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登校

 タケル――立花たちばな たけるは今、真っ暗な中に一人で佇んでいた。八月の下旬、暑い最中とはいえ、屋外に何故か全裸で。


 彼はたった今、服を全て、下着でさえも取り上げられ、ビデオカメラ一つだけを持たされ、深夜、とある心霊スポットに放り出されたのである。


 彼は、酷いイジメを受けていた。


「ま、待って! お願い! 許して!」


 彼がそう言って必死に頼んでも、イジメをしていた彼のクラスメート達は許さなかった。


「一番奥まで行って、その途中全部、そいつでちゃんと撮影して来い! でねえと服は返さねえぞ! 分かったか!」


「アハハハ、大丈夫ぅ武く〜ん? 頑張って良い画像撮ってきてね〜」


「そのビデオカメラ、ちゃんと返さねえと賠償だからな!」


 そう言われ、イジメているクラスメートの男女達は、彼を足蹴にした。


 そして、仕方なくたけるは、ビデオカメラを構え、裸で心霊スポットの廃神社に向かって行ったのである。


 そして、しばらく時間が経った。


 しかし、何故かたけるは帰って来ない。クラスメート達は、だんだん異変に気付き始めた。


「おい、帰って来ないぞ……ひょっとして……やばいんじゃないか?」


「え、マジ……。 あたし達どうしよ……」


「あ、あの野郎、逃げやがったな! そうだ、逃げたに違いねえ!」


「そ、そうか……逃げたのかもな」


「あいつ、裸で逃げるとかヤバくね? うける〜」


「あいつの服はここに置いといて、もうさっさと俺たちも帰ろうぜ!」


「そ、そうだな! あんな奴のことはほっといて、カラオケ行こうぜ!」


「ビデオカメラは、夏休みが終わったら取り返すか」


 そう言って彼らは、タケルの服をその場に投げ捨てると、立ち去ってしまったのであった。


 辺りには、静寂とタケルの服だけが残された。


 そして、五日後。夏休みが終わった。


 タケルの通う高校も新学期が始まり、皆が登校する。


 タケルは高校二年生であったが、クラスの皆から嫌われ、イジメられていた。


 理由は、制服がみすぼらしいとか、母子家庭で貧乏だとか、大人しくてやり返してこないとか、そのような些細な事であった。


 イジメに対抗して、タケルとその母は、一度警察に被害届を出した事があった。


 しかし、学校のクラス会でイジメた者の代表から形だけの謝罪を受け、イジメた者達は大した処分も受けず、教師も真剣に対処しなかったため、その後のタケルに対するイジメは余計ひどくなり、巧妙になり、悪質になった。


 そんな中、新学期最初の日、クラスメート達が教室に遅刻ギリギリで入って来ると、彼……タケルはそこに居た。


 タケルは、何事も無かったかのように、教室の席に座っていたのである。


 その顔には微笑みがたたえられ、それはまるで……これからの高校生活が楽しみで仕方ないかの様であった。


 タケルをイジメているクラスメート――といっても、イジメていない者はいないのであるが――のうち、タケルを廃神社に置いてけぼりにした者たちは、タケルがあの時逃げたのだと思い、怒りの表情を浮かべながらタケルに近付いていった。


「おい、お前あの時逃げただろ!」


「いや、あの後一番奥まで行ってきたよ。ずーっと奥までね、おかげで大変な事があったよ」


 そう言って、タケルはそのイジメをしているリーダー格の男……ヒロユキの顔を、楽しそうに見つめたのであった。

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