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だから君は、罰を受ける

 その日の放課後、タケルは昨日と全く同じように、軽い足取りで体育館の裏に向かった。


 そこで待っていたヒロユキとその取り巻き達は、いつもだったらリラックスした雰囲気で談笑したりしているのであるが、そんないつもの様子とは、今日は少し雰囲気が違っていた。


 歩いて来るタケルをじっと睨んでいるヒロユキと、じっと静かにその様子を見守っている取り巻き達。


 待ち受けているヒロユキ達を見たタケルには、その場にいるいじめっ子たちの感情が、いつもと違う事がよく分かった。


(ふむ……)


 タケルは、そんな彼らを見渡しながら思っていた。


(ヒロユキからは強い敵意……。そして、他の取り巻き達からは、敵意よりもむしろ、不安や警戒心を強く感じるね……)


 タケルの顔からは、自然と笑みがこぼれる。


(さて……ちょっと僕が強い事を見せたくらいでは誰も改心しないという事はよく分かった……ということで、今日はもう少し力を見せようかな……)


 そしてタケルは、ヒロユキの前まで歩いて行った。


「お待たせ。ヒロユキ君。で、今日は……何をするんだっけ?」


「このクソが……家畜のくせに舐めやがって……」


 ヒロユキはそう呟くと、タケルに向かって叫んだ。


「タイマンだコラ! ちょっとボクシングか何か習ったくらいで調子に乗りやがって! 今日はてめえに格の違いを教えてやる!」


 そのヒロユキの言葉に、タケルは少し笑ってしまった。


「ははっ……ボクシングって……僕がそんなの習ったと本気で思ってるの? ……まあ良いや。じゃあ、格の違いを教えてもらおうかな」


「よっしゃ始めだ! お前ら、今度は逃げないように良く見張っとけよ!」


 ヒロユキは、周りの取り巻き達にそう指示すると、タケルに向き直って拳を構えた。その表情には、何故か余裕が感じられる。


 その余裕を知ってか知らずか、周りの取り巻きからの声援も、ヒロユキが勝つような雰囲気を作り出していく。


「ヒロユキ! 勝てよ! ボクシング対策の戦法を見せてやれ!」


「あんなやつ、やっつけて! て言うか殺して!」


 取り巻きからの思い思いの声援が飛ぶ中、その場にいた何人かの男女は別の思いを抱いていた。


(まあ、タケルが勝つにしても、負けるにしても、タケルがそれなりに強くなったのはおそらく事実……。となると……この教室の序列は乱れるかも知れないな……。ふふっ、乱世到来、ってか……? この俺の知略が生きる時がやって来るかも……!)


 このような思いで、これから戦いを始めるであろう二人を見守っている愚か者は、今日の朝、タケルに話しかけてきた男子、ケンジ。


(……あいつ、絶対超能力か何か、使えるようになってるよ……。 ヒロユキでも勝てないよ……! どうしよう、やばいよ、絶対やばい……!)


 こう思っているのは、タケルのノートをトイレに捨てた、ナツミ。


(これから……一体何をするつもりなんだよ、タケル……。僕を止めたらいけない、って……?)


 そう心に思うのは、元々いじめをしたくてしていた訳ではなく、謝った絵里。彼女ら3人もまた、それぞれの思いを胸に、戦いの様子を見守っていた。


 そんな中、ヒロユキとタケル、二人の戦いは始まった。


 最初に動いたのは、ヒロユキであった。


「へへっ……ボクシング対策は、昨日ネットで調べて完璧よ……。オラァ、これでどうだァ!」


 そう言うとヒロユキは、いきなりしゃがんで、そのまま背中を地に付けると、足の方をタケルに向けた、仰向けに倒れたような姿勢になり、顔をタケルの方を向けて叫んだ。


「これならどうだァ! これはなぁ、猪木がモハメド・アリ戦で使った作戦よ! この体勢なら、お前のボクシングも通じねえ!」


「……えっ……?」


 タケルは、ヒロユキのこの斜め上の予想外な戦術を目の当たりにして、一瞬頭の中が真っ白になってしまった。


 タケルに隙を作る……そういう意味であれば、まさに大成功となるこの"奇襲"ではあったが、もちろんタケルはその後直ぐに我に返った。


 一瞬混乱したタケルであったが、また直ぐにタケルの表情には、あの静かな微笑みが戻る。


「ははっ……。ヒロユキ君……。君は面白いよね……そして、愚かだ。どうしょうもないくらいに……愚かだよ。しかも、それを改めようとしない……。だから……」


 そう言いながら、タケルは一歩ヒロユキに近付いた。


「だから君は、罰を受けるんだよ」


 そう言うや否や、タケルは素早くヒロユキに接近し、強烈な蹴りをヒロユキの足に見舞った。


「あいだっ!」


 ヒロユキの右太腿に、鋭い痛みが走る。タケルのスピードに、ヒロユキは全く反応出来てない。


「いつまでそうしてるの? それともそうやってるのが好きなの?」


 笑いながら、ヒロユキの足に次々と蹴りを入れていくタケル。対するヒロユキは、反撃を試みようにも、仰向けの体勢のせいであまりタケルの足元まで目が届かない事もあり、全く反応が出来ていない。ヒロユキの膝に、太腿に、内股に、タケルの蹴りが入った。


「ぐっ……! い、痛え! 畜生っ!」


 痛みに耐えかねて、ヒロユキはとうとう立ち上がった。ヒロユキが太腿を触ってみると、軽く熱を持ったように腫れている。


 スラックスの上からでも分かるほどに、ヒロユキの足はタケルの蹴りを受け、腫れてしまっていた。


 足を引き摺りながら、弱々しく立ち上がるヒロユキ。


 そんなヒロユキに、タケルは素早く踏み込むと、ローキックを膝に向けて放った。ビキッと鈍い音がして、ヒロユキの膝関節が少しおかしな方に曲がる。たまらず、しゃがみ込むヒロユキ。


「ううっ!? 痛えっ、痛えよっ畜生!!」


「……どうやら、手を使わなくても勝てそうだね」


 そんなヒロユキに、タケルは速い蹴りを放っていく。


 腕に、頭に、背中に。タケルの回し蹴りがヒットする。ヒロユキは懸命に手でガードしているものの、完全には防御しきれず、ダメージが確実に積み重なっていく。


 ヒロユキはしゃがみこんだまま、完全に防戦一方となり、タケルから蹴り続けられるだけになってしまった。膝を痛め、もはや立つことも困難な様子だ。


「ぐっ……ハァ、ハァッ、クソがっ……」


 それでも、ヒロユキはまだ降参していなかった。飛び掛かる一瞬のチャンス、それを彼は狙っていたのである。

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