溜息をついた。まだ左腕がしびれている。

 本当に、恐かった。

 肉厚の刃物が迫る、あの恐怖。忘れたくても忘れられない。


 しばらくして、頭の片隅に残る少女の記憶が、ぼんやりと思い出された。

 父親は娘に物乞いをさせようと考えたらしい。少しでも効率よく物乞いができるように、より同情してもらえるようにと、幼い娘の腕を切り落としたのだ。


 酷い。酷過ぎる。

 これは親なんかじゃない。人間でもない。ケダモノ以下だわ。


 その直後、怒りの炎は驚きにかき消された。

 信じられないことに、それでも彼女は父親を慕っていた。

 これも生きるため。だから仕方がない。

 後になって、彼女はそう思ったのだ。


 食えないから、育てられないから、予定外の子は生まれてすぐに殺す。そうした慣習が、昔の日本にあったと聞いたことがある。

 そういう選択をする大人が、現代にもいる。他の国にもいる。

 哀しいけれど、それが現実。



 でも、どうして?

 彼女が何をしたの?

 何も悪くないよ。理不尽だよ。


 私は涙が止まらなかった。


 夢を見たのは、その晩が最後。

 ヨーコちゃんと半纏のオジサンに会って、一年が経とうとしていた。 




 日一日と寒くなり、景色が色褪せてゆく、暗鬱な季節。

 私の嫌いな秋が、またやって来た。


 朝になっても、まだ外は暗い。

 でも、寝坊をするわけにはいかない。

 私は日の出前から起きだして、身支度を整えた。

 大切な日だもの。夜明け前までには、公園に着かなくちゃ。


 一年前の今日、私はヨーコちゃんに会った。

 今も覚えている。

 少し翳りのある大きな眼。手入れの行き届いた髪。小さくて紅い唇。とても可愛らしい笑顔。

 ヨーコちゃんの保護者であろう、半纏、股引、草履履きの男性。暗い表情とは裏腹に、とても穏やかな語り口だった。

 はっきりと思い出せる。


 その男性から渡されたビー玉が、手の中にある。

 私はそれを握りしめた。

 二人から預かった、このビー玉。きっと大切なものなんだわ。何もかも、これが始まりだったのよね。


 暁の曙光が、裸になった木々の梢を染め上げ、くっきりとした影が路上に模様を描いた。

 外へ出た少女の頬に、うっすらと朱が差した。


「会えるといいな。会いたいな。会えるまで待とう」





 死神は空を仰ぎ、傍らのヨーコに微笑みかけた。


「今日も良い天気だな」


「そうね」


 笑って答えるヨーコの歩みが、ふいに止まった。



「どうしたね?」


「お姉さん」



 ヨーコの視線を追えば、公園のベンチに制服姿の少女が座っている。

 昨年の今日、ここで会った子のようだ。


 見覚えのある少女を見つけ、駆け寄ろうとするヨーコの手を、死神はつかまえた。



「お待ち」


 死神はヨーコに言いきかせた。



「今日はやめておきなさい」


「どうして?」


「もう、あの子に私たちは見えない」


「そうなの?」


「ああ、もう見えないだろう」



 少女へ向けられたヨーコの瞳が揺れる。



「その方がいいのだよ。わかるだろう?」



 ヨーコは小さく頷いた。

 こうした経験は、今日が初めてではない。

 哀しいことだが、ヨーコにもその辺の事情は薄々分かりかけている。



「玉を持っているようだ。もらっておいで」


「うん。行ってくる」


「よし、よし」




 私は白い息を吐き、手をすり合わせた。

 寒い。


 ふと、去年の出会いを思い出す。

 ヨーコちゃんと出会ったあの日。

 あの日から、私の冒険は始まったわ。どれほど恐くても、たとえ夢の中でも、生まれて初めて逃げない選択をした。

 弱虫の私には、精一杯の冒険。


 蒼穹を見上げて、私は何気なく呟いた。



「私ね、学校が嫌いで・・・死にたかったの」



 去年までは、本気でそう思っていた。これ以上の苦しみはない、もう人生なんて終わらせたいって。

 今は違う。

 私がすべきは自殺じゃない。

 もっと他に、やるべきことがある。今はまだ見つからなくても、きっとそのうちに見つかるはず。その機会が、私にはいくらでもある。


 生きているのだから。


 貴方のおかげで、私みたいなおバカさんでも分かったの。



「ありがとう、マリア」



 感謝の言葉が、自然に口をついて出た。

 助けてあげられなくて、ごめんなさい、と胸の内で告げた。



「マリアは学校に行きたくても、行けなかったのよね」



 正直に言うと、学校は今も好きじゃない。

 彼女がここにいたなら、そんな私を見て何と言うだろう。


 私は胸の奥から湧き上がる罪悪感を抑えられなかった。

 私の家には、酷い悪臭もなければ、過酷な肉体労働もない。飢えることもないし、誰も私を殺そうとはしない。学校へ行けとは言われても、行くなと言われたことはない。

 それが当たり前だと思っていた。しかし、そうではない世界があると知ってしまった。




「もう、一年か・・・」



 去年のヨーコちゃん、季節外れだけど、半袖の白いブラウスを着ていたっけ。シックな茶系のスカートとローファーが、よく似合っていた。今年はどうかしら。

 ヨーコの可愛らしい笑顔が、懐かしく、とても愛おしく思い出された。



「さよなら」


 女の子の声が聞こえた。



「ヨーコちゃん」



 確かに聞こえた。


 私は咄嗟に立ち上がり、声の主を探した。

 しかし、周りには誰もいない。

 朝日が公園の広場を隅々まで照らし出す。動くものは何もなかった。

 そこかしこで秋風が舞い、枯れ葉がカサコソと音を立てた。



「あら・・・私、どうしてここにいるの?」


 早朝の公園で、自分は何をしているのか。

 辺りを見回しても、空のベンチがポツンと佇むだけである。



「おかしいわね」



 なぜかしら。

 誰かを待っていたような気がする。

 でも、思い出せなかった。


 何かを持って来たような気もする。

 だけど、思い出せなかった。

 ポケットを探っても、空だった。



 少女は首をかしげ、思い出したように踵を返した。

 帰って学校へ行かなくちゃ。


 後ろ髪を引かれるように、何度も振り返りつつ、少女は家路を急いだ。




 遠ざかる少女を、死神とヨーコが見送っていた。

 振り返る少女に向かって、ヨーコが手を振る。

 少女が手を振ることはなかった。死の影を脱ぎ捨てた彼女の眼に、もう二人の姿は映らないのだった。

 二度と会うことはあるまい。おそらくは永遠の別れである。




 死神は、小さく息をついた。


 おまじないが効いたようで、よろしゅうございました。

 貴方様と同い年で亡くなられた、異国の少女。その生涯は、いかがでしたかな。

 ええ、言わずとも分かりますでございます。

 驚かれましたでしょうなあ。

 そうでございましょう。そうでございましょうとも。


 ところ変われば、生活も価値観も変わります故、少々理解に苦しまれたことと思います。もちろん、貴方様から見れば幸せには程遠い人生でございましょう。

 しかしながら、広い世界を見渡せば、この少女だけが特別に不幸というわけでもございません。

 哀しいかな、下には下があるのでございます。


 死神はヨーコの頭をそっと撫でた。


 生きていれば、理不尽なことに出くわす時もあるでしょう。残念ながら、貴方様が悪くなくとも、そうしたことは起こるのでございます。正面から受け止める必要もなければ、闘う必要もございません。もちろん、逃げてよいのです。

 ですが、自らを殺すことだけは、おやめなさいまし。理不尽の度に死んでいては、命がいくつあっても足りません。それもまた、殺人なのでございます。寿命を全うすること、これこそ無数の命を犠牲にして生きる人間の義務でございます。


 少々差し出がましいことを致しましたが、ご容赦くださいませ。これも何かの縁でございます。

 貴方様の魂が成熟した頃、またお会いすることがあるやもしれませんな。五十年後、あるいは百年後になりましょうか。その時まで、健やかにお過ごしくださいませ。

 では、ごきげんよう。



 死神はベンチに座り、ヨーコへ問うた。


「さて、今日は店仕舞いだ。なにを食べようか」


 ヨーコの双眸に明るさが戻った。


「ええと、ええとね・・・」


 指を折りながら食べたい物を挙げてゆくヨーコが、とても愛らしい。

 さながら天使のようである。 

 今だけは、ここが天国だと、死神は思った。


 小春日和の柔らかな光が、二人の上に降り注いでいる。




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