あの日
孤児院の院長はこの申し出を受け入れた。
別に彼(院長は初老の男性だ)をせめる気は毛頭ない。
元が圧迫面接のようなものだったのだ。ただ、院長がこの事を伝えたとき(彼は正直に、この実験の危険性も訴えた。だからなのか…)、みんなの関心は自然と一人の少女へ向かった。
「京子ちゃんがやればいいじゃん。」
「どうせヒキコモリだしな!」
僕より一年年下の子の、中心的な人たちはこぞって彼女を推薦した。
これは非常にまずい流れだ。
僕は彼女を危険な目に会わせたくなかった。
なぜか?僕は京子のことを憎からず想っていたからだ。
私情上等。彼女は絶対に守ってやらねばなるまい。
「そんなら僕がいきますよ。」
みんなが(主に京子とさっきのいじめっこ達が)目を丸くした。
「でもねぇ…児童監督の君がいなくなると…」
院長がなんと言おうと関係なかった。これまで築き上げてきた信頼を壊すかもしれぬ、むしろ積極的に崩しにいくように下衆な笑みを浮かべて、最低な一言を放つ。
「はあ?目の前に、真っ先に助かれるチャンスがあんだぞ?何でみんなが立候補しないのかが不思議でならんねぇ!」
孤児院にいた人全員が、僕を軽蔑しただろう。でもいい。
まあ女子を守って死ぬなら、僕の死にざまとしては及第点だろう。
ただ、心残りと言えば、京子にも軽蔑されたことかなぁ…
感慨に耽っていると、あれやこれや準備がすんだらしく、係りの人から声をかけられた。
平行世界に飛ぶための装置は、人工冬眠のカプセルを彷彿とさせるデザインだった。そこに寝転び、静かにその時を待った。
10,9,8,7,6,5,…と、その時…
カプセルに京子が張り付いて、何かを話していた!
僕はびっくりして、冷静に口の動きを見られなかった。(このカプセルのなかは、外のおとがなにも聞こえなかった。)が、うろ覚えの記憶によると彼女は
「ありがとう!」
と言ったようで、
(心残りができたな…)
と思いつつ、静かに意識を手放した。