痛いとすぐに叫ぶんだね
「うぉおおっ!」
タケルの隙を狙っていたヒロユキは、突然叫びながらタケルに飛びかかった。
タケルはスピードでは俺に勝るが、力なら体格の大きい自分の方が有利だ。捕まえてしまえば、こっちのものだ……
ヒロユキは、そう思っていた。
が、ヒロユキがタケルを捕まえようとしたその瞬間、タケルは素早く身をかわすと、飛びかかってきたヒロユキの顔面に、軽く膝を合わせた。
「ぐぶっ!?」と、変な声をあげながら、その場にうずくまるヒロユキ。その鼻からは、血がダラダラと流れていた。
「軽く膝を合わせただけだったんだけどな……」
タケルはそう言いながら、うずくまっているヒロユキの横で、笑いながら彼を見ている。
「大丈夫かな? ねえヒロユキ君、まだいけるよね? その程度の軽い怪我で、降参なんかしないよねぇ?」
「ぐ、ぐぞっ、捕まえてしまえば、お前なんがっ……!」
そう言いながらも、何とか立ち上がるヒロユキに、タケルは優しく声を掛ける。
「ふーん……捕まえてしまえば、どうなるのかな? じゃあ良いよ。ほら、捕まってあげるから、頑張ってみたら良いよ」
タケルは、ヒロユキの前に立つと、その両手をヒロユキの前に突き出してヒラヒラさせて見せた。まるで、掴んでと言わんばかりである。
タケルに、完全に馬鹿にされているヒロユキの様子に、周りの取り巻き達からは、声援とも悲鳴ともつかない声があがる。
「ヒ、ヒロユキ! 何だよ、どうしたんだよ! タケルなんかを相手に!」
「やだ、ヒロユキカッコ悪い! 早くそんな奴、やっつけてよ!」
そんな勝手な事を言っている周りの様子に、タケルはチラッと視線をやった。そして再びヒロユキの方へと向けたその顔からは、笑顔は消えている。
「君のお友達も、ああ言ってるよ? 頑張らないと。まあ、彼等は友達じゃ無くて、ただ強いからって事で、君に付いてきてるだけの人達なんだろうけどね……」
「言われなくても……やっでやる!」
鼻に血が詰まっているせいか、発声しにくくなっているなっているのであろうヒロユキは、前に無防備に突き出していたタケルの両手を掴んだ。二人は、互いに腕を掴み合い、組み合うような体勢になる。
「おりゃああ……っ?!」
そのまま、タケルの腕をを捕まえて振り回そうとしたヒロユキであったが、その顔には驚愕の表情が浮かぶ。
タケルは、ヒロユキから振り回そうとされても、全く微動だにしなかった。まるで大樹のように、その体は動かない。まるで大人と幼児が相撲を取っている……そのような錯覚すら、見る者には感じられた。
「なんだ……御自慢の力もその程度なんだね……」
タケルはつまらなさそうにそう言うと、ヒロユキの腕を掴み、そのまま持ち上げた。ヒロユキの足が地面から離れ、その体が持ち上げられて宙に浮く。
そのまま、タケルはヒロユキの両腕を握っている手に、力を込める。
「うっ、ううっ!? 痛えッ!」
両腕を強く握られて悲鳴を上げるヒロユキを、タケルは鼻をかんだあとのティッシュをゴミ箱に捨てるように、頭の上から、後ろへと投げ捨てた。
「ぐうっ……」
タケルから投げ飛ばされ、背中を強かに打ち付けたヒロユキは、息をするのも苦しそうだ。そのまま立ち上がれずにいる。
「こーんなに……弱かったんだね。痛いとさあ、すぐに叫んじゃうんだ……ヒロユキ君って」
後ろでうめいているヒロユキの方を振り返りながら、タケルは彼を蔑むかのように見つめると、彼の胸倉を片手で掴み、その体を頭上まで持ち上げた。そして、残った片手で、彼の腹に一撃を食らわせた。ドスっという音をたて、ヒロユキのみぞおちにタケルの拳がめり込む。
「ううっ……」
そう言って、苦しげにうめくヒロユキには、もはや抵抗する力も残されてはいなかった。
「さて……程々に痛めつけて……と」
もう一発、ボディにパンチを打ち込みながら、タケルはヒロユキをどのくらい痛めつけるかを考えていた。




