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服がだいぶ汚れちゃったよ?

 何かおかしい。何時もと様子が違う。


 タケルはこんなにすばしこい男では無い。もっと鈍くさい、どっちかと言うと運動神経は鈍い方だったはずだ。


 ヒロユキとタケルの様子を見ていた、ヒロユキの取り巻きの男女は、奇妙な違和感を感じ始めていた。


「こんにゃろ!」


 ヒロユキがまた懲りずにタケルに殴りかかるが、タケルはまたも、ヒラリとヒロユキのパンチをかわしてしまう。


 タケルは、ヒロユキの攻撃をかわしてばかりで、攻撃はしてこない。そんなタケルをヒロユキは一瞬睨みつけたが、その後ニヤリと笑うと、タケルに話しかけた。


「何だ? てめぇ……。格闘技か何か習ってやがったか? えらい身のこなしじゃねえか、ええ?」


「……さあ、どうだろうね」


 タケルは、そんなヒロユキに笑って答える。


 ヒロユキは拳を下ろすと、タケルを睨みつけながら、ゆっくりと歩いてタケルに近付き、話を続けた。


「その動き、さしずめボクシングでも夏休みの間に習ったってか? あ? それで調子乗ってんのか? おいコラ」


「ボ、ボクシング……? だからあんなに避けられるの……?」


「夏休みの間に、必死で防御だけを学んだ……って話か?」


「へっ……なんだ、そうだったのか。何かいつもと違うから、調子が狂っちまったぜ」


 周りの取り巻きたちも、一時は動揺していたが、その動揺も、ヒロユキのこの言葉で収まっていく。


(夏休みの間で何か習った……? だとして、あんなにすごい身のこなし、一ヶ月かそこらで身につく物なの……? それに、だとしたら何で神社に置いて行かれたとき、抵抗しなかったの? あれってつい先週の話だよね?)


 絵里は、ヒロユキの言葉に疑問を感じていたが、そんな絵里をよそに、時間は進んでいく。


 ヒロユキは、タケルの前まで来ると身を少しかがめ、タケルの顔の下側から、見上げるように睨みつけていた。


「おい、お前ら! 囲め!」


 ヒロユキのその言葉で、取り巻きのうちの周りで見ていた男達が、タケルを取り囲もうと近付いてきた。


 すぐにタケルの左右と背後を、男達が6〜7人で取り囲み、逃げ場を塞ぐ。


 それでも表情を変えないタケルに、ヒロユキが吠える。


「これで逃げられねぇぞ? ちょっと防御出来るからって、偉そうにしてんじゃねえぞ! オラァ!」


 そう言うが早いか、ヒロユキはまたもやタケルに至近距離から殴りかかった。しかし――


 次の瞬間、タケルはヒロユキの横を素早く通り抜けるようにして攻撃を避けると、すり抜けざまヒロユキの足を払い、ヒロユキを転ばせた。


「うあっ?!」


 タケルの動きに反応できず、足払いを受けてヒロユキはその場に転倒してしまった。受け身も取れず、まともに肩から落ちてしまう。ヒロユキの肩に、鈍い痛みが走った。


「ぐっ……てめぇ……!」


 しかしながら、その時のヒロユキには、痛みよりも怒りの感情をぶつける事の方が先であったのであろう。制服に付いた土を払いもせず、彼はすぐさま立ち上がると、獣のようにタケルに飛びかかった。


 しかし、その攻撃もタケルには全く届かない。


 タケルはヒロユキの腕をするりと避けると、再び彼の無防備な足を、石ころでも蹴るかのように払い飛ばした。


 さっき見た光景が、まるで録画した映像を見ているかのように再現される。


「グハッ……!」


 またもや制服に土を付けてしまったヒロユキは、今度は勢いよく転倒してしまって、脇腹をしたたかに打っており、すぐには立ち上がる事が出来なかった。


「ぐっ……こ、この野郎……」


 それでも何とか体を起こそうとするヒロユキに、タケルは笑いかけた。


「どうやら、僕の方が君よりちょっとだけ強くなっちゃったのかな? ねえ大丈夫? 服がだいぶ汚れちゃったよ? 今度からはヒロユキ君さ、服を脱いでから遊んだ方が良いんじゃない?」


 そう言うと、タケルはヒロユキにゆっくりと背を向けた。


 予想外の出来事に困惑してしまっている、その場にいた取り巻きのクラスメート達にチラリと目をやると、タケルは……


「じゃ、またね。みんな学校を絶対に休んだら駄目だよ? 休んだら殺しちゃうかも知れないからね? これからが楽しい所なんだから」


 そう言いながら、悠然と立ち去って行ったのである。


「ま……待て! おい、お前ら、そいつを捕まえろ!」


 タケルの立ち去った後には、ようやく立ち上がって喚き散らすヒロユキの言葉だけが、辺りに虚しく響いていた。

 こんなのはまだ全然序の口。本格的に仕返しするのはこれから。


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