黒い闇
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くろ。黒。黒。黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒。
見渡す限りの黒がそこには広がっていた。カラスの羽よりも、満点の星空のその背景よりも、何もよりも深い黒がそこにはあった。黒よりも黒。 一言で表すならそんな光景だった。そしてその黒の中に1人の女性が転がっていた。もちろん、その女性も黒かった。目が、鼻が、口が、耳が、手が、太ももが、首が、全てが黒くなったその女性。もちろん死んでいた。そして元々は白かったはずの壁、地面すらもその黒に飲まれていた。そのたくさんの黒には本来あるであろう人の温もりや、温かみが全くなかった。あるのは、残酷な死と、何もかもを飲み込むようなただただ黒い現実だけだった。
「あたしにしてはいい感じじゃん」
というのがそれを見た彼女の最初の感想だった。
「もうちょいダメになるかと思ったけど、案外飛び降り程度じゃぐちゃぐちゃにならなかったね。まぁ、どっちみちこの黒であたしの死体ごと覆う予定だったし、いっか」
上手くいってよかった――それが彼女の素直な感想だった。この計画を立てた時点では自分の死体を黒く塗り潰そうなんて思ってもいなかった。思いつきでの行動だったのだ。その思いつきにしてはまぁいい方だろう、と。そういうふうに思ったのだ。そのまま自分とは思えないその黒いものを見ていたいと、そう思った。しかし、遠くで誰かの声が聞こえた。それが少しずつ自分に近づいている気がする、そんな風に感じた。バレたら危ないと思い、彼女は急いで闇の中へ走っていった。