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降参しないんだね

 適当に腹を数発殴った後、タケルは、ヒロユキを投げ捨てるように地面に放り投げた。ドサッという音が、鈍く辺りに響く。


「ううっ……ぐっ……」


 ヒロユキは放り投げられ、そのまま地面に倒れ込んでしまったが、まだ彼には意識は残っており、なおも立ち上がろうとしていた。


(この時点では、まだ力は全部見せないようにして……と)


 相手に見せるのは、あくまでも人間の範疇という程度の強さまでにとどめておこうと気を付けつつ、タケルはヒロユキに声を掛けた。


「さて……と。ヒロユキ君、もうそろそろ今日は降参するかい?」


「くっ……この……やろう……」


 そう言いながらもなんとか立ち上がったヒロユキは、次の瞬間、大声で叫んだ。


「構わねぇっ! やっちまえ! 取り囲んでボコボコにしろ!」


 そのヒロユキの言葉で、周りの取り巻き達のうち、5〜6人程の男子生徒が近寄って来た。喧嘩に自信の無い男子生徒や女子生徒は、遠くから見ている。


「へっ……最初っからこうしときゃあ良かったのに……」


「……やっばし、ヒロユキ君もプライドあるからね……今回は負けたけどさ」


 そう言いながら近づいてくる取り巻きの男子生徒達の手には、どこから持ち出してきたのか、バットや竹刀が握られている。その表情は、さながら今から獲物を仕留めるハンターの気分にでもなっているのか、得意げだ。


「はぁ……降参しないんだね、ヒロユキ君……愚かなのか、最後まで諦めないと評価すべきか……」


 タケルは呆れたような顔になると、周りを取り囲む男子生徒に目をやった。


「へっ……おい、タケル、今から集団でお前をボコるからよ、覚悟しろや」


「やっぱし、ケンカが強えだけじゃトップにはなれねえよ。人脈のあるヒロユキには、やっぱしお前は敵わねえって事で、ヨロシク」


 そう言いながらバットや竹刀を構える男子生徒達に、タケルは笑って答えた。


「人脈ねぇ……ケンカが強いだけじゃ駄目だという点は、たしかに僕もそう思うよ」


 ゆらりと、タケルが動いたように見えた。


 その次の瞬間、周りにいた男子生徒達に、強烈な突きと蹴りが放たれた。タケルの攻撃に、誰も対応出来ない。


「ぐっ?!」


「ううっ?!」


 周りにいる5人への、素早い連続攻撃。まさかタケルから攻撃してくると思ってなかった男子生徒たちは、誰もかわすどころか、反応すら出来なかった。


 皆、顔面や腹に突きや蹴りを食らい、ある者は鼻血を出して倒れ、ある者は腹を押えてうずくまる。


「ふふっ……5人なら勝てると思った? 残念だったね。僕はそれよりもうちょっと強いみたいだよ?」


 タケルは、腹を押えてうずくまっている一人の男子生徒に近付くと、その顔面を蹴り上げた。


「ぐぶっ……」


 そんな声を上げながら、口や鼻から血を流して倒れる男子生徒。


 タケルは、取り囲んでいた男子生徒達に更に蹴りを入れ、膝を打ち込み、突きを放つ。


「ぐっ!」


「わ、わかった! ごめぅぐっ!」


「あぐうっ!?」


 あっという間に勝敗は決着した。ヒロユキも、残りの男子生徒も、まともに立てる者は誰一人いない。立ち上がれば攻撃されるのを分かっているのか、立ち上がろうともしなくなっている。


 攻撃を受けた男子生徒の中には、鼻を折っている者もいるようだ。うめきながら、鼻をずっと押さえている。


「ま、マジ……? みんなで掛かっても勝てないの……?」


「やべえ……やべえよ……」


 周りで見ていて喧嘩には参加しなかった一部の男子生徒や、女子生徒達から、恐怖と不安の声があがった。


「今日は、このぐらいで良いかな。ねえみんな、明日もちゃんと学校に来ないと駄目だよ? 来なかったら君達だけじゃなくて、君達の家族もやっちゃうかも知れないからね? 怪我してようが骨折してようが関係無いから、頑張ってよ? じゃあまた明日ね」


 そう言って周りを見渡し、誰もタケルに掛かってこない事を確認すると、タケルはゆっくり歩いてその場を立ち去って行った。


(これは読めなかった……こんなにも力の差があったとは……これは、乱世到来か? 波乱の予感か? さあ俺、どっちに付く?)


 等と考えている、ケンジ。


(やばい、やばいよ……あいつめっちゃ強いよ……あと絶対あいつ、超能力か何か使えるよ……ああ、何とかして謝って、あいつに取り入らなきゃ……)


 等とうろたえている、ナツミ。


(あの動き……素人に出来る動きじゃない……と言うか、プロの格闘家でも無理なんでは……? 今日はこの位で済んだけど、あいつ……その気になれば皆を殺せたよね? なんでわざと手加減なんか……? 一体これから何を……?)


 と思案にくれる、絵里。


 それぞれの思いや気持ちに答えは残さず、タケルは立ち去って行ったのである。

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