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早く謝りに来たほうが良いよ

 やっとの事で離されたケンジの手の甲の部分は、普通なら曲がっていない所が、潰れるように曲がってしまっていた。


「ううっ……痛え……! 痛えよおっ!」


 教室の中にも、ケンジの様子を見ていた他の生徒達から、「ひいっ……」とか、「もう……いやだぁ……」等の小さな悲鳴が、あちらこちらから漏れている。


「折れた? 手、折れちゃったかな? まあどうでも良いや。ケンジ君、明日もちゃんと学校には来ないと駄目だからね? 来なかったらひどい目にあうから、気を付けてね」


 タケルは、その場にしゃがみ込んで手を押さえているケンジの肩に手を置くと、優しくそう伝えた。


「ううっ……痛え……! きゅ、救急車を……早く呼んで……っ」


 ケンジが痛がってそう訴えるので、携帯電話で救急車を呼ぼうとしたクラスメート達であったが、タケルはそのクラスメート達を見ると、彼等にこう言った。


「ああ、駄目駄目。救急車なんか呼ばないで。ケンジ君が早退するのは、僕が許さないよ」


 その言葉に、後ろ席にいたヒロユキを始め、クラスの皆が激しく反応した。


「何言ってんだ! 手を折ってるんだぞ!」


「お前の言う事なんか聞いてられるか!」


 そう言ってタケルの言葉に構わず、携帯電話から救急車を呼ぼうとしたクラスメート達であったが……


「え……? 何で……? 電話できない……」


「俺もだ! 俺のスマホ、全然反応しねえ!」


「私のも、メールもラインも、何も出来ないよ!」


 彼等、彼女等の携帯電話は、まるで固まってしまったように、全く彼等に反応しなくなっていた。


「全く……駄目だって言っているのに……全然言う事を聞かないんだね、みんな」


 大きくもないのに、何故か皆に聞こえる声で、タケルはクラスの皆に話した。


「誰か、他の人のケータイ借りて電話してこい!」


「お、俺、学校の事務室行ってくる! 確かあそこ、電話あったはず!」


「あたし、保健室に行ってくる!」


 そんなタケルに構わず、クラスメート達は、今度は自ら動いて何とかしようとした。が……タケルは、それを許さなかった。


「やれやれ……人の言う事を聞いてくれないって、結構つらいね……」


 そう言いながらタケルは、指で机を軽く、トンと叩いた。


 するとその瞬間、今まで動こうとしていたクラスメート達や、大声で騒いでいたヒロユキ達が、急に皆静かになってしまった。


 騒がず様子を見ていた絵里や、タケルの力を既に知っているために大人しくしていた、ナツミ等の一部の生徒以外は、喋ることも動く事も出来なくなっていたのである。


 動く事の出来るクラスメートのうちの一人で、かつてタケルに謝ったおかげで赦しを得ていた義雄が、少し驚きながらも、タケルに近付き、尋ねた。


「こ、これは……一体どうなったんだ……? 全員……って訳じゃないけど、さっきまで騒いでいたクラスのみんな……ケンジまで、動かなくなってる……。」


 その義雄の疑問に、タケルは静かに微笑みながら答えた。


「もう面倒くさいから、僕が金縛りをかけたんだよ。だから、かかった人たちは声も出せないし、動く事も出来ない。……ああ、義雄君、心配しなくてもいいよ。息はできるし、目だけは動かせるようにしてあるから」


 そのタケルの言葉に、義雄も、そして後ろから見ていた絵里も、驚きの表情を見せた。


「金縛りって……あんた、幽霊か化物なの……? もうこれ、心霊現象じゃない……」


「タケルはただ強いだけって訳じゃない、って事なのか……? これは驚いた……」


 動けるクラスメート達がザワつく中、タケルは金縛りで動けなくなっている者達に向けて話しかけた。


「ごめんね、あんまり騒がしくて、もう面倒になったから、つい黙らせちゃったよ。あのね、ケンジ君の手は確かに折れたけど、皆がそのくらいの怪我で騒ぐのは駄目だよ。これは彼に与える罰の一つなんだから。彼は今日、この痛みに耐えながら過ごす事が求められているんだ。分かるかい?」


 タケルは、まるで皆の心の中を覗き込むように、そう言ったのであった。


「以前、僕がヒロユキ君達に殴られて怪我をしたときも、君達は何もしてくれなかったし、病院にもすぐに行かせてくれなかった。だから、それと同じだよ。……と、そうそう、話の途中だったね。静かなうちに、ついでに言っておこうか。えーと、ケンジ君……」


 タケルは、顔をまたケンジに向けた。ケンジは、しゃがみ込んだままピクリとも動かず、脂汗をかきながら必死にタケルの方に目を向けている。


「君みたいな、小賢しい人の助けは要らない。あと、さっき僕に謝ってくれてたけど、あれはただ僕へのバカな発言に対してで、僕へのイジメについては、まだ謝ってないと見なしてるからね」


 そして、タケルは周りを見渡し、また口を開いた。


「まだ僕に謝っていない人は、早く謝りに来て、償いを始めた方が良いよ。早ければ少しは罰も緩くなるからね」


 その声は、大きい声でもないのに、何故か皆の頭に響いたのであった。

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